第19話 ニャン

『ゴロゴロゴロゴロ~ゴロニャーニャンゴロ~ニャンニャン ニャーオ、ニャーオ ゴロゴロ ニャーンニャーンニャ にゃんにゃん ゴロゴロゴロミャーオ ミャンゴロゴロ~ゴロゴロニャ~ミャーオミャーオ』


この動画はラーメン屋でブリック警部がマタタビで酔っ払った時の記録だ。


オヤジ声の甘えた鳴き声が留置所に響き渡たると、ネコにしてはドタバタと騒がしい足音が聞こえてきた。

その足音だけで音を出している人物の焦り様が伝わってくる。


「おい! その動画は消したはずじゃなかったのか!!」

ブリック警部は僕が収容されている牢屋に駆け付けた。


「おいこら! てめえ さっさとこの動画を消せ!」

ブリック警部を笑顔で見つめる僕を見て、ブリック警部は鉄格子を激しく揺らした。甲高い金属音がブリック警部の甘えた声と共に留置所内に響き渡る。

こうしてみると、捕まった側と捕まえた側が逆のようにすら思えてくる。


「分かった、分かった。一旦コレを止めて話し合おう」

ブリック警部は焦りを抑えて、今度は警官らしく引きこもり犯を説得するように僕を諭した。


僕は一度動画を止めて交渉に進む。


「いくつかお願いがあるのでですがよろしいですか? 警部」


「何を企んでいるか知らんが、ダメだ」


「へーそんなこと言ってもいいのですか~?」

動画を再生させる。


『ゴロゴロゴロゴロ~ゴロニャーニャンゴロ~ニャンニャン ニャーオ、ニャーオ ゴロゴロ ニャーンニャーンニャ にゃんにゃん ゴロゴロゴロミャーオ・・・・・」


「悪かった、悪かった。要求を聞くから勘弁してくれ」

ブリック警部は膝から崩れ落ちた。



僕は再び自由を手に入れると共に大量のマタタビ粉を手に入れた。


僕は自身とエンゴロー巡査の釈放とマタタビを要求したが、エンゴロー巡査の釈放は認められず、マタタビは最後まで渋られたが、どうにか交渉(脅し)でマタタビを手に入れた。

エンゴロー巡査はマタタビ合法化で釈放出来るので、僕はエンゴロー巡査を置いていくことにした。

牢屋を出てる前に僕はエンゴロー巡査に引き留められた。


「ちょと、待って下さい、甲斐助手。あなたが何をしようとしているか検討もつきませんが、何が起こっても自分は珠玖探偵のことは許しません。勿論、孤児院の子達の為ではあるとはいえ、マタタビを密売していたのは事実であるので罰を受けるのはしょうがないでありますが、珠玖探偵は子供達を巻き込んで悲しい思いにさせた。それが許せないであります」


「エンゴロー巡査の気持ちはもちろん理解出来ますが、そんなの関係ありません。なんせ、あなたの罪ごとその気持ち、無かったことにするので」

僕はそう言い残して孤児院に向かった。


孤児院には探偵の姿はなく、探偵の立っていた場所には探偵の鹿撃ち帽子が落ちていた。

ここで探偵を探している時間はない。僕は探偵の鹿撃ち帽子を拾って、被る。


今の時刻は夕暮れ時

建国記念日の祭典が始まるのは空が真っ暗になってからだそうだ。

つまり、祭りまでおおよそ1時間。


時間が少ない・・・・一人では間に合わないのは確実だ。

僕は孤児院のみんなに協力してくれるように頼んだ。

エンゴロー巡査を助けるためだと全員が協力を承諾してくれた。そのお陰で人員不足は解決であり、孤児院が協力があるので器材及び材料の面でも無事解決。

その材料というのは何を隠そうキャベツだ。

この時点で僕が何を作ろうとしているのかは明確だけど、一応言っておくと僕はお好み焼きを建国記念日の祭典で販売する。

お好み焼きに必要なキャベツ以外の材料も院長のコネで無料で譲って貰ったり、ブリック警部からのお小遣いで賄えた。

準備段階では問題ない。

ある程度の下準備を終えるころには辺りは暗く黒くなっており、お好み焼きを焼き始める前でも屋台の前には長蛇の列が出来ていた。

どうやら、昨日近所の方々に振舞ったのが、いい宣伝になったようだ。


「さて、焼きますか!!」


熱々の鉄板に油を広げる。鉄板全体に薄く生地を広げ、その上に事前に準備した千切りしたキャベツ、ソース焼きそばを乗せる。一人前になるように生地を切り分けてから裏返す。ここで僕は別の鉄板に移動して以上の作業を同様に行う。僕が焼いた生地に孤児院の子がソース、マヨネーズ、青海苔・・・・最後に特性ブレンドのかつお節を振りかける。出来上がったお好み焼きを別の子がパック詰めし、お客様に渡す。

作業を分担することで効率化を図る。本当はお好み焼きの上に目玉焼きを乗せたかったが、これも時間短縮のため省く。何故なら僕の最大の目的は美味しいお好み焼きを作ることではなく、より多くのヒトにお好み焼きを食べてもらうことだ。

その為にお一人様一枚限りに設定し、それを守るために多くの子供達に列の管理をやって貰った。


子供達はよく働いてくれていた。材料が足らないと買い出しに行ってくれたり、下準備も率先してくれた。それにズルして二回目に並ぼうとしている人物を厳重に取り締まってくれた。


子供達の尽力のおかげで祭典が終わる前にはこの国の住民の大半にお好み焼きを売り渡せた。

その子供達は疲れてしまったようで、先に休んでもらっていた。そんなところ。


「すまにゃいにゃ、一枚余っていないかニャン?」


一瞬何処から声がしているか分からかったけれど、つま先立ちであたりを見渡すと鉄板の高さよりも身長の低い白い老猫が僕に尋ねていた。


「もう売れちゃったのかニャン」


「まだありますよ。今から焼きますね」

僕は一人分のお好み焼きを作り上げ老猫に渡した。

老猫はお好み焼きを受け取った途端に、老いを感じさせない勢いでお好み焼きを食べ始めると、あっという間に完食した。


「おー これは美味いニャン、癖になりそうニャン、これが癖になるなら僕も現役だニャン」

白い老猫は僕を見る。


「ん? まぁ気に入ってくれて何よりです」


「・・・・・・・・・・・・・・・」

白い老猫は黙ったまま僕を見続ける。


「えーと、何か?」


「すにゃん、すにゃん、僕の古い友人と似ていてにゃ、つい見てしまったニャン」


「古い友人ですか・・・・でも僕は無毛人ですよ」


「無毛人の友人ニャン。でも見た目は似ていにゃいけれどニャ、なんてだろうニャ、あいつの面影を感じるニャン」


話している内容なんか全くもって頭に入っていかず、全く別の点で僕の興味が持っていかれる。それは・・・・・・・・この御老猫も語尾にニャンが付いているのだ! どうやら年配の方々は語尾にニャンを付けるのだろう。若い奴らは語尾にニャンをつけていないは何故だ!! ・・・・・・・畜生!! どうしてこの古き良き語尾が廃れてしまったんだ、時の流れを許せない。時の流れめ!! 一生恨んでやる──


そんなことを考えていた。


僕はこのご老猫の語尾に気を取られて話の内容をちゃんと聞いていなかったが、御老猫が僕に頭を下げていることに気が付いた。


「すまにゃいにゃ、僕の娘がマタタビを利用したせいで、君に大変な思いをさせた。それに加え、役人がこの国の混乱を鎮めるために君を処刑しようとした。本当に申し訳にゃいにゃ」


僕の娘?・・・・・つまりティッシュさんのお父様・・・・・ていうことは・・このお方はこの国の王様ってことにゃ!!


あっ! 驚きのあまり語尾がうつった。

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