第7話
1時間程経って、白井は大きな袋を二つ提げて病室に来た。
「どうしてそんなに買ったの?」
僕は、来たばかりでまだ息が上がっている彼女に聞いた。
「実はね~、駄菓子屋のおばあちゃんに黒川くんのことを言ったら『これも届けてあげて』って色々とサービスしてくれたの!」
彼女は僕に、駄菓子をいくつか渡した。「好きなものは、黒川くんが食べてね。」
「ありがとう。」
僕は、いくつかお菓子を受け取り、彼女と雑談をしながら食べ進めた。駄菓子はどれも、懐かしさを持っていて美味しかった。
「白井はさ、将来何になるの?」
話が途中で一区切りついた時、僕はなんとなく疑問に思って彼女に聞いた。
「いやぁ~、普通に大学進学して、企業に就職かなぁ。」
「ITとか?」
「あまり業種は考えてこなかったな…別に、楽しいと思える場所ならいいよ。」
あまりにも彼女らしいその答えに、僕は思わず笑ってしまった。
「別に変なことは言ってないと思うんだけど!」
彼女は少し慌てて続けた。「なんでも興味を持ってやる方が、後々いいことがありそうな気がするんだよ! 自分の可能性を見つけることもできそうだし。」
「自分の、可能性?」
「そうそう。もしかしたら黒川くんも、全然興味のないことを始めたら、好きなことが増えるかもしれないよ。」
僕は一瞬考えて、言った。「別に見つからないような気がするけど」
「何事も挑戦だよ。早く外の世界に出て、冒険でもしよう!」
「急にゲームみたいな話になったな…でも、もしできたら、いいな。」
「うん!」
彼女は、僕以上に嬉しい顔をして頷いた。彼女はずっと、僕にとって眩しい存在なのかもしれない。
話が弾んで長く話してしまい、気づけば空がオレンジ色になっていた。
「そろそろ帰った方がいいんじゃないか? 家まで少し遠いだろ。」
「まぁ、そうだね。また来た時、黒川くんがやりたいことを教えてね!」
彼女は僕と話を早々に切って、今度は落ち着いた様子で病室から出て行った。僕はベッド横に置いてあるデジタル時計を見た。体感だとそんなに時間が経っていなかったように思ったが、実際は3時間以上話し込んでいた。楽しい時間はあっという間に過ぎるとは、こういうことを言うのかもしれない。
病室の外は、綺麗な夕日が見えていた。彼女も、この夕日を見ながら家に帰っていると想像すると、どこか共感を覚えることができた。変な思考かもしれないが、今の僕にはこういうことを考えるほかない。
『黒川くんも、全然興味のないことを始めたら、好きなことが増えるんじゃない?』
僕は、ふと彼女がさっき言った言葉を思い出した。好きなことは、僕にはない。それでも、何かに挑戦したら、自分の好きなことが見つかるのかもしれない。そして、残りの人生を、自分の力で少しずついものにできるのかもしれない。
僕は近くに閉まっていたパソコンを立ち上げた。そして、検索欄を出す。次に彼女がやって来た時、意外だったと思わせるようなことでも考えておこう。そして、人生を少し変わったものにするのも悪くないと、自分で思えるようにしよう。
僕は、光を見つけたように明るくなった。
彼女が亡くなったのは、その次の日だった。
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