9 名探偵?柳生順平参上!

「信じられへんわ!」

 作業前の朝礼。その日も、梅木さんの金切り声から始まった。

「常識ってもんがないの!」

 今日の梅木さんの怒りの原因は、沢田さんの組んだワークスケジュール。休憩時間の直後にレジを入れられたのが不満らしい。

 意味がわからない。休憩直後にレジを入れてはいけない理由は、見当もつかない。聞いた事がない。あったとしたら都市伝説の類だ。

 ワークスケジュールの内容より、梅木さんの仕事を割り振りする沢田さん、その立場が腹立たしいのだろう。医薬品登録販売者の資格ののない梅木さんは、責任者にはなれない。

 どれだけ声が大きかろうが、どれだけ自信満々にふんぞり返っていようが、沢田さんがいなければ、今、店は開けられない。歴然と沢田さんが上なのだ。

 都市伝説を盾に攻め立てられる沢田さん。目が死んでいる。無言のままスケジュールを修正する。

 勝ち誇った顔の梅木さん。吊り上がった目つきが醜悪の極みだ。

 ここで何か言わなければ。覚悟を決めるように右手を握りしめる咲哉。

 ふと沢田さんが持った社内用の携帯が鳴る。

「はい、沢田です」

 “ふーんだっ!”と、小学生がするようなしぐさで顔をそむけ、持ち場へ戻っていく梅木さん。

 あまりのみっともなさに、見てる方が気恥ずかしくなる。

「あ、はい、わかりました」

 本部からの電話のよう。沢田さんの目に少し生気が戻る。

「本城君」

「はい」

「スクラッチカード全部あつめてくれる?至急本部に送らなあかんねん」

「わかりました」

 “凶”が出た事で、スクラッチカードの配布は既に休止している。

 レジ回りとバックヤード。残っているカードを集めて回る咲哉。カードに目をやると、先日の障害事件の事が頭をよぎる。

 “凶”を引いた客がふたりも命を落とし、三人目が襲われた。

 考えたくない事だけれど、この店になんらかの関わりがあるように思える。

 被害に遭った旅行者は、まだ意識が戻らないらしい。

 事件直前、レジを担当してカードを渡したのは田中さんだった。ショックを受けた様子で、しばらくバイトは休むらしい。

 田中さんから引き継いで、被害者への接客をしたのは市井さん。元気が取り柄の市井さんだ。

「私は、大丈夫でーす!」

 いつもの意味不明なオーバーアクションで、手を振り上げて元気をアピールしていた。しかし顔面は蒼白。完全に空元気。無理もない。

 その場には波窪さんもいたらしい。筆頭ベテラン正社員。何かあった時には、先頭に立って問題解決にあたらなければならない立場。誰も期待はしていないが、前に出た形跡は微塵もない。

 しかし、その時の様子を、何故か自分の手柄のように自信満々語っていた。

 被害者は大柄そうな感じの悪い中年男で、酒の臭いをプンプンさせていた。如何にもやっかいな客。そんな客が“凶”を引いてしまったのだそうだ。

 ショックが連鎖したのか、他に理由があったのか、二階堂君も岩崎さんも急遽休みになっている。岩崎さんは就職活動のため、そもそもバイトはセーブしているようだ。それでもシフトに穴があいた。今日の咲哉の出勤も、休みの学生達の穴埋めだった。

「ご迷惑おかけしました」

 入口付近で、聞き覚えのある声がした。二階堂君だ。

「大変やったね」

 慰めのような言葉をかけたのは勝山さん。

 何があったのだろうか。疑問を持ちながらも作業を続けていた咲哉。

 少し離れた所にいた沢田さんが涙ぐんでいるように見えた。それは梅木さんにいびられたせいではないように思えた。

 事の次第は、挨拶に来た二階堂君が去った後、休憩時間に勝山さんから聞いた。

 長く患っていた二階堂君のお母さんが先日亡くなったのだそうだ。

 知っていたら、何か言葉をかけてあげたかった。

このご時世もあり、ひとりで静かに見送ったのだという。

 母子家庭の苦学生です。そう言って笑った二階堂君の顔が浮かぶ。女手一つで育ててくれた大切なお母さんだ。

 覚悟は出来ていたので大丈夫です。ちゃんと就職が決まって安心させてあげられて良かったです。そんな風に気丈に語っていたという二階堂君。

 あの笑顔の裏で、どんな覚悟を持っていたのだろう。

 胸が詰まる。

 かけて上げられる言葉など、何もない。

 一日中気分は重く。悪魔と戦う気力など到底わくことはなく、淡々とルーティーンをこなすだけで、バイト時間は終わってしまった。


 家に帰って、服を着たままベッドに倒れこむ咲哉。

 気になる事はたくさんある。恩人である沢田さんの事。死を呼ぶスクラッチカードの事。店に関係するかもしれない事件の事。この先の人生の事。

 しかし、疲労のせいか、頭の中がベランダのむこうに見える曇り空のようにどんよりしている。思考から逃げるように、眠りに落ちる。ちょうどその時玄関のチャイムが鳴った。

 ビクッとして飛び起きる咲哉。玄関に走る。慌てていたせいか、確認もせずに扉を開け、驚愕のあまり言葉を失った。

「本城咲哉君」

 言葉を失うばかりか、腰を抜かしたようにその場にヘタリこんだ。

 咲哉を驚愕させた二つの事実。

 目の前に立っていた中年男。左手には大きな紙袋。そして右手の中、咲哉に差し出したのはスクラッチカード。浮き出た文字は“凶”。

 そして、その男。黒マスクにサングラス。ベージュのトレンチコート。

 しゃがみこんだまま顔を上げ、ようやく絞り出した言葉はひとこと。

「J…」

 ブラックリスト客”J”。意味不明な言動で咲哉を困らせた。結局、沢田さんに言いくるめられて、ご機嫌で酒を買って帰った客。

「悪いけど邪魔するよ」

 止める間もなく、ツカツカと靴をぬいで上がり込むJ。

 泥棒か、強盗か、とにかく厄介な客レベルではない。ようやく正気を取り戻して後を追う咲哉。

「で、で、出て行ってください!」

 咲哉に出来得る精一杯の威嚇を籠めた叫び。不法侵入者に敬語の対応。まるで迫力がない。梅木さんの“おはよう”の挨拶にも及ばない。

「まあ、まあ、まあ」

 怒る咲哉を適当にいなして、サングラスを外し、にっこり笑うJ。その目の奥は案外優しい。少しほっとする咲哉。

 いや、ほっとしている場合ではない。

「懐かしいなぁ…」

 リビングのソファーにすわり、部屋を眺めてそう言うJ。

「な、な、懐かしいって、勝手に、人の家…」

「一年程前まで、ここに住んでたんだ」

 咲哉の親が所有する家。ここに越してきたのが一年程前。それまでは賃貸で人に貸していた。その住人なのだとしたら、懐かしく感じるのは頷ける。

 いや、納得している場合ではない。

 契約が終了した後、勝手に上がり込んで懐かむ権利のある賃貸契約などない。

「息子が住むから出て行けって、急に言われてさ、ひどいよ、君のオヤジさん」

「え?父の知り合いなんですか?」

「そうさ、カメラマンの本城正義。学生時代の先輩だ」

「ほんとに?」

「ほんとう」

 Jの顔をじっと見つめる咲哉。嘘をついているようには見えない。しかし、それにしても不法侵入には変わりない。しかも、手には、連続猟奇殺人事件に関わるかもしれない“凶”のカード。

 ただの強盗より恐ろしいかもしれない可能性に気付いて、一歩下がる咲哉。

「ああ、これか」

 咲哉の怯えに気付いて、カードを見るJ。

「本部から、もらってきたんだよ」

「本部?」

「当事務所は、ドラックパピヨンと業務委託契約をしている」

 そう言って内ポケットから名刺を出すJ。

 柳生探偵事務所。所長柳生順平。

「柳生だ」

「十兵衛ではないんですね?」

「ない。よく言われる」

 探偵は、本部から仕事を請け負っているのだという。

 仕事内容は、社内の不正を暴く事。商品の横流しや同業他社への情報流出。しかしそんなものはめったいない。主な仕事は、内密に従業員の働きぶりを調査すること。客のフリして潜入調査。密かに主婦の間で人気度アルバイト。いわゆるミステリーショッパーのような事をしているらしい。

 Jを面倒くさい客と評した二階堂君。面倒くさいには、一応理由があったようだ。

 外部委託をしてまで、従業員の調査。その結果、波窪さんのあり得ない仕事のしなさっぷりは野放しで、梅木さんはやりたい放題、同僚イビリを繰り返す。そんな無駄なお金があるなら、沢田さんや市井さんに働きに見合う給料を払ってあげて欲しい。

「告げ口みたいな仕事ですね」

 つい棘が出る咲哉。少し気まずそうに仕事のアピールを始める探偵。

「一年程前は、マスクの横流しの調査にあたったんだ」

 マスクパニックの頃だ。転売が横行して、価格が急上昇した。

「スタッフの横流しがあったんですか?」

「ああ、怪しいのがあったよ、君の店でも。バイトの子。鎌をかけたら、逃げるように辞めていったから、本部の指示で深追いはしなかった。店のイメージを傷つけても良くないってさ」

 そんな人がいるだろうか。ごく一部をのぞいて、にんな良い人だ。一瞬考えて、辞めていったのなら知るわけがないと思いなおす。

「そして、今回」

 そこで言葉を切ってじっと咲哉の顔を見つめる探偵。もったいぶるように、ひとつ大きなため息。

「スクラッチカード連続殺人事件」

「やっぱり連続殺人事件なんですか」

 間違いないとばかりに、大きくうなずく探偵。

「実を言うと、私は、この仕事に就く前、京都府警捜査一課の刑事だった」

 ゆっくりと大仰にそう言う探偵。

 今はミステリーショッパーだけど、という言葉をごくりと飲み込む咲哉。

「まずは、ここから調査だ」

 そう言って、大きな紙袋の中身をテーブルにぶちまける探偵。それは咲哉が店で集めたスクラッチカードだった。

「さあ、いっしょに削ろう」

 十円玉を差し出す探偵。

「なんで?」

 ごく自然な、初歩的な疑問を口に出す咲哉。

「ひとりで削るのは、大変じゃないか」

「いや、なんで僕が?それになんで僕の家で?」

「私の部屋は狭いんだ」

 そこじゃない。

 すれ違い続ける押し問答。

 気付くと咲哉の右手には十円玉が握られていた。この不本意な状況を、出来るだけ速やかに終わらせるのは、これしかないと判断した。

 紙を擦る音だけが響く部屋。数時間の末、結局“凶”カードは出なかった。

 テーブルに山積みのスクラッチカード。“凶”の文字は、探偵が持ち込んだ1枚のみ。それは印刷会社に行って、去年紛れたロット分が残っていたので、1枚もらってきたそうだ。

「出ませんでしたね…」

 何故か巻き込まれた徒労に溜息をつく咲哉。

「今回新たに印刷ミスが起こって、紛れ込んだというわけではなさそうだ」

「1年前のカードが紛れ込んでいたという事ですか?」

「誰かが隠し持っていた」

 やはり店のスタッフの誰かが事件に関係しているのか。胸がざわつく。そんな事は考えたくない。いや考える必要はない。自分はただのアルバイトだ。いったい何をやっているのか。

 我に返る咲哉。

「じゃあ、スクラッチ削りは終わったんで、そろそろ帰ってもらえますか?」

「捜査は始まったばかりだ」

 またも論点がすれ違う。

「捜査は警察の仕事でしょ」

 人の命がかかっている。マスクの横流しとは、わけが違う。

「公僕たる警察の仕事は、犯人を捕まえる事だ。私たちには関係ない。我々は警察ではない。我々の雇い主はドラックパピヨン。もしも、配布したカードを利用して連続殺人事件が行われたとしたら、それは忌々しき問題だ。イメージダウンを最小限にとどめるために、一刻も早く真相を突き止めなければならない」

 頭を押さえる咲哉。すらすらと探偵の口から流れ出る屁理屈に、めまいを覚える。

「僕はただの店舗スタッフです。しかもアルバイトです。時給960円です」

「なるほど」

 納得したように頷く探偵。

「危険手当を支給しよう」

「いりません」

「咲哉君には潜入捜査をしてもらう予定だ」

 当然のようにそう言う探偵。

 勝手に予定を組まないで欲しい。

 真冬に、調子の悪い冷凍庫の霜取りのを命じた時の沢田さんの方が、よっぽど申し訳そうな顔をしていた。

「既に潜入は完了しているのだから簡単だろう」

「簡単じゃないです。やりませんよ、同僚を疑うような仕事」

「まず事件の概要を整理しよう」

 咲哉の抵抗を気にする気配もなく、淡々と話を進める探偵。身近で起こった大事件に興味がないわけではない。いつしか耳を傾ける咲哉。


 最初の事件は1年前。

 死亡したのは青木康男。45歳。無職。

 市営住宅に妻と娘とともに住んでいた。暴力的で過去に傷害事件の前科有り。店での通称、ブラックリスト客B。アル中男。

 家族がいる事は初めて知った。どうやら一家揃って問題多発のろくでもない客だったらしい。妻と娘は万引きの常習犯。家族の仲は悪く、夫婦喧嘩で警察沙汰になった事もあった。

 そんな青木康男が“凶”を引き、店で大暴れした。レジをしたのは杉浦さんで、その場には当時の店長もいた。それでも騒ぎは収まらず、その喚き声が店の外まで響いて、警察官が駆け付ける騒ぎになった。         

 そしてその日の深夜、市営住宅の階段から転落して死亡。

 当初家族が疑われて取り調べを受けたが、証拠不十分で釈放。結局事故として処理された。

 店では“凶”を引いたBが死んだと、一時オカルト的な話題で盛り上がった。そんな事があったから、杉浦さんは凶が出ると死ぬと冗談で言ったのだろう。

 次に第二の事件。目撃情報などから、第一の事件後、そう日が立っていないと推察される。

 日野耕作。62歳。無職。

 市営住宅に一人暮らし。何かと暴言を吐き、近づく者はいない。その事が遺体発覚を遅らせた理由のひとつだと思われる。心配して探す者は誰もいないのだ。婦女暴行の前科。離れて暮らす息子が、問題を起こす事を恐れて金銭援助だけはしていた。店での通称、ブラックリスト客A。セクハラ野郎。

 廃棄したはずの“凶”カードが紛れ込んでいて、日野耕作が引くことになる。

 その時レジを担当したのは田中さん。その場には二階堂君もいて、責任者は波窪さんだった。自宅からはその日のレシートと、事を収めるために渡した景品が見つかっている。波窪さんが対処した事になっているが、そこは少し疑問だ。波窪さんにはそんな能力も責任感もない。

 セクハラ野郎は特に美人の岩崎さんに執心していた。しかし、大人しい田中さんにも度々絡んでいた。その時も田中さんを執拗に攻め立てたに違いない。二階堂君が田中さんを守るために、間に立ってバックアップをしたのだろう。

 遺体の状態やその後の目撃情報などからみて、その後数日以内には頭部を殴打されて死亡。工事現場での遺体発見が2か月前。

 そして第三の事件。

 渡辺栄一郎。48歳。会社社長。

 東京在住。離婚歴有り。起業して成功を収めた経営者。強引な手法で会社は急成長。恨みに思う人物が多数。しかしコロナの影響で急激に業績悪化。多額の借金を背負い、逃げるように京都旅行。

 偶然立ち寄ったドラックパ13号店で“凶”を引く。そして、直後に何者かに頭部を鈍器で殴打され意識不明の重体。自宅からは遺書のようなメモが見つかっている。

「第二の日野殺害事件と今回の渡辺殺害未遂事件、凶器が一致する可能性が出てきたんだ」

 京都府警にコネがあるのだろうか。それが本当なら、完全に連続殺人事件。

 スクラッチカード、”凶”を引いた二人が命を落とし、一人が命の危機。店と全く関係がないとは思えない。ずっしりと体が重くなった気がする。

「店のスタッフ、中でも店に恨みを持つ者が、事件に何らかの関わりを持っている可能性が考えられる」

 咲哉の悪い想像が、はっきりと探偵の口から語られる。

「誰が怪しい?」

 同僚を疑うなど、考えたくもない。じっと咲哉を見つめる探偵。仕方なく一番悪魔に近い人の名を口にする。

「梅木さん?」

「それはない。1年前はあの店にはいなかった。彼女は性格が悪いだけで殺人鬼ではない」

 困惑して頭をかく咲哉。

「じゃあ、波窪さん」

「願望だけで答えるな。彼は、殺人なんて、得にもならない面倒くさい事はしない」

 確かに、捕まって、退職して、もう少しましな人が来たらみんな楽になるのに、という願望を言っただけだった。 

「例えば、1年前、そして今、店に苦しめられいる人はいないか?」

 思い当たる節はある。それは決して認められない。

 きつく口を結ぶ咲哉。

「1年前の店長がパワハラでクビになってる。ちょうどマスクパニックの頃で労働環境も最悪だった、そして今」

「沢田さんはそんな人じゃありませんよ!」

 我慢できずに、口を開く咲哉。不敵な笑みを浮かべる探偵。

「ご明察。現在の最有力容疑者だ」

「そんなバカな」

 通りがかりの高校生の命を、ひとりで必死に守ってくれた沢田さんの顔が浮かぶ。しかも、そんな表彰ものの善行を恩に着せるでもなく、よくある事と、ろくに覚えてもいないのだ。根っからの善人だとしか思えない。

「ひとつは、1年前と今、大きなストレスを抱えて、精神のバランスを欠いている。二つ目、今回の事件で防犯カメラの映像がない。防犯カメラに何らかの仕掛けが施された可能性がある。つまりそれなりのパソコンスキルを持ったスタッフであること。三つ目、簡単には辞められないバツイチの女性で身分の不安定な準社員」

 真顔で疑う理由を淡々と列挙する探偵。

 確かに理屈は通っている。しかし、沢田さんがそんな人ではない事を、咲哉は確信している。

「絶対違います」

 探偵の硬い表情が一瞬崩れる。

「一緒に探そうじゃないか」

「はい?」

「真犯人」

「でも」

「助けたいだろ、命の恩人」

 詐欺だ。完全に騙された気がする。

 先輩の息子だという事が関係するのか。理由はよくわからない。

 ただ、全て知った上で、わざわざ咲哉を巻き込んだのだ。

 しかし、嫌とは言えなかった。

 結局、柳生探偵事務所の探偵助手として潜入調査をすることになった。時給960円プラス割増賃金50円。

 部屋を出て行く探偵。一歩足を踏み出し、最後に一度振り返った。渋い表情を作るように、眉を寄せる。

「私はJと呼ばれているのか?」

 不意の質問にうろたえる咲哉。ブラックリスト客コードネームJ。10番目。そこそこ迷惑で程々に雑魚な困った客。

 J。突然自宅に現れた時、つい呟いてしまった事を思い出す。

 そろそろ汗ばむ季節になっても、トレンチコートを纏うハードボイルド気取りの目の前の男。

 言えない…。

「かまわない」

「はい?」

「Jと呼んでもらってもかまわない」

 探偵の名は柳生順平。順平。素直で平。イニシャルJ。

 どうやら、気に入ったみたいだ。

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