第4話余談…ではない。大事な話だ
余談だが、大切に扱われてきた物には命が宿る。と、古来より云われている。
きっと、私がそれなのだろう。いつの頃からか意思というものがある事を自覚していた。
私の今の持ち主は私を大事にしてくれていると思う。
ぬるい不幸に身を浸しているこの男だ。しかし、この男の「父」と言われる男。この男が物を大切に扱う男だった。
父としては微塵も役目を果たしてはいないのだろうが、私にとっては紛れもなく命を吹き込んでくれた父の様な人だ。
スクラップ同然だった私を本来の役目が果たせる状態まで修繕し、手入れをし、奏で、音に味があるとそれはもう大切に扱ってくれた。とても甘美な時間だったと覚えている。
そう、私は生産され60年は過ぎようとしている差がないボロボロのギター…
まぁ、結果、私もこの男同様、あの男に置いて行かれたのだが…
ここからは余談ではなく、大事な話なのだが、私は声を発しない。
この男を諭す事もできなければ、叱る事もできない。
語り合うこともなく、笑い合い、泣きあうことも叶わない。
只々、見ている事、一方通行の話を聞いてやる事しかできないのだ…
どうしたものか…もう、何度目になるだろう…またあの女ではないか…
とても楽しそうに話す男は見ていて気持ちが良い。
何をする訳でもない。只々、止め処なく楽しそうに会話する二人…
もし、外の世界でこの様な二人を見たのなら、とても仲の良い男女、つがいの様に見えるのだろう。
間違い無い。この男はこの女を好いている。
良い事ではないか。祝福してやりたい気持ちで一杯だ。
ぬるい不幸に身を浸し異性との恋愛なんて「どうせ自分なんて」と投げやりだったコイツが前向きになっているんだ!応援してやりたい!
しかし、私は知っている。
60分1万5千円の報酬が発生している事を。
今はお金でその関係が繋がっている事を。
きっと、悲恋に終わってしまうであろうこの男の淡い恋心に諭す事も、正す事も、叱る事も何も私は出来はしないのだ…
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