第3話笑顔
「マリアさーん、ご新規さん指名入りましたー下に車まわしておくんでお願いしまーす!」
うるさい…
電話口でそんなに大きい声出さないでよ…
疲れているの…
『はーい、準備するんで少し待ってください』
今日はもうこのまま上がれると思ったんだけどな…
お金の為だ、もうひと頑張りしましょうか!
そう自分を鼓舞し、私は荷物をまとめ、少し大きめの溜め息とともに寮の鍵を掛けた。
『おまたせしましたー』
「いいっすよ。んじゃあ、出まーす。」
送迎の車は走り出す。
『顎痛い…腰も痛い…』
そんな愚痴としか取りようの無い言葉がポロッと出てしまった。
「はははっ…テキトーに流しちゃってもいいんじゃ無いっすか?どうせ、自宅の人でしょ?金なんて持って無いっすよw」
『そうだねー…どうせ太客になんてならないだろうしねー』
だいたい、風俗を自宅に呼ぶ男の気がしれない。
不衛生だったら嫌だし、ホテル代ケチってんじゃないわよ。
そういう奴に限ってアレして欲しいだの、コレしてくれだのと、やたらと煩い…そんな事をツラツラと考えていると目的の建物に到着した。
『はぁ〜…行ってきます。』
「時間より早めに電話しましょうかー?」
なんだ?コイツ。気が効くじゃない。
『ありがとう。お願い。』
3階建ての単身者用の安アパートって感じかな…
結構古いし、中もボロかったら嫌だなぁ…
階段を上り蛍光灯の切れかけた廊下を歩く…
あっ…ここだ…呼び鈴を押し、少し待っていると部屋の扉が開いた。
『こんばんは〜』
「こんばんは〜、こんな遅くにゴメンね〜」
私のとびきりの営業スマイルと絞った声の挨拶に帰ってきた返事の先の客の顔に目を向けた。
一目見ただけで分かる。とても優しそうな男が少し申し訳なさそうな笑顔で私を出迎えてくれた。
優しい笑顔だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます