第20話 猫の爪の垢

「本当に申し訳にゃいにゃ」

猫の国の王様が僕に頭を下げる。


「その謝罪と言っては何だが、僕に出来ることなら出来る限り何でもするにゃ」


王様は何でもって言った。

何でもって何でも全部僕の要望を応えてくれるってことだよな。となると、真っ先に思いつくのは・・・・・語尾にニャンを義務化かな?


「別に気にしていませんよ。でも、何でも叶えてくれるなら一ついいですか?」


「僕に出来ることならにゃんでもするんにゃん」

王様は頼もしく胸に肉球を叩いた。


ここでするべき願いは・・・・・・・


「マタタビを合法化してください」


おーと危ない、危ない。王様の『何でも権』を私利私欲のために使うところだった。

ここで、語尾ニャンを義務化をお願いするなんて、あと一歩で神龍にギャルのパンティーを望むような暴挙だったぜ。


「申し訳にゃいけれど、それは難しいニャン。マタタビの安全性を証明出来にゃいのにマタタビの使用を許可出来にゃいし、たとえ王でも法律を変えたり、新しく作ったりは無理だニャン」


つまり、語尾にニャンを義務化するのも無理ではないか!! 

ちっ この王様使えないな

悔しさのあまり地団駄を踏みそうになるも、何とか抑えて冷静さを保つ。


「そうなんですね──分かりました」


即答する僕に驚いた王様は確かめるように僕に聞く。

「それって、直ぐに諦められる願いにゃのか?」


「僕は諦めは早いので──では、別のにします」


王様が次に僕が提示した第三希望の願いは叶えてくれた。







「えーと、エノコロ王国の皆さま・・・こっこんにちは。いや、もう大分遅いし、こんばんはか・・・みっ皆さんこんばんは、えーとですね──つい先日このエノコロ王国に迷い込んだ無毛人の甲斐主理です」


僕は今、エノコロ王国の国民全員の視線にさらされている。

僕が王様にお願いしたのは、この国民の全員に僕の話を聞いてもらう事だった。

王様はこの願いを叶えてくれて、僕は演壇の上で国民全員に嚙み嚙みの話を聞いて貰っている。

僕の話を何のお膳立ての無く国民全員が聞いて貰えるわけがなく、今の状態は僕が演壇に立つ前に王様が国民の注目を集めてくれたおかげだ。

王様はまず国民に対して謝罪した。自身の娘であるティッシュさんが一連のマタタビ事件の犯人であり、ティッシュさんがマタタビ事件を引き起こした動機、ティッシュさんが妊娠していること、事細かに説明し、再び深く謝った。


その後、この事件を解決した立役者として僕が紹介された。

国民はそれを聞いてどう思うのだろう。よくぞ事件を解決してくれたと僕を称えるのか、それとも、よくも余計な事をしてくれたと貶されるのか、どちらにしても僕の注目が集まるので問題ないが大勢から注目されるとなると、どうにも緊張してしまう。でも、この緊張感で説得力なく演説したら、僕の発言は人々はには響かない。


「ちょっと、言いたい事があるで聞いてください。それは・・・僕がこのエノコロ王国に迷い込むと、同時にマタタビ密輸で捕まったのですが僕にとっては謎でしかなかったのですよ。ただの嗜好品であるマタタビが違法薬物扱いされている事が不思議でしょうがなかった。だけどこの国にいる途中でマタタビが違法薬物に気づきました。それはマタタビの安全性が保証されていないから──マタタビが安全である証拠がない。まぁ、確かに機序も分からないに嗅ぐと酔っぱらってしまう薬なんて危険でしかないですね」


裏では多くの国民がマタタビを嗜んでいるのに、法律ではマタタビが禁止されている。では、禁止されているマタタビで楽しむ国民は悪いのかと言えば、そうではないと僕は思う。僕が日頃暮らしている日本でも違法薬物が規定されているけれど、それは精神及び身体に悪影響を有しているからであって、マタタビはそうではない。マタタビが違法な理由は、ただ単にマタタビが安全である


「なので僕は証拠を新たに作り上げる──証拠がないなら、作ればいい──てなわけで、僕たちがお好み焼きを売っていることはご存知でしょう。そのお好み焼きの上にかかっているのは、ただのかつお節ではありません。そのかつお節にはマタタビが含まれています」


僕は国民に盛大に種明かしをした──お好み焼きにマタタビを混入させたことを。

お好み焼きがいくら未知の味で美味いからと言っても、それだけでは国民全員がお好み焼きを食べようとは思わない。

つまり、お好み焼きがエノコロ王国の住民を虜にしたのは、単純にお好み焼きが美味しかっただけではない。マタタビがあったからだ、人々はソースの匂いに誘われたわけではなくて、マタタビの匂いに誘われてお好み焼きを欲した。


ここでマタタビの合法化を提案すれば、それに賛同するものは少なくないはずだ。何故なら国民はマタタビを望んでいる。それに加え、今、この場でマタタビが安全であることを自ら証明させた。マタタビ合法化に反対する理由がない。マタタビ合法化に反対する者なんていない。


よし、マタタビ合法化の狼煙を上げよう。


「これはマタタビのごっ・・・・・・」


「とっ捕らえよ!!」


僕の狼煙は上がる前に消火された。

それは水をぶっかけられてのではなく、ネコをぶっかけられた──僕に警察官のネコたちが覆いかぶさって、これ以上何も喋られなくされた。

ネコ好きの僕からしたらご褒美のようだけど、これはヤバい──ヤバすぎる。

ここで僕の発言を止められればマタタビは合法化されない。

このままでは僕がお好み焼きにマタタビを混入しただけで、エノコロ王国の国民はマタタビ合法化を目的だなんて知る由もない。

知る由もないが、知ってもらわないと良しにはならない。

そうこうしているうちにも、僕にネコの警官が集まってくる。


ここで終わってしまうのか! 畜生!


「君は詰めが甘いね。甘々だね──私の爪の垢を煎じて飲ませてあげたいよ」


覆いかぶさる警官を何とか潜り抜けて顔だけを飛び出させると、僕に自身の爪の垢を煎じたものを飲まそうとしている猫耳美少女の姿が目に入った。

それは耳だけがネコの探偵──猫耳はネコにあるこそ至上主義の僕ですらも認めてしまうほど猫耳が似合っている探偵、珠玖ミミが僕の目の前に立っていた。

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