第16話 信じられない
「私は探偵様の推理通り、マタタビで酔っ払った振りをする為に、一連のマタタビ事件を引き起こし、計画的に旦那であるサビさんを殺害しました」
ティッシュさんは自身をマタタビ事件の犯人だと自白した。
「つまりサビ様のことを憎んでいたのでありますか?」
殺害を計画し、まして一連のマタタビ事件を引き起こしたことは、それほどまで夫を恨んでいたと思ったのだろう。
エンゴロー巡査はそう聞いていたが、それは見当違いのようだ。
「愛していますよ、愛していますとも、私は愛しのサビさんを意図的に殺しました」
「私たち夫婦は巷では仲良しおしどり夫婦なんて呼ばれていますが、私たちは探偵さんがおっしゃった本当のおしどりの方が近いのかもしれません」
ティッシュさん夫婦はよく使われる意味の『仲睦まじい夫婦』ではなくて、実際のオシドリのつがいのようだったってことか
「つまり夫が浮気しているから殺したってことですか?」
と僕はティッシュさんにストレートに問う。
探偵曰く、オシドリの雄は浮気性らしい。オシドリの場合は浮気が殺害にまで発展することはないけれど、ヒトの場合は浮気・不倫が殺人事件を生み出すことは少なくない。
それに大きな愛ほど大きな憎しみに変わってしまうものだろう。
「いいえ、彼は浮気なんてしていませんし、私も浮気されたぐらいで殺したりしません。ただ・・・・彼はマタタビを得るために、その交換条件として王族の血を引くおなかの子を無毛人に受け渡そうとしているのにきづいてしまったのです。勿論、私は彼にそんなことはささない! と抵抗したのですが、彼は私の言葉には耳も貸してくれませんでした。城以外には相談できる人もいないのに、夫は城で働いている為、誰にも相談することは出来ません。そんな状況下でもお腹は大きくなっていて、焦りはピークに達しており、このまま無毛人の実験動物として生きていくよりも生まれてこない方がお腹の子達は幸せなのかと考えたことも多々ありました。でも、私にはできませんでした。私が子供達を守る方法はサビさんを殺害するしかなかった。けれど私が捕まってしまってはお腹の子達には親がいなくなってしまうと考え、思いついたのがマタタビで酔っ払った振りをすることだったのです」
これもまた、僕の見当違いのようだ。彼女は夫を憎んでいたわけではなく、また、その愛情が憎しみに変わったのですらなく、夫よりも愛する者が出来たってことだろうか。つまり、ティッシュさんが自身のことをオシドリのようだと言ったのは、夫が浮気をしている点ではなくて妻であるティッシュさんが夫よりも子を優先していることを指しているようだ。
ティッシュさんが夫を殺害したのは我が子を守るため
ティッシュさんがマタタビ事件を引き起こしたのは、マタタビで酔っ払った振りをすれば、夫を殺害しても逮捕されないと思ったため。
捕まりたくないのは、生まれてくる我が子を不幸にさせないためか
殺害動機は理解出来たが、僕の頭には新たな疑問が生じた
「無毛人が何故っ
けれど僕の質問を遮るような形で事件が生じた。
突如として、孤児院に警官で溢れかえった。
事件があると警官が集まるのが当たり前の話だが、警官が集まって来ること自体が事件のように感じるほど大人数の警官に囲まれた。
その警察の群集をかき分けて僕たちの前にスーツ姿のネコが目の前に立った。
う~ん、誰だっけ?
何処かで見たことがあるよな・・・・・
えーと、ダメだ。思い出せない
言い訳をさせてもらうと、いくらネコ好きであっても他人ならぬ他猫の顔だけで個々を判別することは難しいのだ。
まして、寝てないせいで頭が回らない。
「お前らを奴隷としてこき使えなくて残念だが、マタタビ事件の犯人が分かったのは良かったぜ」
とスーツ姿のネコが右側の口角を上げていやらしく笑った。
あーこの悪党のような笑い方は確か・・・・・・あっ! 裁判のときの検察官か
「姫の身柄は我々が預かる。まさか本当に解決させるなんて思っても無かったが、まぁいいだろう。ボーナスもあることだしなっ!」
ボーナス?
検察官は警察の群集に指示を出した。
「直ちにエンゴロー巡査を捕獲し、この孤児院を隅から隅までマタタビを探し尽くせっ!」
すぐさまエンゴロー巡査は捕らえられて、ティッシュさんも警察に連れていかれる。残った大勢の警官は孤児院に散らばった。
何が起こっているんだ?
わけが分からない
ティッシュさんの身柄を保護するのはまだ分かる。一連のマタタビ事件の被疑者だし、国の姫なので国家権力が動くのは理解できるが、何故に警官であるエンゴロー巡査が警察に捕らえられているのだ? 加えてこの小さな孤児院をこんな大人数を使い、捜査しているにもおかしい。
警察は何を探しているんだ。
急な展開で頭の回転が追い付かないでいるとキャベツ畑のほうから警官の声が響いた。
「例のぶつを見つけました!!」
エンゴロー巡査は警察を振りほどくと暴れたが、この人数では無力だった。
暴れているエンゴロー巡査をさげすむような眼で見て
「まさか、警官がマタタビを密売してたなんてな」
「だっ誰が話したんだ・・・・・・」
とエンゴロー巡査は驚きが隠せない。
「誰ってそりゃあ、耳以外が無毛人の探偵だったぜ」
と検察官は言い残してキャベツ畑の方へ歩いた。
それを聞くとすぐに
「・・・・・・約束と違うじゃないですか!!」
とエンゴロー巡査は検察官の方ではなく探偵に向けて叫んだ。
エンゴロー巡査の叫び声で警察の拘束が緩んだのか、エンゴロー巡査は警察を振りほどいて探偵の肩を強く揺らした。
揺らされたことで、探偵の鹿撃ち帽子が地面に落ちる。
「あなたが言ったじゃないですか。事件が解決したらこの事を内密にするって!! 俺がマタタビを売っていることは誰にも言わないって・・・・・」
振りほどけた時間はほんのわずかで、エンゴロー巡査はすぐさま警察に羽交い締めにされ、探偵から離されたが、エンゴロー巡査はそれでも叫び続ける。
「孤児院を巻き込まないと約束したじゃないですかっ!!」
エンゴロー巡査は警官数人で取り押さえられ、敷地外に連れられる。
子供達は連れられているエンゴロー巡査を引き留めようと警官に飛び掛かったが、その懸命な行動の甲斐がなくエンゴロー巡査は連れていかれた。
「この人でなしが!! 何が探偵だ。ふざけるな! 謎を全て明らかにしないと気が済まないのか! そんなのただの偽善者ですらない。悪だ──あんたは悪だ」
エンゴロー巡査は助けようとする子供達を見ないで、最後までただ探偵を睨みつけていた。
しばらくすると警官のほとんどが孤児院から出ていき、子供達も院長によって家の中に戻っていった。
けれど家の中から子供達の泣き声だけは聞こえていた。
外に残されたのは僕と探偵の二人だけ。
探偵は落ちた帽子を拾わずにただ立っていた。
「いい加減に黙ってないで説明してくれ・・・・・・この状況は何なんだ」
「私にも分からない・・・・予想外だよ、こんなの」
探偵もこの状況を混乱しているようだけれど、このまま突っ立っていても埒が明かない。
「だったら、一緒に状況を整理するぞ、まず、お互いに知っていることの共有だ。共有と言っても僕の知っていることはお前も知っているだろうから、一方的にこっちから質問することになると思うが、いいか」
「うん」
探偵は首を縦に振ったけれど、僕とは目が合っていなかった。
理由は知らないが、エンゴロー巡査に責められたことがどうにも心に堪えたようだ。
僕がここで落ち込んでいる探偵を責めるでも、慰めるべきべきでもない──僕は知らなすぎる。
「まずはそうだな・・・・・・何故にエンゴロー巡査は警察に逮捕された? あとそれはティッシュさんの事件に関係するのか」
「エンゴロー巡査はお姫様の事件と全く関係なく、孤児院で密かにマタタビを栽培し売っていた。これが逮捕された原因で、検察官が言っていたボーナスは恐らく、事件をお姫様が起こした事件の他にマタタビ密売を明らかにしたことで、実績がプラスになったことを言っているのだと思う」
探偵は自信なさげに答えた。
「探偵、お前はそれに気づいていたのか」
「お姫様が入院していた病院に着く前にはエンゴロー巡査がマタタビを密売しているのが分かった──まず、私が違和感を感じたのは、この孤児院だったよ。近くに畑があるのに蚊がいないのは不思議だと思ったし、孤児院を運営費を警察の中でも階級が下のエンゴロー巡査が一人で補っているのに疑問を感じた。中でも核心的だったのは、市場での聞き込みの時に魚屋の主人がエンゴロー巡査に投げかけた言葉だよ──『またな、いい旅を」って別れ際でのセリフ──君も違和感を感じたでしょ? 普通は『さよなら」、「お疲れ様」だよね、現に孤児院から市場に向かう時も、子供達は『またな、いい旅を」なんて言っていなかった──「バイバイ」と手を振って見送っていた」
「ん? マタタビには蚊を寄せ付けない作用を持っているから、蚊がいない孤児院にマタタビがある可能性、巡査が数十人分の子供達の生活費を稼げないから、警察とは別に稼ぎどころがある可能性、を結び付けたのは理解出来たがけれど、魚屋が言った「またな、いい旅を」だっけ? 確かに違和感を感じるような言い回しだけど、どの部分がマタタビ密売と絡んでいるんだ?」
「そんなことも、分からないのかって・・・・・・・・私が言えないよね──この状況が起こった経緯もよく分からないし、多分、こうなってしまったのは私のせいなのだから・・・・・・・・」
探偵は目線だけではなく、耳も下がっている。
「自分の事を卑下してなんかいないで、教えてくれ──どのあたりがマタタビ密売に繋がるんだ?」
「あ、そうだよね。それからだよね──えっとね、「またな」の『また』と、「いい旅を」の『たび』を合わせると『マタタビ』になるんだよ。そこから考えられるに魚屋の主人はエンゴロー巡査からマタタビを注文するときの合言葉として『またな、いい旅を』って言っていたことになる」
「なるほど、理解した。となると・・・・・・・・ティッシュさんの事件を考える時に除外した事件──時系列順にすると一番古い事件、つまり孤児院で院長がふらついて怪我をしたのは、エンゴロー巡査が栽培してたマタタビを院長が偶然、嗅いで酔っ払ったからなのか?」
「その通りだと思う」
「それで、エンゴロー巡査がマタタビを密売していることに気づいたお前は、病院でエンゴロー巡査が言っていた『約束』をする為に僕とは別れてエンゴロー巡査と二人きりになったってことか」
「それは・・・ちょっと違うよ──マタタビ密売の件を話したけれど、それは約束ではなかった──厳密には脅し──もしこのまま事件が解決出来ずに助手が捕まることになるなら、逃げることに協力するように。事件を無事に解決するか、事件が解決出来ずとも、逃がすことに協力してくれるならマタタビ密売をしていることを警察に話さないと・・・私はエンゴロー巡査を脅した」
「で、それをエンゴロー巡査が了承したというわけか・・・」
「うん、エンゴロー巡査は事件を解決するように協力するし、事件が解決出来なかった場合も逃がすことを約束した。彼も捕まるわけにはいかないし、それを度外視しても友人としても主理くんを逃がしたいと言っていた」
友人か・・・・・・・エンゴロー巡査が僕のことをそう思ってくれていたことは嬉しいような、でも・・・・・
「でも、エンゴロー巡査は引き受ける代わりに条件を出した──孤児院を巻き込まない──それが約束出来なったら協力しないと」
と探偵は俯きざまに言った。
エンゴロー巡査は孤児院第一主義なので、その条件はエンゴロー巡査らしいと言える。
これでエンゴロー巡査が探偵に掴みかかったのは理由が分かった。
エンゴロー巡査にとっては事件が解決したのにかかわらず、探偵は約束を破り、挙句の果て孤児院を巻き込んで密告した状況だったからなのか
「信じられないと思うけど、私はエンゴロー巡査がマタタビを密売してたことを誰にも言っていないんだよ・・・・・」
探偵は耳をすませなければならないほど小さな声で冤罪であると主張した。
密告者は誰なのか・・・・・・・・僕なりに考えた。
エンゴロー巡査がマタタビを密売していたのを知っていたのは、
①当事者であるエンゴロー巡査、
②エンゴロー巡査からマタタビを買った人物、
③探偵、
しかいないわけだけど、探偵以外の該当者は密告したら寧ろ自分自身が捕まってしまうので、必然的に密告者は探偵しかいない。
他に密告者に当てはまる人物は考えたけれど出てこない。
何よりも検察官がは言っていた──話したのは耳以外が無毛人の探偵と・・・・つまり、耳だけがネコの探偵だと
そんな人物は珠玖ミミしかいない。猫耳探偵は珠玖ミミしかいない。
僕の出した結果はこれだ──
「信じられるかよ・・・・」
あと、星★、フォロー、ハート♡を頂ければ、これから頑張っていこう!! と励みになるので、お願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます