第6話 帝国と村

―――――――――

ふふふふ

真っ赤に染まった手を眺めてうっとりする。

そこらじゅうに動かなくなった人々の屍が転がっている。

それらを一瞥すると、頬にできた小さな傷を撫でた。

「あーつまんない」

―――――――――



にこくんに握られた手はいつの間にか離されており、気づけば知らない場所に来ていた。

目の前には木のテーブルと椅子が置いてあり、左側にはハンモックが1つ、右側は本がごちゃごちゃしており汚い。

状況を整理していると、にこくんが座りなよと椅子を指差した。

「あ、ありがと」

僕が椅子に座ると、ローブを着た男の人があらためて自己紹介を始めた。

「私にこの師匠兼お目付役のシーファンと申します」

「僕はしろです。先ほどまでいた村の住人です」

にこくんはどこからか用意した飲み物をそれぞれの目の前に置くと、自身も椅子に座った。

「で、師匠どうなの?」

「そうですね。あまり時間がないような気がしますね」


シーファンは淡々と現状について教えてくれた。

現在この国の周りは闇に支配された魔獣達が、帝国に向かってどんどん進行している。

帝国は四龍しりゅうと呼ばれる4名がそれぞれ防壁の門を守っており、帝国の城壁内にいる人々は魔獣のことも門の外のことも何も知らず暮らしているらしい。

四龍並びにその直属の兵達はあくまでも国に仕える兵なので城壁の外の村人を守ることはほとんどないらしい。

村の住人達は、帝国に自分達の村を守るように訴えたそうだが、聞き入れてもらえなかったそうだ。

業を煮やした村人達は不仲だったはずの他の村とも協定を結び助け合いながら生活しているそうだ。

しかし村の住人達は守ることに精一杯で疲弊してきており、闇の魔の手はじわじわと帝国に近づいてきている。


「あのさ?」

僕は2人に気になっていることを聞いた。

「どうして魔法で城壁を破壊しないの」

「どうも何も」

にこくんは一呼吸置いて続けた。

「結界が張ってあるからだよぉ〜」

じっくり考えればわかりそうなことではあったが、まだ完璧に状況を理解できていないようだ。

「あれ?でも結界があるなら城壁を守る人もいらないんじゃ?」

「あぁ〜結界も完璧じゃないからね」

にこくんはどこからか出した大きなパンを食べながら答えた。

「あっ」

にこくんが何かを思い出したように、残っていたパンを一気に平らげた。

あの小さな身体のどこに入るのだろうと感心する。

「何かあった?」

「僕呼ばれてるんだった……。しろごめんね。ここにしろを残せないから……えーっと」

急に歯切れが悪くなった。

「僕1人ではここに残れないんだね?」

こくんとにこくんは頷いた。

「しろは村の人を探すの?」

「そうだね。村の人も心配しているだろうし」

「そっか〜じゃあここでお別れだね。僕は直接目的地に飛ぶから。戻る前に最後に1個だけ」

そう言ってにこくんは僕に「ごめんね」と耳打ちをした。

どういう意味?聞こうと思ったが空間がぐにゃりと歪んだ。

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