二 花珠也と硺也




「いやー、あーぶね、危ね。やっぱ燕下は妖だらけだな。倒しても倒してもキリがねぇ。」


「花珠也さん、そのままじっとしててください!治癒します!」



暁が花珠也の腹に手をかざすと、手のひらからまた青い光が灯りだす。


すると傷口が少し塞がり始めた。



「やっぱすげーなアッキー!」


「いえ....すぐに妖力がなくなってしまうので完治するには至りません。スタミナ不足ですみません...僕...使えなくて....。」


「何言ってんだよ。今俺を治してるじゃねーか。」



暁の手から青い光が消えた。



「すみません...限界みたいです....。」



花珠也はすぐに立ち上がった。



「だぁーいじょーぶだよ!ホラ、治った!」


「いや、全然治ってないですよ!止血できただけです!休まないと傷口がまた開いちゃいますよ!」



暁はその場でジャンプして見せる花珠也を慌てて制止する。



「いやー、アッキーがいなかったら俺蛇の餌になってたな!ふはっ!」


「笑い事じゃないしまぢで動かないでください花珠也さんんんーーーっ!」


「ほんと、大丈夫だよ。まぢで助かった。

こんな傷のまま闘うことなんてザラだしな。その謝り癖直せよ。自信持てアッキー!」



暁の顔の目の前まで近づき、花珠也はニカっと笑って見せた。


その子供のような無邪気な笑顔に、暁は何か、花珠也なら何でも何とかしてくれてしまうような気がした。


花珠也はまた歩き出した。

暁が後ろからついて行く。

そして花珠也はポツリポツリと話し始めた。



「....俺と硺也にはさ、産まれた時から家の事情で特別な妖力を宿されてんだ。

それは二人でいる時に最大限の力を発揮するわけだが...離れてるとその力は発揮しないどころか弱まりやがる。

そうなりゃあ俺は弱い。

だからあんな雑魚蛇なんかにハラワタ持ってかれそーになるわけ。」


「じゃあ....早く、硺也さんを見つけないとですね!」



暁は微笑んだ。



「あぁ!っま、俺はそんな力なくたって硺也から一生離れないけどな!」



花珠也は進行方向を見つめて言った。



「でも花珠也さん...どこに向かってるんですか?闇雲に歩いたら傷口が....。少し休みませんか?」


「いや、大丈夫。」


「でもっ....」


「言ったろ、俺と硺也には特別な妖力があるって。

分かるんだ。この力が俺を呼んでる。

硺也は近い。共鳴してるんだ。

そして恐らく、硺也ももう気付いてる。」


「.......。」


「行こう...アッキー..。」





───────更に八時間後




「ぅおおぉらぁっ!!」



花珠也は進行方向に次々と現れる妖を、波動で片っ端から吹き飛ばしていた。


その後ろから邪魔をしないように暁がついて行く。



「アッキー!硺也が近い!すげー反応してる!」


「ホントですか!」



暁は答えながらも素早く走る花珠也に追い付くので精一杯だった。



「っっ!!!」



すると花珠也が突然停止した。



「アッキー、下がってろ。」



暁は直ぐに近くの物陰に隠れた。

そして一歩遅れて唯ならぬ妖気を感じ取った。



───何かくる。



「やぁ。」



花珠也は声のする頭上を見上げた。


藍色の着物に黒いハットを被った人型の男が宙に浮いている。



「どうも私の領域で人間の匂いがすると思えば...餌になりにでも来ましたか?」


「あんたのテリトリーだったか、悪りぃな、ちょっと荒らさせてもらうわ。」



男は後ろ手に腕を組み微動だにしない。



「それは礼儀がございませんねぇ。」



花珠也は上空の男に向かって弓を構えた。



「すまねぇな、礼儀は俺の担当じゃねんだ。」



ジリジリと弦を引く。



「そうですか、なら........彼の担当かな?」



男がそう言った途端、花珠也の前方から凄まじい速さで白銀の光が向かってきた。



「しまっ....!」



白銀の光は花珠也と共に背後の木々を吹き飛ばした。



「ぃっ...つ...」



次々と倒れる木々の合間から、ゆっくりと人影が歩み寄ってくる。


花珠也が衝撃で打ち付けられた木には、頬を僅かに掠った白銀の矢が刺さっている。



「ま...さか....」



倒れた木々の衝撃で上がる粉塵の中から、

自分と同じ顔の男が現れた。





──────


暁は白銀の光に吹き飛ばされた花珠也を追って走った。



─────なんだあの光っ....!まるで花珠也さんの矢みたいだった!

花珠也さんっ....!また傷口が開いてしまうっ!あれ以上開いたら....僕の力じゃ塞ぎきれないっ.....!


暁が追いつくと、花珠也は背中から木に打ち付けられ、腹からはまた血が滲みだしていた。



「かずっ....!」



駆け寄ってそう叫ぼうとした暁は、ハッと粉塵の舞う方へと目をやった。


誰か来る。


そしてまた花珠也の方を見ると、木には白銀の矢が刺さっている。



─────っ!やはりっ!さっきのは弓矢!

っ....てことは....もしかして...もしかしてっ....!



暁が再びそちらへ目を向けると、粉塵の中から

目に光の無い、青白く無表情な、花珠也と同じ顔をした男が現れた。



────────硺也さんっ.....!?



その男はまた白銀の弓を構え、花珠也へ放った。


花珠也は腹の傷を抑えながら咄嗟に矢をかわした。


男はそれでも容赦なく次々と花珠也へ矢を放った。



───────なんでっ....!何でだよ硺也さんっ!



硺也と思しきその男は、今度は手のひらから波動を放ち、どんどん花珠也を森の奥へと追いやっていく。



「硺也ぁっ!!」



波動を逃れながら花珠也が叫んでいるのが聞こえる。


暁はその声を追いながら走った。


幾度となく放たれる波動の爆音と粉塵の中、やっと花珠也に追い付くと、木に首を押し付けられ、締め上げられていた。



─────花珠也さんっ!!



暁は草木の隙間からそれを見ていることしか出来なかった。


すると硺也は突然、もう片方の手で明後日の方向へ波動を数発打ち始めた。



────硺也さん...一体何を....。



木々がなぎ倒され、メキメキと折れる音が森中に響いた。


その噴煙に目を瞑っていると、


今度は突然、硺也は凄まじい波動の勢いで遠くへ吹き飛ばされて行った。



「花珠也さんっ!!」



硺也が離れて行った隙に花珠也へ駆け寄った。



「大丈夫ですかっ?!一体何がっ...!」



地面に膝をつき俯いている花珠也の腹から血が滴り落ちていた。



「あれ.....硺也さんですか.....?なんで花珠也さんをこんなに....」



花珠也は俯いたまま立ち上がり、呟いた。




「引くぞ...アッキー.....。」




.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る