第7話空白
『今月もまだ指名入らないなぁ…』
いや、まぁ、別に客に困っているわけじゃないんだけどさ…
そうだ。私はそこそこ容姿が整っている。
コミニュケーション能力もキャバクラで働いていた時に培ったから、そこそこ自信がある。
だから、リピーターだって、そこそこ付いてくれている。
でも、あのお兄さんに前に指名を入れてもらってからもう二月ほど経っている。
『何か気に触るような事言っちゃったかな?』
それとも流石に毎回ただ話をして終わるのが嫌になってしまったのだろうか…
『そりゃそうだよね〜…』
目的からの結果が風俗のそれとは違うんだもの。それならキャバクラやスナック、ガールズバーにでも行けば済む話だし…でも、なんかモヤモヤしてしまう自分が情けなく思えた。
『はぁ〜…』
【溜め息を吐くと幸せが逃げていく】
なんて事を昔誰かが言っていた気がする…
「何?どうしたの⁇溜め息なんかついて。浮かない顔していると接客にも出ちゃうよー。」
事務所の向かいにある私の行きつけのBAR。
そのカウンターの隅で物思いに耽っていた私の横から不意に声をかけられた。
『あー…ななちゃんお疲れ様〜。今日はもう上がり?』
この子はナナセ。勿論、源氏名だ。
私の働くお店のNo.1。毎日のように予約で完売御礼。まぁ、業績も内面も怪物だ。
私だってここまで自分を殺せはしない。
「うん♪明日は朝から用事があるからねー♪」
かなりご機嫌だ。きっと男なんだろう。
「せっかく早めに上がったし、一杯飲んで帰ろうかな〜?って思ってたらマリアちゃんが寂しそうにボーッとしてたから声かけちゃった♪」
私はこの子を信用しない。信用しないし、信頼もしない。だから、知った顔の人間が考え込んでいる姿を見て心配して声をかけた様な事を言うこの言葉も当てにはしない。
『あー…そうなんだ。ちょっと飲み過ぎただけだから心配しないで。それにそろそろ帰ろうかなって思っていたところだし』
「えー、そーなんだ。元気づけてあげようと思ったのにー。あっ、そうそう。あんまり1人のお客さんに入れ込まない方が良いよー。どうせ男なんて素人でいい子が近くに出てきたら離れていくもんだからね。今指名してくれる男にいっぱいお金を使って貰う方法を考えた方が良いんじゃないかなぁー?」
そう笑顔で語るナナセの目はまるで爬虫類のように冷たく、温度を感じさせなかった。
『心配してくれてありがと。じゃあ、私もう帰るね。』
薄寒いモノを感じ足早に店を出てふと思った。
1人の客に入れ込んでいるように見えていたんだ…
『そうだよね〜…』
あのお兄さんから指名の入らない空白の期間が私に、あの時間がとても大切なモノになっていた事を気づかせてしまった…
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