八 藤也と天也と杏奈と杏音
「ここ自由につかえよ。」
花珠也と硺也に案内された客間に、暁は口をあんぐりと開けた。
「ひ...広くないですか?僕1人なのにこんな広いところ...いんですか?」
「ふはっ...ここ以外の客間はもっと広いよ?」
硺也が笑った。
高級旅館のような和室、シャワールームに洗面台、トイレまで付いた豪華さに驚きながら、暁は申し訳なさそうに畳の隅っこに荷物を置いた。
「他の兄弟紹介してやるよ!」
「いいね。行こう、アッキー。」
花珠也と硺也は暁の両手を引っ張った。
ズラリと並ぶいくつもの客間と思われる襖が並ぶ長い廊下の角を曲がると、また更に長い廊下が現れた。
同じようにいくつもの襖が並び、それは兄弟達の部屋と思われた。
長い廊下を進むと、2人はとある襖の前で止まった。
「天也(てんや)ー!入るぞー!」
花珠也はそう声をかけると、勝手にスパンと襖を開けた。
広い畳の部屋の片隅で、勉強机にポツンと向かう、マッシュルームカットの小さな男の子が座っていた。
「たっだいまー!天也ー!」
花珠也が声を張ると、天也は迷惑そうにこちらを見た。
「何。」
目の据わった冷たい視線で花珠也を睨む。
「そんな顔すんなよ天也ぁー、また勉強三昧ーー?」
花珠也が天也の髪の毛をわしゃわしゃ乱しながら机を覗き込む。
「分かってるなら邪魔するな。どっか行け。」
天也は花珠也に構わず鉛筆を走らせている。
「天也、友達のアッキーだよ。今日泊まるから。」
硺也が言うと、天也はじっと暁を見つめ、鉛筆を置いて椅子から降りた。
「弟の天也です。父より伺っております。
この度はうちの馬鹿な兄たち、かっこ特に花珠也、かっこ閉じ、を助けていただいてありがとうございます。
今後ともどうしようもなく馬鹿な兄たち、かっこ特に花珠也、かっこ閉じ、を何卒よろしくお願いいたします。」
天也は業務的に話し、ぺこりと頭を下げると、黙ってまた机に向き直した。
「あ...よろしく...お願いいたします....。」
小さい男の子のあまりの礼儀正しさと毒々しさに、暁はそう返すのが精一杯だった。
「天也は八歳のくせに冷静すぎるんだ。冷たく感じるかもしれないけど可愛いやつだよ。」
可愛いのか?と思いながらも暁は苦笑いした。
「天也は男兄弟の末っ子で、武器は雷。手のひらから雷を発生させて....」
硺也が説明しようとすると、天也にまたちょっかいを出した花珠也が雷に撃たれた。
「あ、そうそう、こんな感じ。」
花珠也は丸焦げになって仰向けで笑っている。
硺也は何事もなかったように微笑む。
「(安倍家怖い....!)」
「天也、藤也帰ってるか?」
硺也が聞くと天也は鉛筆を走らせながら答えた。
「いると思う。さっきからガチャガチャとやかましくてイラついていたところだ。硺兄から叱っておいて。」
そう言うとまた背後から近づこうとする花珠也に向けて、天也は雷を撃った。
目を回す花珠也を引きずって隣の部屋へとやってきた。
「藤也、入るよ。」
襖を開けると、黒髪で短髪、学校のジャージを着たまま地べたにあぐらをかいて爆音でゲームに勤しむ六男の藤也(とうや)が座っていた。
「ちょ!待って!今手が離せ...な....
あぁーーーー!!花珠兄!硺兄ーーー!!」
離せないはずの手を離して、藤也は硺也に抱きついた。
「よっ、藤也、ただいま!」
硺也の後ろから花珠也も顔を出すと、嬉しそうにそちらにも抱きついた。
「花珠兄ーー!おかえりー!」
花珠也が藤也の頭を撫でる。
「藤也、友達のアッキーだよ。」
硺也がそう言うと、藤也はキラキラした目で暁を見た。
「花珠兄と硺兄を助けてくれた人でしょ!?ありがとう!!」
藤也は更に目を輝かせて見つめている。
「いやいや、僕はそんな....(僕の事って一体どう伝わっているのやら....)」
「藤也はね、十一歳の小学五年生、全身から毒を生み出せるんだ。」
硺也が言うと、藤也は自慢げに両手を花珠也に向けた。
「見ててね!!」
「待て待て待て待て、お前の毒はさすがに俺死ぬ。」
花珠也は藤也の腕を天井に逸らして制止した。
藤也は面白がって、避ける花珠也に手を向け楽しそうにしている。
「藤也、リキいるか?」
「まだ帰ってきてないよ!ナナとネネはその辺にいると思う!あと部屋にレイ姉も!」
まだ花珠也に手を向けようとしている藤也に、硺也が落ちていたゲーム機を手渡した。
藤也は思い出したようにまたあぐらをかいてカチャカチャといじりだした。
3人は庭へ出た。
観光地のようなだだっ広い日本庭園に、暁はキョロキョロと見渡すばかりだった。
庭の片隅で、小さな女の子が2人、
しゃがみこんでスコップで土いじりをしている。
「おっ、いたいた、ナナ!ネネ!」
花珠也がそう声をかけると、2人はスっと立ち上がってこちらを見た。
「カズタクだ。」
「タクカズだ。」
花珠也たちと同じ銀髪をツインテールにし、白黒お揃いのワンピースを着た人形のように可愛らしい2人がそれぞれに言った。
「よぉー!元気だったかー?ちょっと背伸びたんじゃねーかー!?」
花珠也が嬉しそうに言う。
「相変わらずうるさいね。」
「うざいね。」
2人は声をそれぞれにそう言うと、暁を見た。
そして駆け寄り暁の両袖を掴んだ。
「この人だぁれ?」
「だぁれ?この人。」
「友達のアッキーだよ。」
硺也がそう微笑むと、2人は暁の袖を引っ張りだした。
『あそぼ。』
そう声を揃える双子に表情筋が緩んだ暁は言った。
「いいよ。何して遊ぶ?ところでスコップ持って何してたの?」
暁がニコリと笑って言うと、双子はまたポツリと話した。
「埋めてた。」
「なんまんだぶ。」
2人はそう言って手を合わせた。
「あー...ペットか何か?掘ってあげようか?」
双子は暁を引っ張り元いた土まで連れて行った。
双子が掘ったであろう箇所を見ると、
土に埋まりかけた不気味な日本人形が顔を覗かせている。
「ひっ!」
暁は驚いて後ずさる。
「この子は花ちゃん。」
「3歳。」
「さっきネネの呪いで死んだ。」
「ネネが殺した。」
さっきまで可愛らしく感じていた2人が急に禍々しいものに見え始めてしまった暁。
「そ....そう...なの...。」
やっとそう絞り出したところで、硺也が遮った。
「ごめんねナナネネ、次はレイ姉のとこにいくんだ。」
「2人で遊んでろな。」
花珠也と硺也がそれぞれの頭を撫でる。
「これは....健全な遊びなんでしょうか...。」
「杏奈と杏音はまだ五歳だけど、
アッキーと同じく治癒能力があって、
呪詛も使えるんだ。だから人形に呪詛かけて遊んでたんだよな?」
硺也が言うと、双子は揃って頷いた。
「俺らもよく木に打ち付けた藁人形で矢当てゲームしたよな!」
「ふはっ!懐かしっ。」
「なんで藁人形っ....!
(安倍家やはり恐るべしっ....!)」
杏奈と杏音に手を振り、3人は再び屋敷内へ入った。
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