十五 花珠也



花珠也の怒鳴り声と共に硺也も地面を蹴り上げ二人は實実へ殴りかかった。


その拳はそれぞれ黄金と白銀に光を帯び、次々と實実の体を連打していく。


ダメージを受ける様子のない實実は、花珠也を波動で吹き飛ばした。

そして硺也の首を掴み締め上げる。



「硺也っ!!」



爆煙の合間から見える、足をバタつかせて苦しみ悶える硺也に花珠也は叫んだ。



〖絶矢(ぜつや)!急急如律令!!〗



咄嗟に黄金の矢を放つがまたも波動で吹き飛ばされる。



〖飛刃(ひじん)!!急急如律令!!〗



力也も刀を振り下ろし、白銀の光る刃を飛ばすが軽々と蹴り返される。


すると實実は、おもむろに硺也の心臓部に爪を突き立てた。



「あ”...ぁぁぁぁあああっ!!」



硺也の激痛を伴う断末魔の叫びが山中に響いた。



「やめっ....やめろォおおぁぁぁぁあーーーーーーっ!!」



實実の黒く長い爪は、硺也の心臓の中を抉り赤く光る双石をつまみ出すと、そのまま硺也を地面へ放り投げた。



「まずは一つ....。」



實実が血まみれの双石を爪先で掴み太陽へ翳すと、反射して赤くキラリと光った。


力也と藤也、天也は起こった出来事に絶句した。

ただ立ち尽くす三人を尻目に、花珠也は即座に實実へ飛び迫り、我を忘れて黄金の拳を連打している。


力也がハッと我に返り硺也へ駆け寄ると、苦しみ悶えながらも、白い煙を上げながら血まみれの傷口が少しずつ修復している。



「硺兄っ!硺兄!!」



硺也は口からもドロドロと血を垂れ流し、僅かに残る意識の中、その視界は力也越しに上空の花珠也を捉えた。



「リ...キ....か...ずや...が.....」



自らが瀕死でありながらも花珠也を案ずる硺也に力也は声を張り上げた。



「硺兄喋んな!大丈夫!傷が塞がってきてる!!」



藤也と天也も遅れて硺也に駆け寄ってきた。



「硺兄ぃーーーー....!」



藤也も天也もボロボロと涙を流しながら硺也の顔を覗いている。


塞がる傷口と共に霞んでいた意識も徐々にはっきりしてきた硺也は、上空を見てはさっきよりも声を張って言った。



「か....花珠.....花珠也がっ.....!」



その言葉にハッとした力也と藤也と天也が振り向いて上空を見た瞬間、



實実の腕が花珠也の胸を貫いた。







──────────



俺の名前は安倍天也。小学三年生だ。


クラスで一番頭がいいから多方面から将来を有望視されている超天才だ。

もちろん家族の中でもおれが一番優秀だ。

硺兄と天秤にかけられたら....まぁ五分五分ってところか。

少なくとも花珠也よりは俺のが上だ。


そして俺は今非常にイラついている。

学校の帰り道でクラスの男子共が少し離れたところから俺を指差して笑っていやがるからだ。


「安倍晴明の子孫なんだってよっ。」


「はぁー?アニメの見すぎじゃねーの?」


「なんかこぅ..こうやって呪文とか唱えるのか?」


「だっせ!厨二病かよ!」



てめえらなんか俺の雷で丸焦げにしてやってもいいんだぞ。


その憶測と思われている安倍晴明の子孫なのも、呪文を唱えるのも事実なんだから仕方がないだろ。


好きでやってるんじゃない。

俺はいい大学を出て一流企業に就職してエリート街道を突き進むんだ。

祓い屋なんてやってられるか。



「おぃ!お前ら俺の弟バカにしてんのか!」



後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。


二個上の兄貴の馬鹿藤也だ。


小学五年生のガタイのいい藤也に、男子共はビビって逃げていきやがった。



「天也も言ってやりゃいいのに!」



俺を追いかけてきて藤也は言う。



「余計なお世話。」



俺はそんな言葉しか出なかった。



「天也っ!アイス買って帰ろーぜ!」


「いらない。ついてくるな。」


「花珠兄と硺兄にも買ってこーぜー!僕カリカリ君ね!」


「俺が買うのかよ。」



藤也はいつもうるさいし人の話聞かないし部屋に居てもゲームの音もうるさいしとにかく騒がしい。

俺とはまるで正反対だ。



「しかしさぁー、花珠兄と硺兄ってすげーよなー!」


「何が。」


「だってさ、俺と同じ歳の時にはもう父さんたちの手伝いしてたじゃん!」


「あっそ。」


「そんな頃から強かったんだぜあの二人ー!俺頑張らないとなー!」


「勝手にどうぞ。」


「花珠兄が硺兄を助けるために一人で燕下に行こうとしたんだぜー?めちゃくちゃ勇気あるよなーっ!すごくないっ?」


「知らん。」


「下手すりゃ死んじゃってたかもしんないのにさぁー!すげぇよ花珠兄はーっ僕あんな風になりたーい!」


「...勝手にしろ。」


「でも父さんや兄ちゃん達がいるからこの世は妖から守られてんだぜー?天也だって何度も助けてもらったろーがっ。」


「....忘れた。」


「なんだよーっ!天也はあんな風になりたいと思わんの?」


「...思わねーよ。」


「でもせっかくあんなすげー雷出せるのにさーもったいないじゃん!」


「俺は継がねーよ。」


「えぇっ?なんでだよ!花珠硺兄みたいに僕とペア組んで祓い屋やろーよ!」


「尚更嫌だ。」



とまぁとにかくやかましいわけだが、なんなんだよみんなして祓い屋だ妖だって。

そんなもの倒して何になるんだ。

ただただ危険なだけじゃないか。

この身を侵してまで俺に守るもんなんて.....


そんな...ものなんて....。



「帰ったらさ、花珠兄に燕下の話聞こうぜ!」


「一人で聞けよ。」


「いーじゃん!聞いたら天也も気が変わるかもしんないぞぉー?あっ!天也ー!コンビニー!アイスー!」



藤也はさっさとコンビニの中へ入っていってしまった。



仕方がない、たまには花珠也を立ててやらんでもない。



「あっ!リキ兄だー!エロ本買うのー!?」


「るっせーしちげーよ!」



仕方がないからアイスを買おう。


仕方がないからやつらにも買っていってやるか。





─────────



「ぁ”...........」



藤也と天也は花珠也の口から大量の血が吹き出したのをその目ではっきりと見た。


藤也と買った四つのアイスが、草むらの傍ら、コンビニ袋の中でドロドロに溶けてしまった頃の事だった。




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