第8話


朝、病室で看護師による健康観察が終わり、のんびりしていた僕は、自分の携帯が鳴っていることに気づいた。

着信は、母親からだった。

母親が「今日の体調はどう?」と電話を掛けてくることは何度かあったが、朝掛けてくるのは初めてだった。



「白井さん家の唯ちゃんが亡くなった。」



開口一番、母親はそう言った。

「…………は?」

僕は、母親の言葉が信じられずに聞き返した。

ただ、母親が再度その言葉をいうことはなかった。その代わり、電話口でズズッと鼻をすする音が、やけに耳に響いた。

「今朝っ、し…白井さん家から、電話があったの…。横断歩道を、唯ちゃんが渡っていた時……信号無視の乗用車が…。」

母親の弱弱しい声は、僕の耳にしっかりと届いていた。

僕はすぐに電話を切って、ベッドから降りた。そして、次の瞬間には右手に繋がれた点滴を引き抜き、携帯だけを持って外へ飛び出した。

ここで今看護師を呼んで事情を説明し、車いすなどを用意される時間がもったいない。自分で走っていく方がずっといい…電話で聞かされたことを、僕は自分で確かめなければ気が済まなかった。



『立って歩かないと体力落ちるよ?』



昨日、そう言って笑っていた彼女の姿が、僕の脳裏で鮮やかによみがえった。

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