第8話


 僕にとって人生で初めてのデートを終えた次の日、いつものように月曜日がやってきた。


 昨日速水さんと過ごした時間が幸せ過ぎて、その余韻に浸ったままだった僕は学校で少し意外な展開に遭遇する事になる。


 いつもなら僕より先に学校にいるはずの麗香が今日は見当たらなかったのだ。


 別に寂しいとか、いて欲しいと思っていた訳ではない。


 むしろいつもより静かな時間を過ごせると、別に探したりわざわざ連絡もせずにいた。



「さっき連絡があったんだが、新子は体調不良で今日はお休みするそうだ」


そのまま時間が過ぎて始まったホームルーム。教師が開口一番にそう言った途端、教室が落胆に包まれた。皆麗香がいないという事に悲しんでいた。


 そんな中僕はというと、ただ驚いていた。


 これまで麗香は何かあると別に頼んでもいないのに必ず僕に連絡をしてきていた。


 今日みたいに休む時も、いつもなら学校に着く前には本人から直接連絡が来ていたと思う。


 それが今日はなかった。


 この時点ではまだ驚いただけ。連絡もおっくうになるくらい具合が悪いのかもしれないと考えていた。


「麗香ちゃん大丈夫かなぁ」

「あぁ、心配だな」

「昨日も急用が出来たって結局遊べなかったしね~」


だが、周りから聞こえてきた会話で少し引っかかるものがあった。


 昨日僕が速水さんと遊んでいた時、麗香はクラスメイトたちと遊んでいる予定だった。


 僕が行けない事も納得してくれて、きっと麗香はそっちで楽しんでいるのだとばかり思っていたけれど、どうやら昨日麗香は参加していなかったらしい。


 なんとなく、本当になんの根拠もないし、ただなんとなくだけど、嫌な予感がしたのだ。


 そんな僕の不安が杞憂だとでもいうように、何事もなく過ぎていく学校での時間。


 むしろ麗香がいない分いつものように嫌な気分になる事もなく平和に過ごす事ができた。


 今日は塾が無い日で速水さんには会えない。


 それだけが残念だったけれど、麗香のいない穏やかな一日はなかなか悪くなかった。


『昨日は楽しかったね』


帰り際、速水さんから送られてきたメッセージに思わず微笑む。


『昨日はありがとう。今から塾?』

『そうよ。今日は来ない日よね?』

『うん。今週は明日から』

『そっか、寂しいな』


昨日一緒に過ごしたからだろうか。速水さんがストレートに想いを伝えてくれるようになった。


 こんな短い文面でも見ているだけで悶えてしまいそうになる。


『僕も寂しい』

『明日、待ってるからね』

『うん。いっぱい話そうね』


やり取りを終えて、スマホをポケットにしまう。


 僕は晴れ晴れとした気分で歩き出した。


 速水さんと出会えてから、僕は悩みを共有してもらえて随分と気持ちが楽になった。


 相変わらず麗香といるとモヤモヤとした気分になってしまう事もあったけれど、速水さんと仲良くなるほどに麗香の事を気にしないでいられるようになってきた。


 速水さんの事を考えているだけで身体が温かくなってきて、幸せな気分になれる。


 当たり前だけど、僕はこの気持ちが何なのかもう分かっていた。


 今までモテた事なんてない男の考えで、あてにならないかもしれないけれど、速水さんから僕に向けられている気持ちも同じものだと感じている。


 昨日の帰り際、目を閉じていた彼女が僕に何を求めていたかを考えればそれも間違いではないと確信が持てる。


 儚くて尊い、大切な気持ち。


 いつまでも心の中にしまっておけはしないもの。


 昨日伝えようかとも思ったけれど、この気持ちを軽いものだと思われたくなくて我慢した。


 また二人で遊ぶ約束をしている。僕はその時に、この想いを伝えるつもりだった。





 そう思っていたのに、僕は昨日告白しなかった事をすぐに後悔する事になった。

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