第18話 お掃除ロボットになりたい

牢屋で頭を冷やしたら、今までのことを思い出して恥ずかしくて死にそうだ。

落ち込んだまま、下を向いてばかりで顔を上げない探偵を見て、活を入れようと長台詞を言い、冤罪を晴らしてやると颯爽と駆け去ったが、まんまと捕まってしまった。情けない・・・・情けないを通り越して恥ずかしい。

僕は恥ずかしさのあまり転がり回る。

床は埃で汚れているが、僕が転げまわっている場所は埃一つない。


どうやら僕には箒の才能があるのかもしれない。

このまま箒になりたい。箒になって役に立ちたい。


僕はより広い範囲を転がり回る。


自惚れかもしれないが、ルンバにすらなれるかも知れない。

よし、僕はルンバを目指そう。


「甲斐助手!?」


向かいの牢屋から声が聞こえた。

立ち上がり、埃を払ってから声のするほうを向くと、エンゴロー巡査が驚いた表情でこっちを見ていた。


「罪が晴れたというのに、ここで何をしているんでありますか!」


何をしているかと聞かれたら、そりゃあ、お掃除ロボットになっていたが正解だけど、お掃除ロボットになっていたとは言えない。


「僕が何かしてるかは置いといて、僕はエンゴロー巡査に聞きたいことがあったんです」


「まさか、このためにわざと捕まったんですか!?」


いやぁ、違うのだけど・・・・まぁそうゆうことにしとこう。

僕はエンゴロー巡査と話をするためにあえて捕まった──そう思い込もう。聞きたいことがあったのは事実だし、後付けしても罰は当たらないだろう。


「その通りです。よくわかりましたね」

僕は白々しく答える。


「牢屋に入れられたのに、不敵に鼻で笑ったのでおかしいなと思ったんであります。けれど、その後に床を転げ回った行動はもっとよく分からなかったでありますが・・・・」


「そうです。僕はよく分からないことがあったので、エンゴロー巡査に会いにわざと捕まりました」


「そうですって・・・どこのどの部分がそうなのかが自分には見当もつきませんが、まぁいいであります。何が知りたいんでありますか?」


「えーとですね。まず、質問の前に確認したいにですが・・・・・エンゴロー巡査がマタタビを密売していたのは事実ですか?」


「あの探偵に聞いたのですね。そうです──事実であります」

とエンゴロー巡査はためらいなく答える。

探偵の推理通りエンゴロー巡査がマタタビを密売しているのは間違いないようだ。これなら僕が聞きたいことはエンゴロー巡査は知っている。

気になっていた──

正体不明の薬物が人通りが多い場所で散布されたら、人々はどのような感情が現れるか?

僕が思うに恐怖、不安のはずだ──散布された薬物が体にどのような悪影響を及ぼすか、次は自分や親しい人物が被害に遭うかも知れない、これはテロなのだろうか──そんなことを思うのが一般的だろう。

だが、この国のネコの人々は恐怖や不安よりも怒りが大きかった──こんな事件を起こした奴は誰だ、お姫様に夫を殺すはめにした犯人は許せない。未だに事件を解決できない政府はダメだ──そんな風に思っている。

彼らからマタタビに対する恐怖が感じらない。

まるで日頃からマタタビを接しており、使い方に問題があると思っているようだ。


例えるならば、車は凶器にもなり得るけれど、日頃から移動手段として利用しているので、ニュースで交通事故が報道されたとしても別段、車自体には恐怖心は感じられない──そんな様に感じ取れる。



「マタタビはどれほど国民に広まっているんですか?」

僕は鉄格子越しにエンゴロー巡査に問う。

僕の予想では恐らく、マタタビはこの国の大部分の人物に広く浸透している。

でなければ、マタタビによる恐怖や不安で国がもっと混乱するはずだ。


エンゴロー巡査の答えは僕の予想通り・・・・


「自分はマタタビをこの国の住民の大半に売っていました。恐らくでありますが、政府に属する者以外にはマタタビが広く浸透していると思います」


「ヨシッ!!」

僕は反射的にガッツポーズをした。


この国の住民はマタタビがの所持が違法なのに関わらず、マタタビを使用している。

この事実により僕の作戦の成功率が格段と上がる。


マタタビ合法化の成功率が上がる。


けれど、このままじゃダメだ。牢屋の中では何も出来ないし、僕のマタタビ合法化作戦は今夜の建国記念日で決行しなければ意味がない。すなわち、今すぐにも脱獄し、警部からマタタビを盗み出す必要がある。


どうしたものか?

僕に出来ることは床を転げ回り、お掃除ロボットになることだけだ──そんな便利家電の真似事しかない・・・・・・家電? 確か・・・・


僕は探偵から譲渡されてから、大事に持ち歩いていた便利家電──現象を動画像として記録する便利家電、そう! ビデオカメラを僕は取り出す。僕はビデオカメラに一つだけ残されている動画を再生する。


『ゴロゴロゴロゴロ~ゴロニャーニャンゴロ~ニャンニャン ニャーオ、ニャーオ ゴロゴロ ニャーンニャーンニャ にゃんにゃん ゴロゴロゴロミャーオ ミャンゴロゴロ~ゴロゴロニャ~ミャーオミャーオ』


オヤジ声の甘えた鳴き声が留置所に響き渡った。

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