十四 硺也と實実



桜也が屋敷へ到着すると、屋敷は上空から炎のようなものに攻撃されていた。

先に到着していた鷹光が屋敷に結界を張り応戦している。



〖刹斬(ざんせつ)!急急如律令!!〗



鷹光が黄金に光る大きな鎌を振り下ろすと、光が空気を切って人影へ向かっていく。

人影は波動でその光を打ち砕いた。


桜也は凛に澪羅を託すと、杏奈と杏音が駆け寄り治癒を始めた。


上空に目を凝らすと、そこに浮かぶ人影がすぐさま手から炎の玉を飛ばし結界に亀裂が生じ始めていた。


そこへ花珠也と硺也、夕也が屋敷門の前へ到着した。



「ちっ!クソっ!まだいたのかよ!」



花珠也は上空の人影へ向かって弓を放った。


それを軽々と手で跳ね除けると、人影は花珠也と硺也を見下ろした。



その顔は



「ほぅ....なるほど....」




まるで、




「確かによく似ている....」




花珠也。



『んなっ.....!!!』



花珠也と硺也は声を揃えた。


深緑色の袴姿、髪の毛は花珠也たちよりも白く、目は左右色違いの赤と黒。

首には刺青のような黒い紋様が浮かび上がっている。


屋敷にいる一同も唖然としていた。


そしてその男はスタリと地上へ降り立ち、硺也を指さして言った。



「なるほど、貴様が弟か。どうりで私の石が反応するわけだ。」


「っ.....!!」


「その胸を見よ。貴様の石が私を欲しているぞ。」



硺也が自分の胸元を見ると、心臓の中の緑色なはずの双石が、澪羅の透視した通り、

皮膚を通して赤く光っている。



「そん....な....まさかっ....お前がっ!」


「コイツ知ってんのか硺也!」



硺也は男を見ながら声を震わせ言った。



「コイツが....俺をさらった長だ!」



男がニヤリと笑った。


先に仕掛けたのは夕也だった。


2人の背後から高速で千手を走らせ、男を縛り上げようとした。


寸手のところで交わされ、男はまた宙に浮かんだ。



「我が名は實実(さねみ)。

いい機会だ。ついでに教えてやろう。

貴様ら双子に宿る双石は、私の弟だ。」



『っっ!!!』



一同は驚愕した。



「正確には、私の弟に宿っていた石だ。

さて.....昔話をしよう。

我らはかつて人間だった。当時双子は忌み子とされ殺されたが...その憎しみから我らは鬼となった。」



實実は淡々と話はじめた。



「ある日弟は貴様ら先祖の陰陽師に祓われた。弟の亡骸が消滅した後に残った双石をその陰陽師が手にすると、浄化され2つに分かれた。

それから貴様らの先祖は鬼と同等の力を得られると、双子を授かる度双石を宿らせた。

だが双子とは短命なものでな、石の力を発揮するほど成熟せぬまま朽ち果てる。

だが貴様らはどうだ。見事に石の力を使いこなし成熟した。

千年待ち続けた逸材だ。

それほどの力を手に入れた弟の貴様であれば、私の弟の器に値する。

故に、更に成熟させた貴様から石を取り出し、私の中の石と融合させればかつての力を取り戻せる、と思ったが....

どうやら私は勘違いをしていたようだ。」



そこまで話すと、實実は突然花珠也を指さした。



「兄である貴様の石も必要であったようだ。」



實実に今にも飛びかかろうとする花珠也を硺也は片手で抑えた。



「貴様らはどうやら2人でいることにより力を発揮するようだな。燕下で弟に近付いた時には感じられなかったが...兄のいる今、その赤く光るものが何よりの証拠だ。

従って、双方の石を返してもらう。」



花珠也と硺也は弓を構えた。


夕也も宙へ飛び上がり、千手で實実を縛り上げた。

だが實実は千手を引きちぎり、何本かの腕を持つと、遠心力で夕也ごと屋敷の庭へ叩きつけた。



「ぁ”がっ....!」


「夕ちゃんっ!」



凛が夕也へ駆け寄った。


鷹光と桜也がそれぞれ攻撃を仕掛けると、實実は2つを同時に波動で吹き飛ばした。

その衝撃で庭にいた全員が突風に飛ばされる。



『みんな!!』



花珠也と硺也が庭へ駆け寄ろうとした時だった。

實実は片手で二人へ炎を打ち付け、もう片方で屋敷に光を放った。


屋敷と反対方向へ炎で吹き飛ばされながらには人は同時に叫んだ。



『やめろぉぉぉおーーーー!!』



すると屋敷は、鷹光の張る結界の上から黄色い膜のようなもので包まれた。



「私は目的が果たされればそれでいい。外野はそこで黙って見ていろ。」



鷹光がその膜に触れた。



「これは....やつの結界....人間を通さないのかっ....!」



すると桜也が察して声を張った。



「っっ....!閉じ込められたってことかよっ!!」



結界の中には今いる家族全員、外には花珠也と硺也だけが取り残された。



「くっそ!!」


〖連槍(れんそう)!急急如律令!!〗



桜也は結界に向かって光の槍を連撃するが全て吸収されてしまう。



〖連打。急急如律令。〗



夕也が無数の手で何発も結界を殴りつけるがびくともしない。


すると鷹光が2人の前に割り入った。



「待て、時間がかかるかもしれんが、俺が解いてみる。」



鷹光は胸元で両手を合わせ、呪言を唱え始めた。


その間にも、炎のスピードに追い付けず術を繰り出せないでいる花珠也と硺也。

容赦ない攻撃を受け続けている。



「くそっ!このままじゃあの2人っ....!」



桜也が結界を叩いて悔やんだ。



「レイ、動かないで。」


「じっとしてて。」



杏奈と杏音から治癒を受けながら、澪羅が地面に肘を付いて上体を起こし、實実を透視し始めた。



「花珠と硺の戦闘力は合わせて78000....

対してあの妖は286000....早急に何とかせねばまずいぞ....急ぐのだ父上っ....!」



杏奈と杏音に上体を倒され、澪羅は再び二人の治癒力の青い光に包まれた。


鷹光は額に汗を流しながらひたすらに呪言を唱え続けた。



花珠也と硺也は隙を見て抱き合うように弓を構えた。



〖弓張月(ゆみはりげつ)!急急如律令!!〗



二人の手から七色の双弓が現れ、花珠也は上弦から、硺也は下弦から矢を引き、一気に解き放たった。


七色に光る矢は實実を目掛けて残像を残しながら飛び立っていく。

甲高い笛にも似た音を立てて空を切って、対象へと命中した。



激しい爆発音と共に實実は林の中へ落ちてゆく。



爆煙に目を凝らすと、すぐに二人を目掛けて實実が飛び出してきた。

そして一瞬で二人の目の前まで来ると、片手ずつそれぞれの額に手を充て、爆炎を放った。



二人は一瞬にして地面へ叩きつけられる。



『がっ...はっ.....!』



体制を整える暇もなく炎の玉が二人を目掛けて押し迫ってきた。


花珠也は咄嗟に硺也に覆いかぶさった。



「花珠也っ!!」



その時だった。



〖斬切(ざんせつ)!!急急如律令!!〗



白銀の刃が炎の玉を打ち砕いた。



『リキ!』



学校帰りの力也が正装に身を包み飛び出してきた。



「なんだあれっ...すげー妖気だな。」


「俺たちの勾玉を狙ってんだ!みんなは結界から出られない!」



硺也の言葉で庭の方を見ると、桜也達が結界を叩きながら何かを叫んでいる。



「なんかよくわかんねーけど...あれをぶっ倒せばいーのか。俺だってお前らのサポートくらいにはなんだろ。」



力也が刀を、花珠也と硺也が弓を構える。


實実が上空からまた炎を打ち始めた。

連打される炎の玉を三人は次々と交わした。


巻き上がる爆煙に紛れて實実が飛び出してきた。

何本もあるかのような腕の速さで花珠也と硺也に殴り掛かり、それを防御するので精一杯の二人。


その隙に力也が實実に切りかかろうとすると、一瞬で放たれた波動により力也は吹き飛ばされた。



『リキーー!』



力也は林の木に背中から打ち付けたれた。


實実が再び殴り掛かかろうと構えた瞬間、突然雷鳴が響いた。



〖絶雷(ぜつらい)!!急急如律令!!〗



その号令と共に實実の頭上へ雷が落ちた。


そして今度は紫色の煙と共に号令が響いた。



〖毒霧(どくぎり)!!急急如律令!!〗



紫色の毒の渦が實実を取り巻いた。


實実は雷を素手で払い除け、毒の渦を波動で吹き飛ばした。



「藤也!天也!来るなっつったろ!!」



力也が林の中から現れた二人へ怒鳴った。


どうやら学校帰りの三人は林の中で合流し、息を潜めていたようだ。


力也に隠れていろと釘を刺されていたが、

藤也と天也は見たことも無い強さの妖に震えながらも兄たちの危機に飛び出してきてしまった。



「だって!このままじゃみんな死んじゃうよ!!」



藤也が泣きそうな声で叫んだ。


天也は何も言わず、空へ伸ばした手の上に雷雲を漂わせながらガタガタと震えていた。


それを見た花珠也と硺也は、二人に言った。



「ありがと2人とも、隠れてな。」


「大丈夫だ、俺ら死なねーから!」



そうニカッと笑う兄たちに、藤也と天也は安心から全身の力が抜け、ボロボロと涙を零して立ち尽くした。


するとその瞬間、上空から激しく燃える炎が放たれ、實実の声が響いた。



「うるさい小バエが...。」



炎は藤也と天也に向かって迫ってくる。

力也は力の限り地面を蹴り上げ咄嗟に二人の前で両手を広げそれを庇った。



「がっ...はっ....!」



力也は二人に覆いかぶさるように倒れた。

藤也も天也も恐怖で声も出せず唖然としていた。



「て...めぇぇえええええーーーーーー!!」



花珠也の怒鳴り声が山中へ響いた。



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