六 桜也と蘭



「桜兄!なんでここにっ...!」



花珠也と硺也の兄、桜也(さくや)は金剛杖を構えて花珠也の前に立ちはだかった。



「俺の台詞だ馬鹿!やべー妖気が充満してると思って来てみりゃお前かよ!お前こそなんでいんだ馬鹿!」


「いや...いろいろあって....」


「どんないろいろがありゃこんなことなるんだ馬鹿!後でじっくり聞いてやるわ馬鹿が!」



すると白い獣はみるみると小さく萎み、暁の姿へと変わって地面に倒れた。



「何なんだ一体よぉ!何がどーなってやがる!」


「アッキー!!」



すぐに花珠也が駆け寄る。



暁は意識こそあれど体に力が入らず動けない。



「花珠也さ...僕...なんで....」


「わっかんねぇけど!喋んな!休め!」



花珠也は暁を肩に抱え、近くの草むらへと避難させた。


桜也の一撃で額から血を流す咲が立ち上がり、再び黒い炎を向けてきた。


桜也が槍を振り回し、突風を起こすと炎が散り散りに消えていく。



「花珠也、聞きたくねーが、ありゃ硺也か?」



少し離れた草むらに横たわる、いつの間にか気を失っている、全身に黒い螺旋模様を纏った硺也に目をやり言った。



「あぁ....硺也だ。」



そう言って花珠也は血みどろの体でやっと立ち上がり、弓を構えた。



「ったぁく....よぉーー...!...蘭!」



桜也がそう声を張ると、背後に桃色の着物を着た白髪の美しい女が現れた。



「硺也見てろ。」


「御意。」



女はふわりと宙を舞い、硺也の傍へと飛んで行った。



「人間と式神が増えましたねぇ。まぁ、何人増えようと同じです。舷は返してもらいますよ。」


「硺也は俺んだ!」



咲の背中から黒い炎の手が現れ、真っ直ぐに硺也と蘭を目掛けて襲いかかった。




────────バチバチっ.....!



「何っ?」



よく見ると、硺也は式神の蘭によるピンク色の結界に守られていた。

蘭は硺也の体に両手をかざし、目を閉じていた。


花珠也は心配そうに横目で硺也を見ていた。



「蘭に任しとけ。少なくとも身は守れる。それよりお前は敵に集中しろ。よそ見してんじゃねぇよ馬鹿。」


「あぁ...。」




────────シャンっ....



桜也は金剛杖を地面に突き立てる。



〖爆創(ばくそう)!急急如律令!〗



そう叫ぶと、金剛杖の頭部の輪から黄金に光る槍が何本も現れ、一斉に咲を貫いた。



「ぐ...はっ..!」



それでも咲はまだ倒れない。



〖爆矢!急急如律令!〗



花珠也も矢を射ち放つ。



「ぅあ”ぁっ!!」



矢が命中した咲は地面に落下し、遂に膝を着かせた。



「今だ花珠也!!」


「わーーってる!!」



〖急急如律令!!!〗



黄金の槍と弓矢が同時に咲へ向かっていく。



「待て...待て待て待て待て!私はぁーーーー!こんなところでっ!!死ぬわけに......は.........」



咲の叫ぶ声が途中で途切れた。


爆風の中目をこらすと、咲は灰と化して散りだしていた。



「おわ....た....」



花珠也はすぐに硺也に駆け寄った。



「硺也!硺也!...硺也!」



硺也の皮膚を纏う螺旋の模様が少しずつ薄くなり始めていた。



「完治まで今しばらくかかります。私くしは手が離せません、花珠也殿、草むらに隠れている彼に傷を治していただいては?」


「ん?」



花珠也が自身の体を見ると、何ヶ所にも及ぶ大量の出血に、そこかしこの骨が何本も折れている。


すると草むらから、暁が心配そうに顔を出した。



「誰なんだよっ。どこのガキだよ馬鹿!!」


「ふはっ!」



花珠也はそう笑うと、その場に倒れ込んだ。



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