第15話 結婚の申し込み
コンバティール公爵家の姉妹は城の中でも、上等なゲストルームに泊まっているらしい。
親の監視付きの自宅の屋敷よりも、城の方がのびのびと生活できるらしい。
つまりはゴロゴロ、ダラダラしているだけだ。
暇だから、妹の方はイジメでもやっていたのかもしれない。
「ララとリリはいるか?」
「はい、エース様。少々お待ち下さい」
白ではなかったけど、両開きの茶色い扉だった。その扉の前に二人のメイドが立っていた。
王子がメイドに聞くと、返事をした後に扉をコンコンと叩いて、一人だけ扉の中に入っていった。
部屋の掃除をするのか、姉妹の身嗜みを整える時間が必要なのかもしれない。
「お待たせしました。どうぞ、お入りください」
「ありがとう」
王子と二人で廊下で待っていると扉が開いて、メイドが入室を許可してくれた。
ナターシャは妹がいるので、王子の部屋でお留守番してもらっている。
二人を会わせると喧嘩が始まりそうだ。
「ようこそ、エース様。そちらの方は初めまして。ララ・コンバティールです。こちらは妹のリリです」
「ようこそ、エース様。そちらの女性が噂の錬金術師様でしょうか?」
……凄い美人姉妹だ。醜男なら、どっちでも大喜びだよ。
部屋に入ると二人の美少女がお出迎えしてくれた。
黒いドレスを着た、黒髪セミロングヘアの知的でミステリアスな微笑みを浮かべているのが姉のララ。
赤いドレスを着た、薄紫髪を猫の耳のように纏めている、生意気そうな目をしているのがリリみたいだ。
二人の母親は別の国の女性で、この国の人とは違った顔立ちをしている。
だから、同じような境遇でこの国に馴染むのに苦労したララは、ナターシャに優しくしたそうだ。
まあ、妹の方は優しさの欠片も持ってない。同じ境遇でも姉妹で性格に違いがあるようだ。
きっとイジメっ子が現れたら、妹は暴力で解決して、姉は言葉で解決したのだろう。
「はい。錬金術師のティエラ・ホーエンハイムです。王子様の美しい結婚相手を見たい、と無理を言って付いて来てしまいました。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「フッフ。お世辞でも嬉しいです。ティエラさんも大変美しいですよ。もちろん、お世辞じゃありません」
「ありがとうございます」
……話し通り、良い人そうだ。
妹の方は睨んでいるけど、無事に自己紹介は済んだ。あとは王子が妹の方に結婚を申し込んで終わりだ。
そして、私は晴れて自由の身になれる。ついでにこの国が戦争に勝ったら、少しは嬉しい。
「急に訪ねてしまって済まない。リリに大切な話があるんだ。聞いてくれるだろうか?」
「は、はい、何でしょうか……」
「俺の女に手を出したそうだな? 覚悟は出来ているか?」と言われたみたいに、リリはビビっている。
確かに王子がリリに用事があるとしたら、ナターシャの事ぐらいしかない。
「聖女が偽者だったというのは聞いたか?」
「はい、先程聞いたばかりです。大変な事件だと思います」
「その通りだ。それで婚約者はララとリリの二人になった。私はリリと結婚しようと思う。その返事を貰いにきた」
「えっ? 私にですか?」
「エース様、ちょっとお待ちください。ナターシャさんはどうしたんですか?」
「今は国内が混乱している。私の我儘で父上が反対する相手と無理に結婚している余裕はない」
……王子、ギリギリです。それは好きじゃない相手と結婚すると言っているようなものです。
当初の予定通りに結婚する理由は話さないようにしたいのに、正直者の王子様には難しいようだ。
リリとの会話中に急にララに聞かれて、半分以上も本当の理由を話してしまった。
「つもりは政略結婚ですね。それをエース様とナターシャさんは納得しているんですか?」
「もう話し合った。その結論を伝えに来ただけだ」
「そうですか……リリ、あなたは本気でエース様と結婚する覚悟がありますか? エース様を隣で一生支えて、一緒に国の方向性を決める重要な役目です。あなたにその覚悟がありますか?」
ララに聞かれたら、素直に答える王子の所為で結婚する理由がバレてしまっている。
王子の覚悟を知ってか、ララは妹に結婚する覚悟があるのかと、真剣な眼差しで問い詰めている。
「も、申し訳ありません! 私には結婚は無理です。戦争で国内が混乱していて、しかも、聖女の代わりに国民の期待を全て受け止めるなんて私には無理です。その役目は姉様にしか出来ません!」
いじめっ子のリリは予想外の腰抜けだった。リリは頭を深く下げると辞退してきた。
自分にはそんな重要な仕事は出来ないと、自ら無能をアピールして、姉に仕事を丸投げした。
「それでは困る。それにいつもララよりも自分の方が優秀だと言っていたじゃないか。だから、ララの代わりに婚約者に名乗り出たんじゃないのか」
「申し訳ありません! エース様に選んでもらう為に口から出任せを言ってしまいました。私なんて姉様の足元にも及びません」
「リリ、やめなさい。自分で自分を貶めるのは恥ずべき行為です。あなたは十分に優秀です」
「姉様……」
リリは必死に辞退しようとするけど、それだとこっちの計画が台無しになってしまう。
王子は何とか結婚しようと説得するけど、リリは結婚を姉に譲ろうとしている。
「あのぉ……政略結婚なので、そこまで期待してないと思いますよ。リリ様に期待するのは資金繰りだけです。その資金繰りもお父上がやってくれるから……」
「申し訳ありません。部外者は黙っていてくれませんか。これはこの国の問題です」
「あっ、はい……」
……怒られてしまった。
リリは結婚するだけだから、重要な仕事しなくていいと助け舟を出そうとしたのに、ララに怒られてしまった。
優しいだけじゃなく、しっかりと怒れるみたいだ。だったら、いじめっ子の妹も叱って欲しかった。
もしかすると他人は叱れても、妹には甘々のお姉ちゃんなのかもしれない。
「エース様、リリじゃないと駄目なのでしょうか? 私では駄目な理由は何なのでしょうか?」
「それは……」
「どちらでもいいと言うのならば、姉の私を選んでもらえないでしょうか?」
「うっ……」
……やめて、こっちを見ないで。
ララに問い詰めてられて、王子が助けを求めて、チラチラと私の方を見ている。
さっき部外者宣言されたばかりだ。この国の事なんだから、自分で決めて欲しい。
姉の方が結婚したいのなら、そうすればいい。
「エース様、私は婚約者を辞退します」
「いや、それは困る」
「もう決めました。ナターシャさんを自殺未遂させるような私には相応しくないです。姉様の方が相応しいと思います」
王子に決断しやすいように、リリが婚約者を辞退した。これで残りはララだけになった。
当初の計画とは違うものになったけど、ララの方は結婚する意思はあるようだ。
このままだと姉も辞退される。姉妹二人に辞退される前に王子には決めて欲しい。
「分かった。ララ、私と結婚してくれないだろうか? 必ずとは約束できないが、君が幸せだと思えるように努力する。どうか、私と結婚してくれ」
私が心配する中、王子は決断したようだ。ララの前に跪くと結婚を申し込んだ。
リリの時は立ったままだったから、本気で幸せにする気があるようだ。
「はい。私で良ければ喜んでお引き受けします。これからもよろしくお願いします、エース様」
「ありがとう、ララ。君には感謝の言葉しかない」
どうやら、これで終わりのようだ。
ララが黒いドレスのスカートを摘んで持ち上げると、結婚の申し込みを喜んで受け入れた。
♢
「それじゃあ、私はナターシャと父上に知らせてくる。君にも感謝している。自白剤はもう必要ないだろうが、約束通りに報酬は支払うつもりだ」
「ありがとうございます。幸せになってくださいね」
「ああ、そうなるつもりだよ」
話が上手くいったので王子と一緒に部屋を退室した。これで私は自由の身になれるはずだ。
ナターシャを毒入り自白剤で殺害しないなら、国王も私を口封じに殺す必要はないだろう。
……さてと、念の為に部屋を盗聴しておきますか。
王子が立ち去ったので、最後の仕事に公爵令嬢の部屋を盗聴しようと思う。
本当にララが喜んでいるのか、リリが納得して辞退したのか分かるはずだ。
生意気な妹が姉に嫉妬して、喧嘩になっている可能性もありそうだ。
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