第2話
異権装。それは、異形の体内に存在する未知の物質で出来た宝石、異宝を元に作成された装備品。異権装には様々なモデルが存在し、銃に剣に鞭に杖と種類が豊富だ。
異権装は異形の能力を一時的に引き出すことが出来る異宝を元に作られた武器。人によって武器ごとに適性があり、使用方法を間違えば人間を辞めて異形の仲間入りすることになる。
僕が知っている事例では、右手が獣の様に変化した隊員が居た。そのまま使い続ければ全身が、そして次に精神が異形へと変貌してしまう。記憶を失い理性を失い、まるで最初から異形であったかのように。これを侵食という。今のところ治療法は無い。
しかしそのリスクを負ってでも使う価値はある。再生能力が高い異形に唯一再生不可能なダメージを与えることができる武器だからだ。
隊員の階級は下から新人隊員、隊員補佐、四級隊員、三級隊員、二級隊員、一級隊員、そして一級の中でも序列上位16名で構成された
今回の資料に載っていた準三級の二人は、次の試験で二級に昇格する可能性が高かった人物達だ。つまり実質二級レベルの隊員が2人も居て負けたと言うことになる。
僕は異権装が保管された部屋の入口で待つ和紗に、ちらりと視線を向ける。
「あの蛾の異形、最低でもCクラスはあるよ。しかも広範囲に鱗粉を撒くときた。僕一人じゃ一般人を巻き込みかねない」
だから僕じゃなくて他の隊員呼ぼうよ。最悪押し付ければ········いや、これはちょっと最低な気がするのでやめておこう。僕はこれでも機関のトップなんだけど、なんで戦場に出向かないと行けないんだか。──あ、3日前の僕のせいだわ。これ以上考えると余計頭が痛くなりそうなので、僕の相棒を持って部屋を出る。久しぶりに持ったからか少し重いな。
僕の異権装は漆黒の剣に7つの宝石がついた剣。7つの宝石一つ一つが異宝で色が違う。だから僕は7つ以上の能力を扱うことが出来る。僕の自信作だ。
刃をチラッと確認してそのまま外に向かって歩いていけば、和紗が追ってくる。まさか一緒に殲滅に行く気なのかな? 首を傾げる僕に、和紗はタブレットを弄りながら言った。
「確かに、瑛人総帥の仰ることも最もです。F〜Sでランク分けされた異形の中でもCクラスは二級が2名以上必要ですから。それもまだ未知の異形となると······」
「最悪Bクラスを超えるだろうね」
初めて世に知られた異形、岩の巨人は数万人を殺したが、あれでDクラスだ。今はある程度異形に対する情報や体制が整っているから被害が少ないだけで、いつまたあの事件が起きてもおかしくない。
僕は確かに面倒ごとは嫌いだし常に眠っていたいのだが、元隊員として、総帥としてこの状況を看過することは出来ない。本当は嫌だけど。本当に嫌だけども。
重い足取りで司令室から出ようとしたその時、耳に付けていた通信機器に連絡が届いた。隊員が戦闘中に送ってくる音声だ。和紗に目で合図をして、音声共有で再生する。
『ちーす総司令! 良ければ新種の異形俺に任せてくれませんか? ちょうど状態異常に耐性付けたかったんですよ。返事無かったらOKってことで勝手に行かせて貰いますわ』
──プツン。一方的に話されて勝手に切れた。
「·······················」
「·······················瑛人総帥。いくら準二級隊員とはいえ、この態度は些か問題なのでは···········」
「僕もそう思う」
颯海煌斗。明るい性格で無邪気。良くいえば無邪気で元気、悪くいえば空気が読めない礼儀知らずで五月蝿い男。
僕が苦手な人物でもある。なんせ彼は戦闘大好きで騒がしい人間だからだ。僕が眠い時に限って異形を引連れて巻き込んでくる、とんでもない男なのである。
今この状況では大分ありがたい申し出なのだが、彼の声音から察するに、絶対一般市民を巻き込む。結局僕は現場に向かわなければならないようだ。しかも仕事が増えた。
「僕は蛾の異形の対応に行くから、この場の指揮を君と副司令官に任せるよ」
「··········承りました。無事を祈ります」
「ありがとう」
心配してくれるのに僕を引き止めてはくれないのね。仕方ない。今回は諦めて行くよ。僕は異権装の能力のひとつ、重力操作で高い位置にある司令室の窓から飛び降りる。
これ、時短の為によくやるけどトラウマになりそう。体吹っ飛んだら誰か回収して。
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