最終話時間II
『ねぇ、今度のアキくんの休みここに行かない?』
「なっちゃんが行きたいんだったら良いけど、この前もこんな感じの所行かんかった?」
『いやいや、ここはこの前の所と違って遊歩道の途中にある休憩所にケーキがあってね…』
季節は巡る。初めてこの男がこの女をこの部屋に呼んでからどれだけの時が流れただろう。
二人が休日の予定の話で盛り上がる。そのやりとりは前迄のものとは違い、どことなく落ち着きが垣間見える。
初めはマリアと呼ばれていた女も今では別の名前で…いや夏香…なっちゃんと愛称で呼ばれている。
初めはお兄さんと呼ばれていたこの男もアキくんと愛称で呼ばれている。
今となっては過去に夏香に対して厳しい態度を取ってしまっていた自分が少し恥ずかしく思える。
(よく気の利くいい女ではないか。)
2人が付き合い出して一つ季節が過ぎた辺りでそう言って認めてやったよ…まぁ、当人達には聴こえてないのだがな。
ワタシは知っている。この男がどの様な人生を歩んで来たのかを。
ワタシは知っている。この男が夏香と出会ってどう変わったのかを。
ワタシは知っている。この男がいない時、夏香がワタシに語りかけていたのを。
ワタシはといえば、もう既に楽器としての体はなしてはいない。丸さんの粋な計らいでワタシの…いや、ワタシだったものからギター形の装飾品を作成してくれた。
いや、まさかこの様な形になっても自我を保てるとは思ってもいなかった。
この時間はきっと、神と呼ばれるものが信心深いワタシに与えてくれたボーナスの様なものなのだろう。
ワタシはワタシに与えられたこの時間を2人を見守っていく事に使っていきたい…
ふと、夏香と目があった気がした…いや、気のせいだろう。
最後に、ワタシは知っている。もう、2人に60分一万五千円の報酬は発生していない事を。
60分一万五千円の恋 @pochi1n
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