第11話口は挟めない
「少し痩せた?」
『そうかな?ちょっとダイエットしているからその成果が出たのかも♪』
「お久しぶりだねw」
『そうだねwもう少しでまた冬物の服になるとこだったじゃんw』
あぁ、そうか…いつの間にかそんなにも時が流れていたのか…
2人の会話にワタシの意識は呼び起こされた。
久しぶりにこの男の柔らかい声を聞けたからだろう。
「ごめんね。急に全然呼ばなくなっちゃって…」
『いいよいいよ!気にしないで!タイミングとか色々あるし、それに今日また呼んでくれたじゃん♪それが嬉しい♪』
嘘だ。私は割と気にしていたんだ。急に呼ばれなくなった事、最後に呼んでくれた後に私に気づいているのに声もかけてくれなかった事…
私の事好きって言ってたじゃん…
(おい、女…この男はバカだから気づかないかもしれないが、今のお前の顔は嘘笑が張り付いているぞ)
独り言だ。ワタシが何を言っても2人には届かない。
「いや、実はさ、仕事をね…とても頑張ってみたんだよね。」
『ん?』
(ん?)
「街でさ、マリアちゃん見かけたんだけど、ビビって声かけられなかったのさ…」
『え?』
あの時だ…ビビってって何に??
私は彼の言っている事が理解できなかった。
「いや、僕なんてさ…」
ほほう…そういう経緯か。なるほどなるほど。
2人の会話を聞いているとなかなかどうして面白い。ワタシを他人の所に預けた矢先にそんな面白い心情の変化があったとは…
人の心の機微というものは本当に理解しかねる…この女、何故泣きながら怒っているのだ?
この男も努力の結果を示したのに怒られて…挙句優しく礼を言うのだ?
この女のためにこの男は頑張ったのだろう。
この女はこの男を想ってしまったのだろう。
ワタシは素直に納得しないがね。報酬のある愛情なんて契約でしかないのだ。たった1時間の(まやかし)でしかない。今日だってそうじゃないか。
どうだね?君達。異論はあるかね?
………いや、止めておこう…
ワタシが何を言っても2人には届かない。
しかし、認めざるを得ないではないか…泣きながら怒って抱きついている女と、それを優しく受け止めている男の姿を見てしまっては…
きっと、ワタシの心配が杞憂に終わる事を…
(悲恋に終わらぬこの2人をもう少しだけ見届けたい)そうワタシは神というものに願ってみた。
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