第39話

 那内は言葉を失っているのか、お腹を抱えて蹲っている。


 そんなことを気にする余裕がないのか、雨狩は死んだはずの出石眞に叫ぶ。


「残念、全て仕組まれたトリックよ。まぁ、後から分かるけどね。まさかこんなに上手く行くとは思わなかったわ。きゃははっ♪」


(様子がおかしい。こんな人ではないはずだ。天候もさっきは昼だったのに夜になっている)


「ヒントその一。山上の後に井田を拘束した時にデスバインドの効果無かったでしょ?」


「そういえば、同性に狙われていない? 今思えば過剰では無かった」


「あはははっ♪ 使っても次の日にホモ相手にはなるとか考えてた? ねーよ! バーカ!」


「どういうことです?」


「ジャジャジャジャーン♪ 今からお見せする衝撃の真実と豪華ゲストのご登場~♪」


 出石眞が愉快そうにそう言うと、周りに人がどこから来たのかワラワラと現れる。


「これは一体!? 何が起きているんだ!?」







 周りの人間はみんな雨狩の見知った顔ぶればかりだった。


 クラスメイトの井田達。


 那内の友人の北井達。


 後輩の梅貫に担任の本川。


「なんで? どうして?」


「私もいるわよ~」


 そう言ったのは出石眞をコルトパイソンで殺したはずの殺された山上。


「フフフ……もちろん私もおりますよ、雨狩君」


 自害したはずのの警察官のエクソシストハンター沢城。


 他にも事情聴取した警察官に雨狩の両親。


 あの不気味な異形の姿は無い。


「……」


 雨狩は突然の事態に言葉を失う。


「なんだよ~。豪華ゲスト出してあげたんだぜ~。もっと喜べよ? 儀式のために協力してくれたスタッフたちだぞ~? 雨狩ぃ?」


 先ほどから口調が変わっていく出石眞は、両手を大げさに広げてそう言う。


 出石眞の背中には、黒いデーモンの様な羽根が生えてきている。


「まさか? 異形の? 出なければ出石眞さんはここにいない」


「あっはっはっ! こいつまだそんなおめでた作り話信じてるのかよ~! あ~、イタイ、イタイ、腹イタイ!」


「作り話? 儀式とは何です?」


「簡単に言うとだな。お前ら二人は我々の創造主であるセレナード様の永久封印を解くために必要だったから利用したんだよ! ゲームじみた遊びでなぁ?」


 出石眞、いや出石眞だったものは、頭に角が生えて目が黒くなり瞳孔だけは黄色くなる。


 魔炎スカルフレイムの時の両手だけが、三本の爪と大きな髑髏の小手のままだった。


 それ以外は面影の無い。


 まるでその姿は悪魔と呼ぶにふさわしい。


 雨狩はかつてない恐怖を後から感じてくる。


「は~い♪ 雨狩君の質問タイムどうぞ~♪ ってか答えてやるよ。俺様は優しいからよぉ~」


 男性の声と出石眞の女性の声が混ざり合いながら、悪魔は話す。


「デスバインド!」


 雨狩が指先を向けるも黒い鎖は出てこない。


「……そんな……まさか? 嘘だ! 確かに借りているはずだ」


「あのさぁ……同じこと言わせんなよ~。使える訳ねぇだろ! バカか? ええ、秀才ちゃんよぉ!?」


「能力を借りているはずなのに……いつの間にか返した? なら五感が一つ奪われているはず?」


 雨狩は困惑して、デスバインドをもう一度使おうとする。


 しかし何も起こらない。


「ああ、能力借りてたな。俺達悪魔が作った能力と言う玩具がさ! まぁ、あれだけじゃ世界は掌握出来ないのも苦労だったぜ。那内にもお前にはデメリットは無いんだな、これが!」


「なんだと!?」


「那内の能力は儀式に必要だった」


「えっ?」


「モータルブレイクザワールドは俺たちの悪魔界に移動させるための許可を得た上で発動する転移魔法だよ」


 絶句する雨狩は思考が停止しかける。


 周りの顔見知りの人物たちだけが笑顔のままだったのが異常さを増している。


「お前のデスバインドはただの玩具だ。正確には那内に魔法を使わせるための芝居の一つに過ぎない。お前は見ていないだろうがイモータルブレイクザワールドは発動するとヘドロで一坪分の本来のお前たちの世界から隔離出来て、俺達悪魔界に転移できるんだよ」


「那内さんの借りた能力が? でもデメリットがあるはずじゃ? 確かに空腹になっていた」


「一回使えば良いし、悪魔界に移動できたわけだし、今更デメリットも面倒だからよ。後からが芝居打つのが面倒になってきてな。バカバカしくなっただけよ。まぁ空腹は確かにデメリットだったな」


「そうでしたか……ならばっ!」


「ああ、そういうことだわ、ん?」


 バンッという音が聞こえた。


「おべぇ! てめぇ……それは……弾丸……血が流れ」


 銃声。


 持っていないはずのものを雨狩が持っていた。


「ずっと前から、薄々気づいていましたよ、僕も演技が上手くなりましたよ」

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