第5話 連続マタタビ事件 一つ目
僕はこの猫耳がついた名探偵──珠玖ミミの助手になってしまった。助手になったのがついさっきとはいえ、未だにラーメンをすすっていて、捜査に向かっていない。
「上手くまとまった様だから大事な話をするぞ」
「大事な話?」
てか、今ので話がまとまったと僕は到底思えないのだが・・・・
「まず、俺がここに来た理由を話す。ただラーメンを食べに来ただけでなく、お前たちの監視だ──勝手にこの国から逃げ出さないようにするためのな。俺がいくらお前たちの事を気に入っているとしても仕事だから見逃すことは出来ない。それだけは分かってくれ」
ブリック警部は言う。
僕は元からこんな目に合わせた犯人を取っ捕まえる気でいるから問題ない。探偵も「問題ないよ」と親指を立てた。僕も同じように親指を立てた。
「そうか。だからと言っても、上からお前たちの邪魔をしろとは命令されてない。さしあたり、協力するなとも言われていない訳だ」
警部は悪巧みをするように口を閉じたまま笑った。
「俺なりに今までのマタタビに関する事件を集めたから、それを今からお前たちに教える」
確かにマタタビ事件を解決しようとしてるのに事件について少しも知らない──スタート地点にも立てていない状況だ。そんな中で、事件の詳細を教えてくれるのはとてもありがたい。
だが、事件の詳細を話し終わる前に警部の分のラーメンが出来上がった。そして警部は話を急停止してラーメンを食べ始めた。探偵ほどではないが、魚粉を多く入れて・・・・・・出来ることなら食べながらでも説明して欲しいところだが、ラーメンを飲み込んだ途端に警部は陽気に笑い叫んだ。
「ニャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ ゲホッ ゲボッ ニャハハハハハハハハハハハッハハハハハ」
よく笑う警部でも、理由の分からない笑い声は何とも狂気じみたものを感じる。
「ニャハハハハハ! 意味わからないけど、可笑しくてたまらないっ 何だよ。これはっ! ニャハハハハハハハハハハ」
どうやら、警部も自分自身がなぜ大爆笑してるのかが分からないようだ。
「ニャハハハハハハハハハハ ハッ ハッ ゴホッゴホッ ガハッ」
まずい! 笑いすぎてむせてるぞ。
警部は死ぬほど笑っている。実際にも笑いすぎて亡くなった人がいたらしい。小学生のころに隣の席の女の子が教えてくれた。最初は半信半疑だったが、不謹慎にも隣の女の子にとってはその話自体が、面白おかしかったらしく、それこそ、死ぬほど笑い、笑いすぎて過呼吸になっていた。それを見た甲斐少年は確信した。
本当に人は笑いすぎると死んでしまうことを・・・・
その経験を生かして僕は警部に水を飲ませることで、少し落ち着かせたが、まだ笑いは止まらない。
そんな緊急事態の中で、探偵は警部が食べていたラーメンをすすっていた。吞気にズルズルと
「おい! 何してるんだ。今すぐ吐き出せっ 変な薬が入っているかも知れないんだぞ」
「うん やっぱりそうか。私の思っていた通りだ」
探偵は僕の慌てた注意を耳にも入れずに何かを納得したようだった。
「大丈夫か! 体調は悪くないか?」
「あぁ 大丈夫だよ。主理くんも食べてみるといい」
「はぁ!? 何でだよ」
「いいから、早くして」
僕は恐る恐るラーメンに口をつけたが・・・・
「何とも・・・・ない?」
「私と主理くんには効かなくて警部には効果があるということは・・・・つまり?」
ヒトには効果が無く、ネコには効果があると考えると・・・・
「・・・・マタタビか!」
マタタビはネコには作用するが、ヒトには全くもって効かない。
マタタビはネコにとっての麻薬ではない。有害性も依存性もないために、どちらかと言うと酒に近いと思う。
酒でも飲みすぎると、寝ちゃう人、泣き上戸、笑い上戸、甘え上戸、攻撃的になる人などがいる。個人差──酔っぱらいでも千差万別だ。
マタタビでも同じことが言える。警部は間違いなく笑い上戸だろう。
「問題はマタタビがラーメンのどの具材に入ってたことだね」
「いやいや、まず警部をどうにかするのが先だろ」
「いやいやいや、警部は後回しでいいでしょ。ほら見てみなよ こんなにも楽しそうにしてるじゃないか」
「いやいやいやいや、さっきまで笑いすぎて死にそうになってたんだけど・・」
「いやいやいやいやいや、もしも麺にマタタビが練りこまれていたらどうだろうか? このお店は自家打ち麵じゃなく、製麵所から仕入れたものなんだよね。他にも卸しているラーメン店もあるだろうし、スーパーマーケットにも卸してる可能性もある。だとしたら、被害は警部だけにとどまらない」
マタタビが紛れ込んだ具材を調べるのは、被害を最小限にとどめる必要があるってことか。確かに、警部よりも重要かも知れない。警部はまだ笑い続けているが、今は水を飲んで多少落ち着いている。
「でもマタタビを探そうにも見た目では分からないし、僕たちで試そうにもマタタビは作用しないけど、どうするんだ?」
「丁度いい実験体がそこにいるじゃないか」
探偵は氷点下の視線を未だに笑い続けている警部に向けた。
「それじゃ大将! ラーメンの材料をこっちに持ってきて。出来れば一口サイズでね」
「ニャハハハハハハハハハハ えっマジで!?」
探偵は一口大に取り分けられた具材を次々と警部の口に放り込んだ。口を大きく開いて笑ってた為、スムーズに検証することが出来た──不幸中の幸いとはこの事だろう。警部にとっては不幸中の不幸──もはや二回目の不幸が大きすぎてマタタビで笑いが止まらないことは寧ろ、幸いだろう。幸い中の不幸だな。
どの具材を摂取しても警部の様子に変化が無かった。ただ、探偵に無理矢理食べさせられるとき「ちょっ やめて!」、「もう勘弁してくれ」などの悲鳴を発っしてはいたが・・・・・・気にしない事にしよう。
ひと通り、具材をブリショー警部に食べさせてみても、変化が生じなかった。
「困ったぞ。どの具材でもマタタビ探索機が反応しないよ。壊れてるかも」
「警部を探査機扱いした挙句、壊れたは流石に酷すぎるだろ」
「失敬 壊れたは言い過ぎた」
マタタビ探査機扱いしたことについては悪いとすら思ってないのか──本当に末恐ろしい女だ。
「やっぱり、見落としてるところがあるんじゃないか?」
「見落としてはないけど、魚粉はまだ試してないよ」
「なんでだよ」
「魚粉を信じたかった」
「だから、なんでだよ!」
「魚粉はそんなことする奴じゃないんだ!」
魚粉は信じるのに警部は信じられないのか! 警部が報われない。
「魚粉を庇うな。魚粉への愛が大きすぎるぞ! 猫でもここまで魚粉を愛してない」
「さっきも言ったけど猫なのは耳だけなんだけど!!」
「まぁいい。さっさと試してみるぞ」
警部に魚粉を食べさせると案の定、変化が生じた。今度は分かりやすく酔っぱらった。
「ゴロゴロゴロゴロ~ゴロニャーニャンゴロ~ニャンニャン」
ゴロゴロ喉鳴らしてるぅ~ 可愛いぃ~中身がおっさんだと分かっているのに可愛い持ってしまう。くそっ! 猫好きの弊害が!!
警部は床に転がり、変なダンスを踊りながら猫撫で声で鳴いている。
「探偵! スマホ持ってないか? 動画撮ろうぜ」
「ナイスアイデアだね!! だけど携帯電話を持ち歩かない主義なんだ」
そうなのか・・・・折角、いい動画が撮れると思ったのに・・・・・・
「落ち込むのはまだ早いよ。主理くん、携帯電話は持ってないけど、ビデオカメラなら持ってるよ」
スマホを持ち歩かないのにビデオカメラを携帯していることは疑問にも思わず、
警部の酔いがさめるまでの20分間、僕と探偵はビデオカメラで警部の恥ずかしい姿をあらゆる角度から撮影し続けた。
作者のひと言
マタタビって日本と中国、朝鮮半島ぐらいにしかないそうです。知っていました?
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