第15話 自白
妊娠中のネコはマタタビが効かないだと・・・
そうか、確かにそうだな。妊娠中のネコにはマタタビが効きづらい。
語尾が「ニャー」のご老人にはマタタビが効かない訳を探偵から聞かれたときに、僕は「フェロモンと同様の器官で感知されるマタタビは子猫や老猫などの生殖活動しない個体にはマタタビが効きづらい」と答えた。
それと同様に生殖活動しない妊娠中のネコにもマタタビは効きづらい。
つまり、妊娠中のティッシュさんにはマタタビが効きづらい。
もし、テッシュさんがマタタビが効かないとするなら、マタタビによって狂暴化することはないし、まして夫殺害なんて起こらない。
どうして事件が起こったのか
それはティッシュさんがマタタビで酔っ払ったふりをして、夫を殺害したことを物語っている。
「ティッシュさん、貴女は明確な殺意を持って夫を殺害したのですか?」
僕は確かめるようにティッシュさんに聞いた。
「・・・・・・・・・・・」
僕の問いに彼女は黙ったままだった。
僕は日本代表サンドバックの件では余計な事を言ったせいで探偵に日本代表サンドバックだと疑われたが、
この場合は沈黙でいるのが疑わしい。
疑わしいと言っても、『妊婦がマタタビが効きにくい』という証拠は実に不明確だ。
マタタビの効き目は個体差や体調に左右されるので、妊娠中でもマタタビが効く可能性はゼロではない。
つまり、今持っている証拠に加えて自白が必要である。
だが、肩書が『落としの~~』である刑事でなければ取り調べで沈黙を貫く人物からの白状は難しい。
まして、僕の肩書は不名誉な『日本代表サンドバック』だ──自白させるなんて到底不可能。
だからと言って、このまま黙ってもらってはこの先には進めない。
どうするべきか・・・・・・・
「とりあえず、お腹すいたから美味しいもの食べに行こっ」
探偵が気の抜けるような提案をする。
「おいおい探偵、まさか『まぁ、腹でも減ってるんだろ。かつ丼でも食えよ』ってな感じで自供させる考えか?」
僕は探偵の猫耳元で冗談交じりで問う。
「そうだよ」
「そうだよって・・・・・かつ丼がこの国にあるかは別として、美味しいもの食べたところで簡単に話してくれるはずがないだろ」
「私について来れば分かるよ」
「いや・・・・ついて来いと言われても今は飯を食べている場合ではないだろ」
「うるさい、いいからついて来なさい」
お、怒られた・・・・・
怒られた僕らが(実際に怒られたのは僕だけだったが)探偵に連れられた先はレストランでも市場でもなく、最初の事件現場である孤児院だった。
「どうして孤児院でありますか?」
とエンゴロー巡査が探偵の方を向いた。ティッシュさんも不思議そうに探偵の顔を見る。
探偵は「いいから、いいから」とティッシュさんとエンゴロー巡査の手を引いて孤児院に入っていく。残された僕は三人の後ろを黙ってついていく。
探偵は孤児院の裏にある運動場にたどり着くとお好み焼きを焼くように僕に言った。
「お好み焼き!? かつ丼ではなくて?」
「そう、お好み焼き」
僕が言われた通りに、お好み焼きを焼き始める。すると匂いにつられたように孤児院の子供たちが集まり、直ぐに鉄板の周りを囲まれた。
ティッシュさんにお好み焼きを渡す前に子供たちに渡さなくてはいけなそうだ。
ティッシュさんの元にお好み焼きが届く時には殆どの子が食べ終り、運動場で遊んでいた。
「あの子達には本当に親がいないのですか?」
ティッシュさんはお好み焼きを食べずに、楽しそうに遊んでいる子供達をただ見ていた。
「えっ、まぁ、孤児院なのでそうだと思います。僕には確かなことは分からないですけど。エンゴロー巡査なら、この孤児院で育ったんで詳しいことが分かるんではないですか」
「はい、そうでありますね。ここにいる子達の事なら食べ物の好き嫌い、癖、毛数も熟知しています。因みにミケケの好きな食べ物はアジの叩き、嫌いな食べ物は大葉、毛数は196543332本であります」
そこまで詳しくは聞いていないのだけど・・・
「あの子たちはそれぞれ親と死別したり、鼻から一人だったりしますが、全員共通として親がいません」
エンゴロー巡査は子供達を見つめた。
「そうなんですね──でも・・・・あの子たちは家族がいないのに、どうして幸せそうなのでしょう?」
それを聞くとエンゴロー巡査は目線を子供達からティッシュさんに向けた。
でもその目は子供達に向ける優しい目ではなかった。
「家族がいない? はぁ? 自分たちは家族も同然なんですよ──寧ろそこらの家族よりも自分たちの方が固い絆があると自負してるんです。遺伝子的に血縁でなくても、自分はあの子たちがいれば幸せですし──あの子たちの為なら何でもする覚悟であります!!」
エンゴロー巡査が国のお姫様にきれた!! これは大丈夫なのか? 職を失うぞ。
「ごめんなさい──あなた方が家族ではないと言いたいのではなくて、子は親がいないと不幸ではないのですか──と聞きたかったのです」
ティッシュさんの方が謝ったってことは、エンゴロー巡査の失業を心配する必要はなさそうだ。
孤児院の子供を家族同然と思っているエンゴロー巡査にとっては先程の聞き方は良くない。エンゴロー巡査には家族であることを否定されたように感じたのだろう。
けれど、国のお姫様に対してあのぶちぎれようは如何のものかと思う。エンゴロー巡査は孤児院の子供達のことになると感情の歯止めがかからないのは直した方がいい点であるが、その怒りようも、子供達を愛していることの裏返しであるし、エンゴロー巡査が孤児院の子供達の親代わりになる証明でもある。
エンゴロー巡査は未だに怒ったままでティッシュさんが聞き直した質問には答えなかったが、この怒りようこそが、ティッシュさんが聞きたかった答えだ。
僕はエンゴロー巡査の代わりに答えた。
「子にとって親は必要な存在だけど、かと言って親は肉親である必要はないのだと思います。愛し導く人で十分代わりになります。それに何より幸せになるのも不幸になるのもあくまで子供たち自身ですよ」
探偵は質問の答えを聞いてうんうんと頷きながら付け加えた。
「お姫様。貴方がそばにいなくとも、貴方の代わりとなってお腹の子を愛してくれる人に心当たりがあるでしょ? それに罪を償わないで我が子を純粋に愛せるのかな? エンゴロー巡査並みに熱く真っ直ぐに愛情を注ぐことは出来るのかな」
数秒間の沈黙ののち
「私が一連のマタタビ事件の犯人です」
ティッシュさんは自身をマタタビ事件の犯人だと認めた。
作者のひと言
ミケケは主理に頬ずりされた孤児院の子です。
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