異世界レンタル~買うより借りろ~

御餅

第1話というより序章 買うより借りろ!!

 「ありがとうございました、またお願いします!」

お客様を頭を下げ見送り、少年は息をつき椅子に座る。

襟付きの白いシャツに黒いズボン姿のその少年はどこか疲れ果てている印象である。

 受付があり、受付の後ろにはデスク型の机が二つ並んでおり、その後ろに前の机より一回り大きな机が配置されている。一般的な事務所のような空間である。しかし、どこか古臭さがあり、原因は建物が現代的ではなく産業革命時のイギリスを彷彿とさせる内装の雰囲気を感じるからだ。

「なかなか、軌道に乗ってきたな。」

そんな少年を見て奥のほうから木製のマグカップをもった灰色のツナギ姿の男が声をかける。

「はい、なんとか・・・最初はどうしたもんかと思っていましたが、段々根付いてきてうれしいです。」

と少年が男にむかって笑いかける。それを見て男も同じように笑いかける・・・こちらは笑うというよえりニヤリとゲスな笑みといった方がいいか。

「お前についてきてよかったぜ、あいぼ・・・ビス社長!」

「相棒、ビスでもいいよ、社長は形だけなんだし、それに今更社長とか言われてもむず痒いよナットさん」

「じゃあ、お言葉に甘えるとして相棒、お前もつけなくていいぜ、前も言ったろ」

「僕たちは対等そうでしたね・・・ナット・・・なんか慣れません」

そういいながらビスは照れる。

「ハハハ、お前は相変わらずおもしれなぁ」

「あなたもですよ、ナット」

笑い声が部屋に木霊する。

「さて、今日は新人が来ますよ!ナット!!」

「お、とうとう待望の新人がここに来るのか楽しみだな。」

「そうです、そうです。苦節三年やっと三人になります。」

ビスは天を仰ぎ涙する。

「おっと、こいつは重症だ一人増えるだけでそこまでオーバーになるなよ」

「なるに決まってるでしょ!!、いままでどれだけ大変だったかわかってるでしょナッット!!」

泣いている、本当に泣いているしつこいくらい泣いてナットに近づいてくる、そうしてナットのツナギに自分の顔から出だ体液という体液をこすりつける。

「うぉ!何してんだ!!汚ねぇ!!わかった、わかったから!俺が悪かった大変だったもんな」

「うん、ブラック・・・だった」

「ブラ・・・黒がどうした?」

「・・・・・・何でもない」

「・・・・・・なんかごめんな」

「・・・・・・うん」

「まぁ、なんだ頑張ろうな」

「・・・・・・うん」

「(めんどくさいな、こいつ)」

「めんどくさいと思ったでしょナット?」

「い、いやそんなことないぜ相棒!」

「ほんとうに?」

「ほ、本当だとも!? ・・・そんなことよりもう出来てるのか新人マニュアル」

「・・・・・・。出来てるよ!」

ビスは不審な目でナットを見ていたが、ナットがうまく話をそらしたことで見逃された。ナットはビスに背を向け一息つくと改めてビスを見て話を続ける。

「流石だな、少し任せきりにしたなすまん。」

「いやいや、最後の仕上げをしたいって言ったのは僕だしさ、そもそもこうしてこの商売をできているのもナットのおかげだし。気にしないで!」

「そか、そう言ってもらえるなら、ありがたいね。で、タイトルはもちろんあれだよな?」

「もちろん、僕たちのキャッチフレーズだからね!」

それを聞いてナットはニヤリとする。

 前の席の内、明らかに綺麗な机の上に本が置かれており、そこにはこう記されていた。


【仕事マニュアル~買うより、借りろ!!~】



 事務所に一人の小柄な女性が向かってくる。その歩みは期待と不安が混ざりおぼつかない様に見えてしっかり歩みを止めない。

 髪は淡い栗色をした肩までの長さ、紐で髪を纏めている。服装は仕立ててきたばかりなのだろうか、まだ着慣れていないような白いシャツにクリーム色のカーディガンを羽織り、黒いひざ丈のスカートを着ている。

「ふぅ・・・よし!!」

女性はひとりでに事務所の入り口に少し離れたところで気合を入れる。

そして、店へとまた歩み始める。


 時期は春、この町アクティータウンにも少し暖かい風が流れている。


 これは、町で唯一の変でユニークで少し話題なお店のお話。

そして、のちの時代のスタンダートへと行くかもしれないそんなお話。


 ・・・・・・あ、お伝えし忘れましたが、まずはビスとナットの二人の出会いのお話になりますので、今店先で気合を入れている子はしばらく出番ありません。残念でした。


「なんで・・・なんで・・・なんでなのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

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