第12話 得意技になりつつあるゾーン
僕は泣き崩れたネコの国のお姫様を支えて、病室のベットに座らせた。
けれど、彼女は未だに泣き止まないで、謝り続ける。
「どうやら、夫のことを思い出したと同時に、夫を自らの手で殺害したことを思い出したようだね」
と探偵は動揺してる僕に反して、冷静に分析した。
彼女が謝っているサビさんっていうのは、恐らく国民から愛されたおしどり夫婦の片割れ──つまり、彼女の夫なのだろう。
彼女は自らの手で殺してしまった夫に向かってひたすらに、謝り続けている。
何度も、ごめんなさいと
僕は何度も謝っている彼女に向かって言った。
「あなたはもう謝るな」
「でっでも、私は、夫であるサビさんを・・・・殺したんです。しっ死ぬまで謝り続けないといけないんです!!」
彼女は毛を逆立ててながら、僕に向かって泣き叫んだ。
「あなたは何回謝りました?」
彼女は突拍子のないことを質問されたような顔をしていた。
「僕が数えるにあなたは123回も謝ったんです。そんなにたくさん『ごめんなさい』は要りません。本来は『ごめんなさい』は一回しかいらないのですよ。一回謝ったら次にすべきことは謝り続けることではなく、償うことなんです──償い続けることなんです」
「でも、私には謝ることしか・・・・・・・」
「なくないです。僕たちに事件の詳細を教えて下さい──それが、あなたがすべき償いの一つです。教えてくれれば、この探偵と助手である僕があなた方夫婦を不幸に追いやり、僕にあなたの裸体を見るように仕向けた犯人を必ず見つけ出し、償わせます」
僕の言葉を聞いて、ネコの国のお姫様の顔が少し前を向いたように感じられた。
これで、このお姫様は謝り続けることを止めて、僕らの捜査に協力してくれるはずだ。
「ねぇ、主理くん。覗きの罪まで犯人のせいにするのは良くないと思うよ。あと、謝った回数は223回だから! 223回を123回だと間違うなんて、ただの数え間違いではないよね。でたらめの数字を適当に言っただけだよね」
・・・・・・・・・・
「お前のせいで何か変な空気になってるぞ」
「え!? 私は悪くないよね」
自身がいい空気を悪くしたくせに、ちっとも悪びれずにいるな。こいつ
「いや、お前が悪い、さてはお前、探偵のくせに空気読めないだろ。なんせ、探偵が余計な事を言わなければ彼女は謝り続けることを止めて、僕らの捜査に協力してくれるはずだったんだぞ」
「ムッ、余計な事を言ったのは君だよね? 私だって謝った回数の間違いぐらいは黙ってられたけど、覗きを人のせいにするのは黙ってられないよ」
と極端に前傾姿勢をとり、両手の握りこぶしを前方に、僕に突き出した。
「トリケラトプス拳をするな! 危ないだろうがっ」
普通の女の子がトリケラトプス拳を構えたところで身に危険は感じない。そもそも普通の女の子はトリケラトプス拳なんてしない。けれど、こいつがトリケラトプス拳をするということは、つまり探偵は普通の女の子ではないことで──その問題の普通ではないことは、耳がネコである点ではなくて、探偵は常人とは比べものになれないほどの戦闘力の持ち主であることだ。
僕は文字通りその高い戦闘力を身をもって痛感している。
「さっき、君は私のことを空気を読めないと罵倒したけど、なら、君は私から発せられるトリケラトプスの空気ならぬ、覇気は読めるはずだよね」
「空気も覇気も分からないけど殺気は感じるのだけど、まさか・・・・」
「そのまさかだよ。くたばれ! 覗き魔!!」
「待て、待て、待て、待て、少し待ってくれ、僕の後ろを見てみろよ」
僕の真後ろには窓がある。つまり、探偵がこのままトリケラトプスの如く突進すれば、僕の体は窓ガラスを突き破って外に飛び出てしまう。
まして、この部屋は三階にある。もし、落ちたら怪我だけでは済まない。
探偵もこのまま突進すれば自身諸共、窓から落ちてしまうと気づいたのだろう。
探偵は僕と探偵の延長線上に壁がくるように位置取りして、再びトリケラトプス拳を構えた。
「後ろが窓でないからって暴力をふるっていいわけではないんだぞ!! 探偵なら頭を使えよ──拳を使うな」
「ちゃんと頭も使うよ。トリケラトプスの角は三本だからね」
二つの拳と頭をトリケラトプスの三つの角に見立てて、攻撃するって意味なのか。でも、トリケラトプス拳は頭を使ってたけ? ていうか、物理的に可能なのか? 拳と頭を同時に相手にぶつけるなんて・・・・なんせ、トリケラトプス拳は頭部より前方に拳を突き出す構えなのだから、頭より先に拳が僕に当たるはずだ。
いやいや、そんなことに疑問を感じてる前に言うことがある。
「頭は頭でも外側ではなくて、内側にある脳みそを使えって言っ・・・・」
けれど、僕が最後までツッコミを言い終えるよりも早く、探偵は飛び突っ込んだ来た。
僕はここで、得意技になりつつあるゾーンに入る。
時が止まった世界、探偵はトリケラトプス拳の構えのまま地上から5cmの高さで停止している。
それに踏み込みの勢いが良すぎて、探偵のかぶっていた鹿撃ち帽子が脱げ、猫耳が露わになっている。
おー猫耳だ・・・・ダメだ、ダメだ、ここで猫耳に見蕩れている場合ではない。
このままだと探偵からトリケラトプス拳を食らってしまう。
もし探偵の攻撃をくらってしまえば僕が日本代表サンドバックであることが確証されるのだろう。
だが逆に、ここで僕がトリケラトプス拳を避けられたなら、日本代表サンドバックという不名誉を覆せるはず!
探偵はこのまま向かってくるなら僕は右左のどちらかにに動けばいい。そうすればトリケラトプス拳は当たらない。
左か右、どっちらに動くべきか。
幸い、僕はゾーンを発動しているので考える時間はある。最良を選択をするんだ!!
確か、心理学的に人が道に迷ったとき、無意識に左を選ぶ場合が多いらしい。探偵がその理論を知っていたなら、それを読んで左に攻撃を移す可能性がある。ならば、右に避けるのが最良の選択だ。
よし、右に避けよう。
・・・・・・・・ん!? 動けない・・・・
動く意識は十分あるにも関わらず、僕の体はピクリとも動かない。
それは、ゾーンは時が止まったように感じるだけであり、決して止まった時の中で自由に動けるわけではないからだ。
時がゆっくりと元にもどる。体が動けるようになる頃にはもう手遅れだった。
「・・・・・・・・・・」
僕はトリケラトプス拳をくらった?
けれど、トリケラトプス拳をくらったにしては、全く痛みを感じない。
痛みの代わりに僕の頬にはふわっとした感覚があった。そのふわっとした物の正体は猫耳だと気がつくのに時間はかからなかった。
なんせ、探偵は僕の肩の上に顎を乗せて両腕で僕を強く抱きしめていたから。
端的に言えば、僕は探偵に抱擁されていたのだから。
確かに両腕だけじゃなくて頭も使うけれど、トリケラトプス拳ではなくて抱擁されるとは思ってもみなかった。
予想外すぎて口から「ほへっ」っと情けない声しか漏れないでいると、すると今度は「うふふふ」と上品な笑い声が聞こえた。
声のする方を見ると、殺してしまった夫にひたすらに謝っていたプリンセスではなく、自身の笑い声に驚いたプリンセスがそこにいた。
「泣き声ではなく、笑い声が出るってことは、もう大丈夫のようだね」
探偵は僕から離れると、落ちた帽子を被った。
探偵にとって、僕に抱擁することは彼女を笑わせるための策略なのかも知れない。
探偵にいいように使われたと考えると腑に落ちないが、それで彼女が笑ったなら黙って目をつぶろう。なんせ僕は空気の読める男なのだから
「さぁプリンセス、事件の詳細をお聞かせ願おうか」
前話でミステリーぽくなるって言いましたけど、全然でしたね。
嘘ついてごめんなさい
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