第24話 説明責任

「という訳でだね、些か簡略化した説明だったが、ここまでは理解はできたかな?」

デリオ陸軍曹長は新たな発見をした。このような様になっても長くて意味不明な説明を聞くのはうんざりする、という感情が起こるものなのだな、と。


「そして次は現在の状況について軽く解説しよう」

おいおいまだ話が続くのかよ。しかしその男はデリオ曹長の呆れ果てた感情など全く忖度せずに再びチョークで黒板に訳の判らない記号やら数式を書き続けた。


「まあラギーの法則を当てはめるとだな、この状況にあって補充は難しいのだ」

誰だよラギーって。


「つまり君たちは非常に貴重な存在なのだよ」

白衣──というよりもう灰色だが──を着た男はそう言ってデリオ曹長、だったものに両腕を広げた。意識はまだ彼のそれだが、それ以外にライナス・デリオを構成していたものは既に失われていた。彼の意識は霊体となってガラス容器の中にあった。


「従って貴重な資源を無駄遣いはできない」

資源かよ畜生が。この怪物博士が。


「まあ彼女が怒るという都合もあるしな」

そう言ってその男──ジゴー博士は軽くウィンクした。


「なので、リサイクル、といえば少々言葉が悪いが」

そう言いながらジゴー博士は既に用意してある魔法陣の方に歩み寄った。


「まあ要するにだ」

ジゴー博士は再びこちらにやってきてガラス容器ごとデリオ曹長を持ち上げた。


「今回の実験の生贄には肉体は必要がない。と、そういう訳なのだよ」

そう言いながらジゴー博士はガラス容器を魔法陣の中央に置いた。


これはジゴー博士が人間であった頃からの悪癖なのだが、良く聞けばその説明は説明になっていない。ただ頭の中で考えた事である程度はまとまった事が口から出てきているだけだ。彼はその話を聞く相手が自分の理論を全て理解しているように話を進める癖があった。それ故に彼の講義は評判が悪かったのだが、150年以上経ってもその悪癖は治る事はなかった。まあ講義の経験は据え置きではあったが。


そうしてデリオ曹長の都合などお構いなしにジゴー博士は召喚魔法を詠唱し始めた。彼には悪意など全くない。あるのは実験への興味とデリオ曹長の協力への感謝だけである。そう、どんな事でもちゃんと説明すれば判ってもらえるものだ。理解と協力を得たジゴー博士はこの状況に満足していた。あとは実験が成功するかだけである。


霊体には声帯はないが怨念や苦痛の叫び声のようなものは聞こえる。まるで山彦のように鈍く深みのあるデリオ曹長のは響いたが、ジゴー博士はそれには全く感心を示さず、ただその魔法陣が怪しい光を発するのを興奮しながら見続けた。

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