06 謝罪と拒絶(1)

 悪夢を見た。とんでもない悪夢だ。

 一言で説明するなら、昔から一緒にいた美夜が俺を捨てて遠くに行く夢だった。涙ながらに「武虎のことなんて大嫌い!」だと言って、冷たく俺を突き飛ばす夢。

 待ってくれ! と叫びながら彼女を追いかける気持ちで跳び起きた俺は、それが夢だったことに安堵する。


「そうか、夢か。これは、夢……」


 ……いや、本当に安堵できているだろうか?

 つい先ほどまで全力疾走していたのではないかと思うほどに動悸が激しい。寝起き直後で頭が働かず、大量に酸素を欲しているのか呼吸が荒く、あたかも深い海の底に溺れていたような気持ちなのに、不思議と喉はカラカラだ。

 べっとりとした寝汗が気持ち悪く、うーむと唸りながらベッドを出て制服に着替える。

 それから家の二階にある子供部屋を出て、まだドキドキする胸を押さえながら廊下を歩く。一階に続いている階段がいつになく急に見えて、間違って踏み外しやしないかと不安になった。

 いつも早起きな両親が待っていたリビングに入って朝食を食べていると、空腹も満たされて次第に頭が働いてくる。

 それと同時に、ここ数週間の記憶が蘇ってくる。

 シャリシャリと音を立てながら瑞々みずみずしいレタスを噛んで飲み込み、口についたマヨネーズをティッシュで拭き取ってごみ箱に捨てる。焼きたてのパンにオレンジ味のジャムを塗ってコーヒーで流し込み、ゆったりと終えた朝食の最後に俺は手を合わせるのではなく頭を抱えた。


「どうして俺はあんなことを言ったんだ……」


 誰にも聞こえないようにと小さくつぶやいたつもりが意外と声が大きかったらしい。眉をひそめて怪訝な顔をする母と父がそろって俺を見た。直接的には尋ねてこないものの、思春期を迎えた息子の心配をしているようだ。

 大丈夫、今のは意味のない独り言、何でもないから心配しなくていいなどと言いながら首を振って椅子から立ち上がり、とにかく学校へ行く準備をする。その間も頭の中を駆け巡るのは、ここ最近の自分がやらかした行為の数々だ。


「くそ、美夜にどんな顔をして会えばいいんだ」


 考えてみれば考えてみるほどに俺は彼女に対して冷たく当たっていた。

 どうしてそんなことを、と我ながら疑問に思えるくらい露骨に距離を置いていた。

 まるで彼女のことを嫌いになったみたいだ。

 あるいは、もしかして本当に嫌いになっていたんだろうか。


「美夜のことを嫌いに? 俺が?」


 いや、決してそんなことはない。自分の感情は他でもない自分が一番よくわかっている。間違いない、今でもちゃんと俺は彼女のことが好きだ。好きでたまらないくらいに恋をしている。まさか俺が理由もなく美夜のことを嫌いになるなんて、そんなことがあるわけないじゃないか。

 しかし、だったらどういうわけだろう。

 突如として熱がぶり返すように、とんでもなく彼女への想いが熱くなってくる。昨日までは不思議と彼女のことなんて考えなかったのに、今日は寝起きからずっと彼女のことで頭がいっぱいだ。

 原因があるとすれば、現実感のある悪夢を見たからだろうか。いつまでも一緒にいると思っていた幼馴染が、いつかは遠く離れて行ってしまうという可能性を夢という形で具体的に見せられたせいかもしれない。


「現実感のある悪夢か……」


 ここ最近の言動が原因で美夜に嫌われてしまえば、悪夢が正夢になっても不思議ではない。完全に嫌われてしまう前に好感度を取り戻しておかなければならないだろう。

 さて、そのためには何をどうすべきだろうか。難しい顔をしつつ一人で考えながら歩いていると、いい方法を思いつく前に学校に着いてしまった。まさか今から考える時間を確保するために引き返すわけにもいかず、覚悟を決めて教室に入る。

 その中に美夜はいた。いつも早い彼女なので、今日も俺より早く席についている。

 わざわざ後ろを通っていくこともできたが、ここは前を通って彼女に声をかけておくことにする。幼馴染である美夜を相手にして、ここまで緊張するのも珍しい。ただ挨拶するだけなのに、それがどうしてか怖くて仕方がない。

 無視されたらどうしよう。

 迷惑がられたら、どうしたらいい。

 怒られたら、悲しまれたら、あるいは、まったく興味なさそうに相手されたら?


「……っす」


 結局、迷いに迷った俺は声をかけられず、あろうことか視線も向けられずに彼女の前を通り過ぎた。

 もちろん彼女からも挨拶はなかった。

 無理もない。俺はそれだけのことをしでかしている。高校に入ってからというもの、彼女に嫌われて当たり前の対応を続けていたのだ。この数日、いや数週間、どういうわけか俺は正気ではなかった。今になって考えると本意ではない行動をとり続けていた。

 だけど、それを正直に伝えたところで簡単に許されるとは思わない。

 けど、ならどうすれば……。

 これで合否が決まるくらいの重要な問題に取り組んでいる気分で深刻に悩んでいると、当たり前だが目の前の授業にも身が入らない。先生には注意され、ノートの書き取りは間に合わず、体育ではよく転ぶ。

 周りに笑われて、ごめんごめんと頭をかいて恥を誤魔化す。

 そうしている間も頭の中は美夜のことでいっぱいだ。


「おい、こら! 武っ虎! なんか今日は変だぞ、お前!」


 休み時間の教室。

 誰かに呼ばれたと思って視線を向ければ、そこにいたのは同じクラスの男子、高杉だった。

 あまり仲は良くないが、悪いというほど悪くもない。とはいえ、まったくの因縁がないわけでもなかった。こちらを責めるような顔を見た瞬間、昨日のことを思い出す。

 美夜にはもちろん、彼にも悪いことをした。


「高杉、ごめんな」


「は?」


「いきなりのことで困惑するのはわかる。だけど今はとりあえず俺の謝罪を受け入れてくれるとありがたい。実を言うと俺も何をどう謝っていいのか心の整理ができていないんだが、とにかく昨日は悪いことをした。ごめん」


 こちらの誠意や謝罪の気持ちが伝わるように、深々と頭を下げる。

 こんなことで許してもらえるかはわからない。だけど、今は彼に謝らなければ気が済まなかった。


「とにかく頭を上げろ。教室でそうやられていると、まるで俺が悪いみたいじゃないか」


「いいや悪いのは俺だ。もしもお前が悪いという間違った噂が広まったら、本当は俺のほうが悪いんだという真実を言いふらしてくれ」


「そういうことは自分でやれ。たとえ事実だとしても、他人を悪く言う人間は嫌われかねないからな。万が一にも自分の悪評が立ったとして、俺はやらん」


「そうか。いい奴なんだな、お前。それも謝るよ。勘違いしていた」


「お前、本当にどうしたんだよ。昨日の今日で頭でも打ったか?」


 ひどい言いようだが、それは本当にそうかもしれない。どこかで頭を打ったと考えれば自分でも納得できる。足を滑らせて階段から落ちたとか、曲がり角で誰かとぶつかったとか、死なない程度の勢いで隕石が落ちてきたとか。

 そういうことであれば記憶喪失になったとしても、一時的に人格や価値観が変わっていたとしても、不思議なことではなさそうに思えてくる。

 しかし、それは都合のいい妄想だ。そのような外的要因に俺がしてきた不義理な言動の原因を求めるのは違う気がする。

 すでにおかしてしまった自分のミスや過ちを認めたくないとしても、昨日までの行いはすべて自分の意志でやってきたことなのだ。責任はほかの誰でもない自分にある。今日から心機一転して悔い改めるとしても、まずはそれを認めることが第一歩だろう。


「あと……それからさ、実は高杉に聞きたいことがあるんだけど」


「なんだよ?」


「美夜とは、その、付き合うことになったのか?」


「は?」


 こいつが何を言っているのか理解できない、という顔で高杉はポカンと口を開けた。

 だから俺は自分の口で説明する羽目になる。


「告白したんだろ、昨日。それで、お前たちが付き合うことになったのかどうか、あの場を去ってしまった俺は知らないんだ。もし交際することになっているなら、今さら俺がでしゃばることはできない。美夜にも、お前にも、何も言えない」


 そこまで言うと、わかりやすく機嫌を悪くした高杉が舌打ちした。


「くそったれ」


「なんとでも言ってくれ。すべてその通りだ」


「馬鹿、アホ、間抜け、とんちんかん。甲斐性なしの鈍感クズ野郎」


「そうだ。ここは遠慮せず、もっと言ってくれていい。お前から何を言われても俺には反論する資格がない」


「くそったれ。だからこれじゃまるで俺が悪いみたいじゃないか」


「すまん……」


 もう頭を下げて謝ることしかできない。悪気がなかったことをアピールするための言い訳を口にするにしても、まず自分を納得させるだけの言い訳が思いつかない。

 力なく視線を落として言葉をなくした俺を見て、高杉はあきれたように首を振った。


「謝る必要があるのは俺に対してじゃないだろ」


「安心してくれ、それもわかってる。もちろん彼女にも誠心誠意で謝りたいんだ。本当は朝一番に声をかけたかったんだけど、怖くて声をかけられなかった」


「不思議だな。昨日までのお前なら、相手の事情なんて関係なく問答無用で彼女に突っかかっていきそうだけどな」


「それはそうなんだが、昨日まではどうかしてたんだ」


 どうかしていた。自分でもそうとしか言えないのが我ながら情けなくて困る。

 数学の問題を出されたと思って真面目に挑んだのに、正解として用意されていた答えがなぞなぞだった時くらいに納得できないらしい高杉は腕を組んで、できの悪い嘘で言い訳する子供を視線で見下ろすようにあごを上げた。


「事情はわからんが、結局はそういうのって自分勝手な都合だろ。彼女を振り回して、後からそれに気づいて謝って、許してもらえたらまた同じことをする。これは俺の口から言うことじゃないと思ったから黙っていようと思ったが、我慢ならん。昨日、彼女は泣いたんだぞ」


「……そうだったのか」


「また何かやって、次に泣かせたときは俺がお前を殴り飛ばしてやる。そう思って全力で謝れ。彼女の泣き顔を帳消しにするくらい、これからの彼女が笑顔で高校生活を送れるようにしろ」


「ああ、わかった」


 当然、彼の言うようにできたら一番だ。

 けれど、果たして今の俺にできるだろうか。

 泣かせてしまったらしい彼女を笑顔にすることが俺にできるのだろうか。

 いや、そもそもにして、あんなにひどいことをしておきながら彼女に許してもらえるのかさえわからない。

 今はひとまず、どうやったら話を聞いてもらえるかを考えることにしよう。





 休み時間や授業中ではなく、すべての授業が終わった放課後の時間を待って俺は彼女に声をかけることにした。それまでに決心がつかなかったという後ろ向きで情けない理由もあるが、それだけではない。

 どちらも高校では部活をやっていないので、放課後ならたっぷり話す時間があるからだ。


「美夜!」


 そそくさと教室を出ていこうとするので、慌てて椅子から立ち上がって美夜を追いかけた俺は後ろから彼女に呼びかける。一応は立ち止まって振り返ってくれた彼女だが、その表情はいつになく感情が見えないものだった。

 少なくとも喜んではいない。つまり怒っている可能性は十分にあるということだろう。

 他の可能性としては、泣きたいくらいに傷ついている可能性も。

 雑談がしたくて軽い気持ちで声をかけたわけではないにせよ、改めて俺は胸が引き締められる思いがした。


「何?」


 あまりにも素っ気なく、美夜のものとは思えないほどに低い声が出た。

 怒っているわけでも、機嫌が悪いわけでもない。

 ただ、声をかけてきた相手が俺だったから、意図的に冷たくしている感じはある。

 もうちょっと体裁を取り繕ってくれるだろうと期待していたせいもあり、早くも俺は心が折れそうだ。

 だが仲直りのチャンスは早ければ早いほどいい。わざわざ自分から声をかけておいて逃げ出すわけにもいかない。


「ちょっと話があって呼び止めたんだ。そうだな、ここで長々と喋っていると他の人の邪魔になるから、よかったら今日は一緒に帰らないか?」


 どうか、頼む、一緒に帰りたいんだという願いを込めて問いかける。


「ごめんなさい。私、一人で帰りたいから」


 そう言って美夜は俺から顔を背けた。

 これで話は終わりだと、未練なく身を翻して教室を出ていこうとする。

 慌てた俺は肩をつかんで呼び止めた。


「待ってくれ!」


「だから、何?」


 ゆっくりと振り向いた彼女が迷惑そうに眉をひそめたので、ごめんと言って肩から手を離す。

 幼馴染とか、友達とか、そういう言葉は言い訳にもならない。たとえその気がなかったとしても、一歩間違えれば彼女に振られて追いすがるストーカーではないか。

 冷静になろう、冷静に。焦って声を荒げても相手を不快にさせてしまうだけで、いいことは何もないのだから。


「いきなり誘って悪かった。一人で帰りたいという美夜の気持ちは尊重するよ。だったら、帰るまででいいんだ。ちょっと教室で話していかないか?」


「ちょっとならいいけど、私たちの間に話ってある?」


「うん、ごめん。もしかしたら美夜にはないのかもしれないけど、俺には伝えておきたいことがあるんだ。急ぎの用事があるってわけじゃないなら、少しでも聞いてくれると助かる」


「……わかった」


 しぶしぶといった感じで頷いてはくれたものの、俺との会話に乗り気でない彼女は見るからに帰りたそうだ。

 仕方なく相手をしてくれているだけだとすれば、あまり長々と時間をかけるわけにはいかない。面倒くさがれて大事な話を途中で切り上げられてしまっては意味がない。

 本当なら丁寧に言い訳や説明を重ねて話の本題まで遠回りするところだったけれど、こうなったからには言いたいことを最初に伝えたほうがいいだろう。

 今までの無礼な対応を謝罪するのだ。


「ごめん、美夜。俺は間違っていた。何を間違っていたかっていうと、昨日までの対応全部だ。自分でも不思議なくらいに素っ気なくしすぎた。冷たくしすぎた。ごめん。今さらかもしれないけど、本当は仲良くしたいんだ」


「ふうん」


 美夜は感情を込めずに頷いて、テスト中に余った時間を利用して試験用紙の空欄を埋める程度の温度感で言葉を続けた。


「幼馴染だもんね」


 これは昨日、俺が言ったことを繰り返しているのかもしれない。

 高杉が彼女に告白しようとしていた時、彼に呼ばれて居合わせていた俺が冷たく言い放った彼女への言葉。自分にとって恋愛対象ではないと告げるだけでなく、まるで友達としても興味が失せていると伝えるかのような言葉。

 言われてみて、初めてわかる。

 俺はいったい、なんてひどいことを彼女に言ってしまったのだろう。

 すぐにでもそれを否定したい。

 でも、どう伝えれば彼女は納得してくれるのだろうか。


「言いたいことはそれだけ? じゃあ、さよなら」


 その言葉が、まるで俺には永遠の別れを意味するように聞こえた。

 今朝見た悪夢が現実のものとなってしまう予感がした。

 だから俺の前から立ち去ろうとする彼女をそのまま行かせるわけにはいかなかった。

 頭で考えるより先に体が動いて呼び止める。


「待ってくれ!」


 だけど先ほどと同じ言葉を繰り返しても意味がない。俺たちの関係をつなぎとめるために何を口にするにしても、表層的なものではなく、ちゃんと意味のある言葉を投げかけなければ彼女には届かない。

 意味。俺と彼女がそばにいるための、根本のところで動機となるもの。

 熱く、激しく、燃え盛るように主張してくる心が彼女をつかみたがっている。

 決して手放したくないと叫んでいる。

 それはあまりにも明確で鮮やかな恋心だ。

 どういうわけか自分でも我慢できなくなり、愛の告白をするにはムードもへったくれもないけれど、正直にそれを彼女に伝えることにした。


「俺、気づいたんだ。美夜のことが好きだって。冷たくしてごめん。昨日は興味なさそうにしてごめん。だけど俺、本当は美夜のことが大好きなんだ」


 最後まで言ってしまってから顔が熱くなる。

 これは正真正銘、愛の告白。それも馬鹿正直な告白だ。

 ここまでストレートに告げてしまえば勘違いしようもなく、こちらから誤魔化しようもない。

 俺から言えることは全部言った。後は彼女の答えを待つだけだ。


「やめよう、武虎」


「……え?」


 立ち止まって背中を向けたまま、こちらへと振り返らずに発せられた彼女の言葉を俺は信じることができなかった。

 だから彼女は振り返って、念を押すために同じ言葉をゆっくりと繰り返す。


「やめよう、武虎。そういうのはやめよう」


「そういうのって……」


 彼女が何を言っているのか、何を言おうとしているのか、理解したくない。

 力いっぱいに両手を押し付けて耳をふさぎたくなるほどの衝撃の中で、昔から聞き馴染んでいる彼女の声だけがよく通った。


「好きとか嫌いとか、そういうことはやめよう。だって武虎、私たちは幼馴染なんだよ。それ以上でも、それ以下でもないんだ。恋心とか、そういうあやふやな感情で一喜一憂したくないんだよ。だからもう、二度とそういうことは言わないで」


 異論や反論は許さぬとばかりに一息に言い切った彼女は、それで満足したのか俺を残して教室を出ていった。さすがにもう呼び止めることも、追いかけることもできない。

 完全に振られた。

 おしまいだ。

 残された俺は立ち尽くし、取り付く島もない大海原に投げ出されたような気分で絶望に溺れたくなった。息継ぎができない。呼吸が苦しい。

 ばらばらと音を立てて世界が土台から崩れていくようだ。

 そこに背後から声がかかる。


「武虎君、だよね?」


「そうだけど、何か用?」


 死んだような眼で振り返ると、そこにいたのは志賀さんという女子だった。同じクラスという理由で何度か話をしたことがあるくらいで、あまり親しくはない。部活や委員会といった共通点もないため、わざわざ声をかけられるような用事も俺の身にはなさそうだ。

 それを理解しているのか、パチンと音が鳴るくらいの勢いで両手を合わせた彼女は小さく頭を下げて謝った。


「ごめんね、聞き耳を立てるつもりはなかったんだけど、さっきのやり取り、全部聞いてて」


「そっか。まあ、教室で言い合えば聞きたくなくても話が聞こえちゃうのは無理ないよ。笑いたいなら存分に笑ってくれ。責めたいなら存分に責めてくれ。俺にはもうどうしようもない」


 捨て鉢になっているのか、力なく笑いが漏れた。失恋に酔って自嘲したいのでも、おかしくなったのでも、もちろん楽しい気分だからでもない。

 そうしないと泣きたくなってくるからだ。

 わかりやすいくらいの空元気。

 どこまで見抜かれているのやら、志賀さんが気の毒そうにする。


「武虎君って今日はこれから暇?」


「今日だけじゃなく、これから毎日ずっと暇だろうね。放課後に遊んでくれるたった一人の友達に振られたばかりなんで」


「だったら今日はちょっと付き合ってよ。美夜ちゃんとのことで、話したいことがあるんだ」


「美夜とのことで?」


 正直もう誰かと予定を合わせる気分ではなかったが、美夜とのことで話があると言われれば無視する気分にもなれなかった。

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