第2章 死神リスト

 「紅茶淹れますね。中にどうぞ」


 時計の針が、カチカチ鳴っている。とても静かで穏やかな午後だ。お母さんが大事にしていた頂き物の紅茶をティーカップに注ぐ。


テーブルの上に紙が置いてあった。そこには知ってる名前と、知らない名前が年齢を添えて書かれていた。


 「結論から言うと、この中から死ぬ人を選んで頂きたい。正確には、赤ちゃんに付いている死神をこの中の誰かに肩替わりしてもらう。それは、るみさんに関係のある人間でないと駄目なの。」


 「咲元しのぶ55歳....お父さんだ。」


 「白岩しろいわはやた27歳。この子の父親....」


 「この人は...」


 「白岩みなみ30歳...この方は奥さんよ。多分、面識は無いと思うけど」


 当たり前だけど、彼の奥さんは当事者なんだ。


私が彼と居たとき、この人はひとりぼっちだった。


ドライブにいって、ラベンダー畑で私が笑っていたとき、どんな顔をしていたんだろう。

彼の温もりを感じた夜に、冷たいベッドで帰りを待つ。詰まった砂時計は時間が分からないよね。私が詰まらせたんだ。


 「それと、やしろゆきや16歳。ゆきや君は、るみさんのお友達?」


 「え? ゆきや?」


妄想に堕ちた私の耳に、聞き覚えのある名前。

ゆきやが、何でリストに...


 「ゆきやは、幼馴染みで隣に住んでいます。高校も一緒だけど、最近は殆ど話してない」


こんな紙切れになんの意味が有るのだろう。骸骨に鎌のイラストが描いてある。表題には死神リスト...執行期限...


 「あの、執行期限が8月1日になってるけど、今日が7月22日だから後10日って事でしょ?赤ちゃん産まれてないけど、死神は他の人に移るの?」


真波さんは、鞄から手帳を取り出した。


 「緊急事態なので、10日で産まれてきます。これ、母子手帳です。それと、私がずっとそばに居ます。

困った事あったら遠慮なく言ってね」


 「あと、るみちゃんって、呼んでいい? 私の事も好きに呼んでいいからね」


 「あ、うん。いいよ。まなちゃん...かな?」


 庭から自転車のブレーキ音がする。買い物袋を両手に持って、お母さんが帰ってきた。


私は母子手帳をポケットにしまった。

心臓がバクバクする。どうしよう。

なんて言えばいいの?怒られるかな。

お母さん、泣くかな.....


 「あっ、持ちますよ」


まなちゃんが、買い物袋を受け取る。小さい体が震えている。なんとか廊下を進む姿を、お母さんが眺めていた。


 「ありがとうね。まったく、るみったら何もしないでね。見習って欲しいものよ」


 まなちゃんは袋を下ろすと、ふぅ~っと息をした。


 「何でも言ってください!るみちゃんが元気な赤ちゃん産めるように私、全力でサポートしますから!!!」


 「赤ちゃん....?」


 唖然とする母。母の手を力強く握る、まなちゃん。


 「ああ、西日が目に染みるなぁ」






 

 

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