第11話 猫耳探偵の裏技

僕が白紙の紙とボールペンを受け取ると探偵はこう付け加えた。


「ここに、『私、甲斐主理は千年に一人の美探偵である珠玖ミミにスライディングされて、宙に回転している間、時間が止まっているように感じたことは正真正銘の事実です』って一筆したためてね」


一筆と言っておきながら、余計な事も書かねばならない様に感じるのだが・・・・・・まぁいいや。


「別に、一筆したためるぐらい大したことないが、何故そんなことをする必要があるんだ」


「理由も大したことはないんだけどね。ただ・・・・君がびびって、一筆したためるのを断るのを狙ってるだけだよ」


どうゆうことだ? 意味がわからん。


「もしも、君が断ったら、一度でも発した言葉は取り消せないなんか言っていながら、文字として形に残すのを嫌がるなんて、君は言葉を取り消そうとしてるからじゃないかって、揚げ足を取ろうと思っただけ」


僕はそれを聞くと同時に、急いで一筆したためた。慌てて、『千年に一人の美探偵である』ってところまで書いてしまった。

追加で探偵から朱肉を渡され、僕は拇印までする必要性すらも疑わずに一目散に拇印を押した。


拇印を押し終わると同時に、一筆したためた紙を手荒に取り上げられる。

探偵は僕が書いた紙を確認すると、笑みを浮かべた。


「これで、君が日本代表サンドバックって証明出来る物的証拠を得られた」


「は!? 物的証拠なんてあるわけがないだろ」


探偵は目元にピースサインを置いて、嬉しそうに意気揚々と言い返してきた。


「君は二つのミスを犯した。まず、一つ目のミスから説明するよ」


頼んでいないのに説明なんて始めやがったぞ。なんだよ、こいつは


「まず、言葉だけでは、そもそも証拠としては弱い。物的証拠ではないのだから──白を切られたら、証拠としての価値は無くなる。それなのに、君は文字として言葉を物的証拠に具現化させちゃたんだよ。まぁ、私がそう誘導したんだけどね」


「ちょっと待ってくれ。僕が一筆したためことで、そのことが覆せないことになったのは分かるけれど、それだけでは僕が日本代表サンドバックである証拠にはならないだろう。なんせ、僕が書いた文章は、『私、甲斐主理は千年に一人の美探偵である珠玖ミミにスライディングされて、宙に回転している間、時間が止まっているように感じたことは正真正銘の事実です』だろ。どこに証拠となる要素があるんだ?」


千年に一人の美探偵ってところだろうか? それをなかったことに出来ないことは、途轍もなく後悔しているが、僕が日本代表サンドバックである事には繋がらない。ならば、『スライディングされて、宙に回転している間、時間が止まっているように感じた』ってところだろうか? 

だけど、その現象は走馬灯なのだ──ゾーンではない。


「そこを疑問に思ってるのが二個目のミスだよ。君はさっきからゾーンではなく、走馬灯だとほざいているけれど、走馬灯は死際に時が止まってるように見える現象ではない。そもそも、走馬灯は影絵が回転しながら写るような灯篭のことで、『走馬灯のように』ってな形で過去の記憶が次々と思い出すことに対して使われるんだよ」


「「・・・・・・・・・・」」


はっ! 言われてみたらその通りだ。

僕は走馬灯とゾーンはそれぞれ死に際とスポーツ時にと、発動時期が違うだけの同じ現象だと思い込んでいた──どちらも、極限状態で生じるトランス状態なのだから勘違いしていたぜ。

加えて、僕はそのことを書き記した。

つまり、日本代表サンドバックとなる物的証拠を自らの手で作ってしまったとわけか。


「ちくしょう!! やってしまったぁ」


「これが、探偵の裏技

──証拠がないなら、作ればいい──」


それは裏技ではなくて、違法捜査だろ。


探偵はそんなことは気にも留めず、ポカリスエットのコマーシャル程の爽やかさで


「これで、全て丸く収まった!!」


と決め台詞のようなことを、奇天烈な決めポーズと共に言い放ち、この推理ショーを終わらせた


・・・・・だけど、ここで綺麗に終わるわけにはいくはずがなく、横槍が入った。


「何も収まってないであります!」

とエンゴロー巡査が探偵の決め台詞を否定した。


「お二人とも! ふざけている場合ではないであります。我々はマタタビ事件を解決しなければならないのですよ」


そうだ、そうだ、そうだった。僕が日本代表サンドバックであることなんてどうでもいい。

マタタビ事件を解決するために、病院に来たんだった。で、事件の話を聞きに尋ねたら、裸を見てしまって叫ばれたんだった。アハハ

はっ! しまった。裸を見た相手をほったらかしにしたままだった。


「時間が止まるように感じるのは、ゾーンだけではありませんよ。恋に落ちる瞬間も人は時が止まったように感じるのです」


その上品な声は声の持ち主と共に病室の中から出てきた。

僕と探偵がしょうもない推理劇をしている間に、服を着たのだろう。

僕に悲鳴をあげた時と打って変わって、病室から出てきたのは白いワンピースを身につけたネコの国のプリンセス──マタタビの影響で夫を殺してしまったプリンセスだった。


「恋に落ちる瞬間は時が止まったように感じるものです。私もそうでしたよ。夫にプロポーズされた時は時が止まったように感じましたぁ」


うっとりとした顔でそう言う彼女は、マタタビで酔っぱらって夫を殺してしまった人物には到底見えない。


けれど、次の瞬間・・・・


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


マタタビで酔っぱらって夫を殺してしまったプリンセスは先ほどと打って変わって、泣き崩れながら、ひたすら、ひたすらに謝り続けていた。


「サビさん、ごめんなさい」





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