第10話
「おお~、君が雨狩君だね。まぁ、何も無いところだが、ここは一つ私の顔に免じて許してくれ」
眼鏡の女性がそういって、近くにある椅子をガタガタと音を立てて、那内の隣に置く。
「飯田ぁ。日本語おかしいぞ。免じるとか、お前は過去に義理や恩とか初対面の雨狩君にしてねぇから、チャラも何もないだろ?」
北井がそう言って、飯田と呼ばれた眼鏡の女性の頬を指でぷにぷにとエレベーターのボタンのように軽く押す。
「私の秘書が世間知らずで、すまんね。雨狩君、ささっ、座りたまえ」
「あはははっ! イイちゃん。今日面白いことばかり言ってて、楽しいよ~」
那内が笑顔で、イイちゃんと呼ばれた飯田を楽しそうに笑い合う。
北井がショートボブの女子にチロルチョコを渡しながら、半笑いで飯田を見る。
「あんた勉強ばかりで、ついにどうかしたの?」
「私だって時にははしゃぎたくもなるさ。何せ、雨狩君が来てくれるとは思わなかったからな」
「あの……おじゃまします」
椅子の前まで近づいた彼はそう言って、用意された椅子に腰かける。
「雨狩さん、この前は本当にありがとうございます。お礼に肩揉みますね」
ショートボブの女性はそう言って、雨狩が何か言う前に肩を揉み始める。
「えっ、嫌、ちょ、ちょっと待ってください! い、良いですから~! そういうのは~」
「ん~、腱板損傷っぽいですね。揉めば揉むほど、深刻だと分かります」
「ええっ! そ、そんなぁ! 僕の肩はこのまま逆に揉んだら断裂してしまうじゃないですか。びょ、病院行ってきますから、揉まないで下さいよ!」
雨狩は割と本気で、心配していた。
「こらこら、美空木も悪乗りすんな。雨狩君、そんなこと絶対ないから、そもそも医者でもない単なる学生だから安心して」
「す、すいません。てっきり美空木さんのご両親が医学関係の方で、教えてもらっているのではないかと」
「考えすぎ、考えすぎ。それじゃあ、みんなそろそろ本題に……」
北井が言い終える前に、那内は腹を抱えて笑っていた。
美空木と呼ばれたショートボブの女子は揉むのをやめて、雨狩にじゃがりこを見せた。
「雨狩さん、今夜これでどうでしょうか? 気に入ってもらえるように尽くしますから」
「ほほう! 雨狩君も隅に置けないなぁ! もう美空木を物にしたのかね? じゃがりこを貰ったら、美空木との初夜が始まるな。その前に、まず私のVIPルームに来なさい。立派な余裕のある出来る男になるぞ!」
「しょ、初夜って! ええっ!? いえ、あの! 待ってください。じゃがりこは、要りませんから。僕はただ今日から那内さんに勉強を教えに来ただけですから!」
「あのさ、あんたたち……」
「雨狩さん、私はお尻がちょっと大きいですが、安産型だと思うで安心してください」
「ええっ! いや、ちょっと美空木さん? ダメですよ! 男性を前にしてそういうことを言うのは!」
「ちなみに美空木は、ちょっとだけ日焼けしているが、下着の部分は日焼けしていないので……エロいぞ!」
「はぇえええええ! い、飯田さんまで何言いだすんですか!」
「あはははは! ダメ! もうお腹痛い!」
雨狩は慣れない環境に戸惑っていた。
「い・い・か・な!?」
北井が凄く怖い笑顔で、大きめの声で飯田や美空木を静かにさせる。
雨狩はビクッとしたが、静まった数分間でホッと落ち着き、肩の力が抜ける。
どこか温かみを感じた。
飯田や美空木に北井が那内と同じくらい優しい人達に思えたからだ。
そして自分を受け入れてくれることに心の底から感謝していた。
(嫌われているようには見えないないな。一部の女子たちだけに嫉妬でもされているのだろうか?)
「雨狩君、とりあえず那内に勉強教えてやってね。あと一時間くらいで学校出ないと守衛さんに怒られるから早く下校しよう」
北井がそう言うと、雨狩は思考を止めて返事をする。
「うん。じゃあ、あたしの家の近くに公園のある図書館があるんだけど知ってる?」
北井の家の近くとは知らなかったが、雨狩はその図書館を知っていた。
「はい、小学校の頃によく通ってました」
「とりあえず、あそこまで行こう。さ、あんたらも明日は土曜で休みだし、そのままあたしの家で泊まっていいからさ。……話したいこともあるしね」
「北井、朝に何か抱え込んでいるように見えたのは、やはり理由があったか……」
「やっぱり飯田だけは騙せないか。家で説明するからね」
「わかった……さ、美空木。こういう時の北井は我々女子特有のコップ八杯分くらい流れるあの血より深刻なこと言うだろ?」
「ええ、そうですね。飯野ちゃんが言うコップ八杯もアレは私は出ませんけど、準備しましょう」
雨狩は昨日起きた出来事と、那内の様子などを北井が那内無しで二人に話すのだろうと思う。
なるだけ集団で、帰り那内に危険が起きないように、安全な場所まで付き添うことを理解する。
「三加、勉強終わったらメール送れよ。弟と一緒に来て、あたしの家までナビって泊まらせるからね」
「大丈夫だよ。行ったことあるもん。というか私にもちゃんと話してくれる? 仲間外れはズルいからね~」
「三人に話した後で家に来た時に話すから、大丈夫だよ」
那内は昨日のことをすっかり忘れていたのか、鞄を持って椅子を片付ける。
そして雨狩達と一緒に教室を後にした。
※
「……というわけで那内君は文系の私と美空木がいつも教えているのだが、肝心の理系の北井は教え方が絶望的に下手なので、結果として那内君の点数がギリギリなんだよ」
「そうなんですか。それじゃあ理系を僕が教えれば良いんですね?」
飯田の説明に歩きながら、答える。
「うむ。そのトールギス。雨狩君には理系科目だけを教えてくれれば、残った分は私と美空木が教えるので一つ頼む」
「と、トールギス?」
「あ、彼氏のギャグでな。アニメのロボットだよ。その通りですを、そのトールギスと……」
「飯田? そんなのどうでも良いから本題な」
「うむ」
校舎を出てから北井の家に向かって歩く。。
途中のコンビニで五人で、買い物をしている時に飯田は雨狩と一緒に二人でアイスコーナーにて話を続ける。
那内は南空木とテニスの部活の話をしながら、雑誌コーナーで話しており。
北井はみんなで買ったものをレジで、料金を払っている所だった。
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