第1話 この世は借り物でできている
この世は借り物でできている。
そう思うことはないだろうか、CDやDVDなどは一般的に思いつくであろうが、それ以外にも車や住居、人だってレンタルされている。昨今のサブスクリプションのブームやリースプランの流行りもあるのか、世の中に大分借りるという言葉が浸透してきているように感じる。
この世は借り物でできている。
そんな中、この青年もレンタル・・・にコキ使われている一人である。
「おい、あんた!何やってる!こっち来い!」
「はい!」
時期は夏本番、目の前に広がるのは凸凹の道、そこら中にユンボやブルといった重機たちがそんな凸凹道をさらに凸凹させてり、逆に整地したりしている。そう、彼は今土木現場にいる。それも山を切り崩しての大がかりのものだ。そんな事はどうでもいいと彼は思う。熱い、熱すぎるのだ。業界的にも高齢化が進んでいるのもあるが毎年多くの人が現場で熱中症で倒れる。正直なところ年齢とか関係なくこんな炎天下の中作業していたら気づいたらなっているのもうなづける。
「すいません、これを引き上げればいいですかね?」
「ああん? 聞こえねーよなんだって!」
「これ引き上げてもいいですか!!」
「ああ、これ? 持ってけよ、これでいい。」
「・・・わかりました。」
わかっている、工事現場うるさいから聞こえないのはわかっているそれに関してはとりあえずいい。だがとはいってなぜそんなに不機嫌なのだろうか。僕は不機嫌そうに去っていく背中を見て肩を落とす。そうして、いつものように現場にこき使われた水中ポンプを営業車の中に入れる。
彼こと
こんな商材をつかうので彼は詰まる所レンタルに使われてると思っている。レンタルという商材は建設機材に限った話ではないが宣伝が重要である。レンタルという商材の関係上競合他社が生まれやすく如何に相手より先に宣伝し、ネームバリューを持たせ集客するかが重要なのである。そうしなくては真似しやすい分潰れるのも早い。そうして多くの企業が生まれては潰れた。
話は戻りその理論で行くと彼のいる会社の商材を宣伝するにはどうしたらいいのだろうかCM、看板、インターネット、YOUTUBE・・・いいや、違う人である。人が宣伝するのが一番効率がいいのである。それはなぜか、CMやYOUTUBEなどに載せたところで使う人達や業界が絞られている分しても知名度アップにはなるかもしれないが不特定多数に宣伝したところで実際に使ってくれるわけではないので正直効果が薄い。そうするとやることは何かと言えば、人が直接営業することである。そうすることでより刺さる人達にしっかり刺さってくれる。古典的と思うかもしれないが実がこれが一番効率がいい、メールや電話ではダメなのかという意見もあるだろうが前述のとおり高齢化が進む業界のためネット関係に疎く、また電話もあまりいいイメージを持たれにくい現状にある。若手もそんな人たちを見ているせいかそうした人が多いい印象がある。
まあ、何が言いたいかといえばそうして彼のようなとても非効率な人が宣伝する可哀そうなブラック営業マンが出来上がる。これは闇だ、闇そのものである。彼らはレンタルが出るためなら配送だろうが、タクシー替わりだろうが接待だろうが、そうして客先には「借りてやってるだろう」基本上から目線で当たられる。下に見られているところからのスタートである。そうしてやっとレンタル品が出る。
しかし、これで終わりではない。レンタル品は帰ってくるまで気が抜けない。その間の整備不良や故障の場合こちらから整備する必要がある。そして、それはいつかかってくるかもわからない。昼間の現場だけでなく、夜間や早朝、日曜祝日もそれは関係なく電話が突然なり、怒鳴り散らされる。担当現場多ければ多いほどリスクが上がる。そうして彼は走り出す、さも当然だとこれは普通なのだと言い聞かせながら。悲しいサガである。
釘崎はポンプをしまい終わると袖で汗を拭い、車に戻る。エンジンをかけるとマックスパワーのクーラーが彼を優しく癒す。この時が一番生を実感する。そんなことを思い、車を現場の出口へと走らせる。大きい現場のため出るのにも時間がかかる。途中に先ほどの対応してくれた監督に出くわした。釘崎は窓を開け挨拶をする。
「終わりましたので、これで失礼します!」
「はーい、ありがとう。また、頼むね。」
「こちらこそ、ありがとうございました。」
ありがとうこの言葉は魔法の言葉である。これを言われるだけで先ほどの不貞腐れていた心も浄化されていく、この言葉が彼をこの仕事をツナギ止めている魔法の言葉だ。また、頑張ろうと思える、次の活力になる。またこの人のために頑張ろうと思える。
釘崎はそうしてお礼を言うと窓を閉めまた走り出す。その足取りは心なしか軽快である。現場内の速度制限を守り、進んでいく来るたびに変わる現場の風景は自分が施工したわけではないが、した気分になりなぜかワクワクする。そう思いながら作業中の大型ユンボが作業している脇を走行した。
最期に覚えてるのは鈍い音だった。
サイレンの音がしている、いろんな声が聞こえる頭中に耳鳴りがして何を言っているのかわからない。体を動かそうとしたが動かない、下半身の感覚がない。上半身もかろうじて存在は感じるが動かせる形跡がない。ボーっとするしかし、自然と痛みがなく、思考が回る。目がかすむ、辛うじて見えたのは大きく膨らんだエアバックとその先の潰れたフロント部分強い衝撃のせいかガラスどころかボンネットもなくなりぺちゃんこになっている。
段々気が遠くなっていく、すごく眠い。ふわふわした気分になる。
痛いはずなのに、苦しいはずなのに・・・
釘崎は思う。最後はこんなものかと、案外あっけないものだと。悔しいなと、まだ何も成し遂げてないし、成し遂げる目標もないまま終わることを。こんなことを思いながら死ぬのは嫌だと。
「く・・・そ・・・・」
そうつぶやくと彼はたくさんの人に囲まれる中で静かに息を引き取った。
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