第5話

 ゲート及び異形の出現から今日に至るまで、様々な対策が成されてきた。Rebel本部がある東京全土には異形に即時に対応出来るよう監視カメラが設置されている。


 その記録は総帥と総帥に許可された者しか閲覧出来ないことになっていた。しかし例外もある。それは司令室で隊員達を指揮する際に使用されるモニター。そこには必要に応じて映像を映すことが許可されていた。


 総帥補佐である如月和紗はモニターに映された光景に、口元が引き攣るのを感じた。


「まさか、瑛人総帥のお力がこれ程とは·········」


 蛾の異形は漆黒に呑み込まれ死体すら残さずに消えてしまった。ブラックホールに吸い込まれたと言われても納得出来るレベルである。


 そして和紗が次に気になった点は廃墟化していた街がほぼ全壊状態になってしまったことだった。


 ──瑛人総帥。あなたは颯海準二級隊員を止めるために向かわれたのでは無かったのですか········。


 これではむしろ被害が大きくなっただけだ。不自然に隕石でも落ちたのでは無いかという程に穴が空いた地面。辛うじて建っていたしばらく管理されていなかった建物も今では瓦礫と化していた。今まで瑛人総帥の無気力な姿ばかり見ていただけに異形よりも恐ろしく感じる。


 桜羽瑛人。彼は世界で初めて異形を単独撃破したということで有名だが、異形に詳しい者たちの間では世界で初めて対異形武器を作成した、異権装の製作者として有名だ。


 本来ならひとつ扱うのも困難な異宝を7つ制御するなど人間業じゃない。瑛人総帥以外で異宝を複数扱える者は居るが、最高でも4つが限界だ。


 和紗もRebelに所属する条件にある、異権装に触れても侵食されない程度の精神力、をクリアしているが故にその凄さは理解していた。


 だが、ここまで後先考えずに攻撃するとは想定外だった。こんなことならばあの時止めておくべきだったと後悔している。和紗は額を抑えながら周囲にいる職員達に指示を出した。


「調査本部長に連絡。至急巻き込まれた市民が居ないか捜索を。隊員補佐は颯海準二級隊員の安否を確認してください」


 颯海隊員は間違いなく瑛人総帥の攻撃に巻き込まれていた。流石に隊員を殺めることは無いと思うが、そこで信頼しきれないのが桜羽瑛人という人物である。


 現実逃避をしたい気分の和紗の隣で、違う指揮系統を持つ副司令官が指示を出していく。


「瑛人総司令官は力を使った反動で意識を失いやすい。二級以上の護衛をつけて今すぐ迎えに行けッ!」


 副司令官の指示を受けた職員達は慌てて司令室を後にする。総帥に次いで強い権限を持つ元瑛人総帥の隊員補佐。彼の名前は公開されていないので皆副司令官と呼んでいる。


 左目に眼帯をした白髪の青年。彼も元一級隊員だったが瑛人総帥が《下総》だった時に自ら補佐を名乗り出たとか。和紗は2人の間に何があったのかは知らないが、信頼出来る人物なのは確かなので気にはしていなかった。


 一通り指示を出し終えた和紗も司令室を後にし、研究室に向かう。技術部に街の復興を頼まなければならないからだ。


 Dクラス以上の異形は一体倒すだけでも裏で手を回さなければならない程被害が大きい。今回の件も政府に報告する必要があるのだが、瑛人総帥の指示といえば大抵の事が許されるので大丈夫だろう。


 和紗は自身の上司の万能さに感謝しながら仕事に向かった。

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