第9話
僕は30分ぐらい走り、やっとのことで家に向かった。
「玲!」
病院から電話があったのだろう、母親は困惑と焦りの表情で出迎えてくれた。
「…とりあえず、入りなさい。」
病院を抜け出したことには何も言わず、母親はそう言って僕を家の中に入れた。
実家に戻ったのは、三週間振りだった。
僕はこの後、母から事情を聞いた。
朝、白井が家を出て学校に向かっていた所、横断歩道で乗用車にはねられたこと。彼女は即死で、救急車も間に合わなかったこと。運転手は、早朝まで飲んでおり、多分アルコール分が抜けきっていないまま出勤していたこと………全て、どこかのドラマでありそうな話だった。
最初、僕は母の話を信じなかった。いや、信じたくなかった。僕にあんだけ「人生楽しめ」と言っていた彼女が、僕よりも先にいなくなってしまったのだ。彼女は無責任だ。
「…とりあえず、玲は病院に戻りなさい。車で送っていくから。」
色々と話し終わった後、母は静かに僕にそう言い、病院まで送ってくれた。病院は、僕がいなくなったことでざわついていた。
「黒川さん、心配しました!」
何人かの看護師にそう言われたが、僕はそれに対して反省も何もしなかった。頭の中は、彼女の一件で埋め尽くされていた。
僕は、急に体に穴が開いたように、何もできなくなった。
自分でも不思議なぐらい、動けなくなった。
身体は言うことを聞かなくなったし、一日寝ることが多くなった。
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