第14話 根拠と証拠
「おい! ちょっと待てよ。ティッシュさんが犯人のわけないだろ」
僕はティッシュさんを犯人扱いした探偵に詰め寄った。
だが、探偵は飄々と「証拠は?」と詰め寄った僕の額を人差し指で押し返した。
少し後ろに下がってしまったが、ここで引くわけにはいかない。
証拠を聞きたいのは僕の方だ。
「証拠も何もティッシュさんは被害者なんだぞ。犯人なんて有り得ない、探偵こそ証拠があるんだろうな」
「ん? 証拠なら君が見つけてくれたじゃないか」
僕が証拠を見つけただと? 日本代表サンドバックの話ではあるまいし、証拠なんてもの存在しない。
「プリンセスは妊娠しているんだよ・・・・・」
もう分かったよね──と探偵は僕に聞いた。
これだけでも十分理解出来るよねってな感じで言われても全然分からない。確かに僕がティッシュさんの妊娠に気が付いたけれど、それがマタタビ事件の犯人である証明になるとは思えない。もしかするとネコの国ならではの知恵が必要なのか?
「君が知ってることなんだよ。寧ろ、君が私に教えてくれたことなんだよね」
僕が探偵に教えたこと? ・・・・そんなことあったけ?
未だに探偵の言うことが理解出来ないでいると、探偵は分からないのだったら一連のマタタビ事件を振り返るように言うので、僕は探偵に言われた通りマタタビ事件を振り返った。
「マタタビ事件は全部で四つで・・・・
一つ目は、ラーメン屋でブリック警部がマタタビで酔っぱらった事件。
二つ目は孤児院の院長がマタタビで酔っぱらった事件。
三つ目は、市場で大人数がマタタビで酔っぱらった事件。
四つ目は、マタタビで酔っぱらったお姫様が夫をベランダから突き落とした事件」
で、合ってるよな? と探偵に確認すると探偵は「そうだね」と頷いた。
けれど、二つ目のイタズラ好きの院長の事件は他の三つの事件と時刻が離れているから考えなくていいとも付け加えた。
確かに、孤児院の事件は二ヶ月前と他の事件と比べてかなり前の出来事だ。一連のマタタビ事件とは関係ないと言われても納得がいく。
それに、僕が考えるにあの事件は院長のイタズラによるものなのだろう。なんだって、あの院長は終始、僕にイタズラを仕組んできたんだから、酔っぱらった振りして人を驚かそうと企むのはあり得ない話ではない。寧ろあり得すぎる話だ。
だが、これ以上は分からないな。・・・・うーん、そう言えば孤児院の事件は二ヶ月前だったけど、他の事件はどうだったかな
えーと、確か・・・・・・・
4日前に市場で大人数がマタタビで酔っぱらい、
一昨日にマタタビで酔っぱらったティッシュさんが夫をベランダから突き落とし、
昨日、ラーメン屋でブリショー警部がマタタビで酔っぱらった
「ん!? この時系列だとティッシュさんの犯行は不可能ではないか?」
一昨日ティッシュさんは事件が起こってから今の今までずっと、入院しているし、警察の捜査からわかる通りティッシュさんはマタタビを持っていないのだから、次の日に病院から抜け出したところで、ラーメン屋にマタタビを仕込むことなんて出来やしない。
「違う、そうじゃない。ラーメン屋の事件が起こったのは昨日だけど、マタタビが仕込まれたのはその前日の一昨日だよ。つまり、旦那殺害事件の日だから犯行は可能だ」
あーそうだった。ブリショー警部が酔っぱらっている間に調査した結果、一昨日の定休日にマタタビを仕組まれた可能性が高いと結論を出したんだった。だとしても、ティッシュさんがマタタビ事件の犯人ではなくないことは分かるが、犯人がティッシュさんであると確証出来ない。
探偵は行き詰った僕を見て更なるヒントを与えた。
「まぁ、ラーメン屋の事件はプリンセスにとっては単に余ったマタタビを処分しただけなのかもね。でも、時系列順に並べて考えるのは正解だ。重要なのは市場の事件が起こった後に、夫が殺害されたことなんだよ。逆だったらどうなってと思う?」
「そりゃあ、マタタビの被害が公になる前なのだから・・・・・」
市場の無差別マタタビ事件が生じていない状況下で夫を殺めたら、マタタビで狂暴化してことは誰も思わず、ただ、夫を殺害した事だけが先行する。つまり先入観の有無が大事ってことか。
市場の無差別マタタビ事件が『大きな事件があればその事件にはマタタビが関係している』という先入観を作り出したことで、夫殺人事件が、あたかもマタタビによるものだと思わせる。
「そう。プリンセスは自身をマタタビで正常ではないと思わせる為に、彼女は大規模なマタタビ事件を引き起こしたんだ」
なるほど、確かに納得出来る動機だ。殺人鬼が精神異常者を演じて、責任能力がないことから無罪を主張するような感じか。けれど・・・・・
「ティッシュさんが市場の事件を引き起こす動機は理解出来るけれど、これはあくまで、ティッシュさんが故意的に旦那さんを殺害した事を前提としてないか?」
探偵の推理は、まるで、ティッシュさんが計画的に旦那さんを殺害したと決めつけているようだ。ティッシュさんが明確な殺意を持って旦那さんを殺害したなんてあり得ない話だ。なんせ、ティッシュさんと旦那さんは民衆から『おしどり夫婦』と呼ばれるほど、仲睦まじい夫婦なのだから。
「前提も何も、プリンセスが意図的に夫を殺害したことに気が付いたからこそ、他の事件の犯行もプリンセスによるものだと考察出来たんだよ」
探偵はまず最初に、夫殺害が意図的に行われたんだと判断したからこそ、他の事件もティッシュさんによるものだと推理しているが、僕はそもそも、夫殺害が故意的に行われたという探偵の推理が理解出来ない。その理由は何度も言っているが、彼女たち夫婦は『おしどり夫婦』なのだ。『おしどり夫婦』の妻が夫を故意に殺害するなんて考えられない。
「まぁ、これは有名な話だけどさぁ。仲の良い夫婦をオシドリ夫婦なんてよく言うけど、実際、おしどりの雄は浮気性なんだよね・・・・・・
え! そうなの? オシドリの雄が浮気するなんて知らなかった。何度も仲睦まじい夫婦のことをおしどり夫婦と言っちゃったよ。
「オシドリの雄は雌が卵を産むと子育てをせずに、他の雌の方に行っちゃうんだ。一見、夫が妻を捨てたように感じるけど、私は逆だと思う。妻が夫を捨てたんだと思うね──夫が一番大事なら卵の世話なんて止めて夫の元に羽ばたいて、浮気なんかさせなけばいいもん。それなのに、妻は夫を追いかけずに卵を温め続ける理由は、ただ単にオシドリの妻は夫よりも子を優先にしているってことだよ」
オシドリの妻は、夫よりも子が優先順位が上なのは男からしてみたら悲しい話だが、人間にも当てはまるのかもしれない。
新婚時は、いくらラブラブなバカップルでも子供が生まれてから妻が冷たくなったってことはよくある話だ。
でも、『おしどり夫婦は実は仲が良いわけではないという豆知識は事件とは関係ないのでは?』と思い、そのまま思ったことが声に出る前に探偵が話を元に戻した。
「けれどまぁ、オシドリの話は今は関係なかったね。ごめん、ごめん。話をもとにもどそうか」
探偵はそう言った後に気を取り直そうと指を鳴らして、今度は脱線せずに事件に関する決定的な一言を放った。
「・・・・妊娠中のネコはマタタビが効かない」
あと、星★、フォロー、ハート♡を頂ければ、これから頑張っていこう!! と励みになるので、お願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます