第4話 全ての元凶

「はいっお待ちっ!」


香りや見た目で判断するに魚介醤油ラーメンってところだな。


おっ!魚粉かけ放題とはこれは随分太っ腹──でもここは一旦スルーしよう。まずは出されたまんま楽しむのがラーメンに対する礼儀。


最初はスープからにしよう・・・・おぉこれはうまい!何かいい感じの味で、香りも・・何かいい感じだ。お次は麺を頂こう。縮れているから、多分縮れ麺って奴だな。・・・・縮れててうまい!


今度は魚粉をかけてみよう。二杯ぐらいが丁度いいだろう──何事もやり過ぎは良くない。


「君はどうして下手くそに孤独にグルメってるのかな?」


彼女は僕の食べ姿にいちゃもんをつけつつ、ラーメンに魚粉を一杯・・二杯・・三杯・・・・・・・・・・三十杯


「かけすぎだろ…」


「沢山入れたほうが美味しいに決まってるよね」


「いやいや、あんなにかけたら魚粉の味しかしないだろ」


「何を味が分かった風に言ってるんだね。君はどうせ、このラーメンの種類すら分からないくせに」


「馬鹿にするなよ。それぐらい分かる」


「ほほう、じゃあ答えて貰おうか──はい!これは何ラーメンでしょうか?」


「醤油ラーメン。それも出汁は魚介を主体としている」


「・・ちっ!正解・・・・・・だからってどんだけ魚粉を入れようが私の勝手だよね。人の食べ方にケチつけるのは死刑だよ」


開き直った挙げ句、縁起でもないことを口走った探偵はだめ押しに魚粉を三杯加えて満足したのか、スープをレンゲで掬うと、必要以上に息を吹き掛けていた。


「猫舌なのか?」


「別にいいでしょ。また君は私の食べ方に文句を」


「いや、文句ではなくてさ、猫舌で魚粉好きなんてネコみたいだなぁと思っただけ」


「ネコなのは耳だけだよ──それ以外はただの名探偵さ。ベェー」


彼女は僕のほうを向いて舌を出した──いわゆる、あっかんべーをしていた。


「喧嘩でも売ってるのか?」


「違うよ。私の舌をよく見てみ──猫舌だけどネコの舌のように尖った突起はないだろ」


「確かに…」


探偵の舌をと猫の舌のようなざらざらとした感覚はなく、僕の舌と同じ人間の舌だった。

すると探偵は僕の指を掴み、曲がらない方向に力を入れる。


「いたたたたたたたたたたたっ!」


「きっ君は何してる! 女の子の舌を指でなぞるなんて…なんて歯止めの効かない性癖なんだ」


「違う──冤罪だ──僕は断じて舌フェチなんかじゃない」


「私は舌フェチを悪いって言ってるんじゃない。己の欲望に耐えきれずいきなり私の舌をいやらしくスクロールしたことに対して嫌悪感を抱いてるんだよ」


「だから、違うって、ただネコの舌かどうかを確かめただけなんだ」


「嘘をつくのは良くないことだよ」


探偵は信じてくれず、未だに僕の指を掴んで離さない。いきなり触ったのは良くなかったかも知れないが僕は知的好奇心に従って舌を触ったんだ。性的好奇心ではない。

探偵は更に僕の指を強く掴み始めた時


「ニャハハハ──密輸の次は痴漢でもしてたんか?無毛人のボウズ」


と言う声が真後ろから聞こえた。


「ブリック警部!丁度いいところに来てくれた。痴漢の現行犯で彼を逮捕して欲しい」


探偵は声が聞こえるなり声の元に行き、僕を痴漢扱いした。


痴漢冤罪で捕まる人はこんな気持ちなのだろう。男ながらに女性専用車両の必要性を嚙み締める。

慌てて冤罪を主張しようと後ろを振り向くと、僕を密輸容疑で逮捕した警官が暖簾のれんを分けて店に入っていた。



「今回はって叫ばないのか?」


その警官は僕と目が合うなり、からかうように笑った。


「まぁ詳しくは座って話そうや」


と僕の席の右隣に座り、ラーメンを頼んだ。

僕達も再び席に戻ると


「まずは良かったな。釈放されて…」


僕の背中を笑いながらを強く叩いた。だが爪を立ててない為なのか肉球がポフゥポフゥ当たり、全く痛くない。


「君は警部に感謝した方がいい」


「ん!?」


肉球を背中に当ててくれた事に対して感謝しろってことか? まるで女性の胸が偶然、体に当たった事に感謝を伝えてるような変態的な感謝な気がする。


「警部が私にラーメンを食べに誘わなければ、私はこの国に来てないよ」


つまり、探偵が警部にラーメンを誘われてこの国に来てたところ、僕が捕まっている瞬間を見たと・・だったら探偵はこの国の住民ではないのか。確かにこの国の住民の外見は猫だが、探偵は耳だけが猫だ。それに異世界系を知っていたということは・・・・


「あと、あれだよね? 私は直接的に君を助けた訳だから感謝だけじゃ足りないね。私に忠誠を誓ってくれないと割に合わないなぁ」


「あぁ…そうだな・・・・でもその前に一つ聞いてもいいか?」


「ん!? あぁ、いいとも。私は従僕に対しても親切心を忘れない人徳者だからね」


人徳者だったら、忠誠を誓った者を従僕になんてしないはずだ。まぁそんなどうでもいいことは置いといて、確かめないといけないことがある。僕の予想が正しければ──


「探偵は僕と同じで、日本から来たでいいんだよな?」


「あぁそうだね。公園にあるマンホールの穴からこの国に来たよ」


やっぱりそうか。だったら・・・・


「僕の場合はマンホールが外れててね。誤って穴に落ちてこの国にマタタビを持って来る羽目になった。誰がマンホールを外すなんてたちの悪いイタズラしたんだろう?」


「・・・・・・」


探偵は持っていたレンゲをスープに落とした。レンゲは皿の底に沈んでいく。

反応を見るに僕の予想通りだな。


──


「あーあっ、マンホールが外れて無かったら僕はこんな目に会って無かったのになぁぁぁぁ」


「・・・・・・」


探偵は僕とは目を合わそうとせずに底に沈んだレンゲをじっと見つめている。


「あ! そういえば、まだ聞くべき事を聞いてなかった。 探偵は入国時にマンホールをきちんと元に戻し・・」


探偵は僕の追求を遮るように言葉を発した。


「あーーえーと、そうだ! 従僕は流石に良くなかったかも! ──家来、いや、部下ならどうかな? 」


家来も部下もお前より立場が下じゃないか。それにそれで許されるって思ってるところが尚更ムカつく。


「まぁ良いじゃないか、ボウズ。ミミがお前のことを助けてくれたんだろ。許してやれよ」


「それもそうですけど…」


マッチポンプな癖にコイツは僕をこき使おうとしてるところが気に入らないのだ。それに僕はまだ完全に助かったわけではない。


「それにミミもだ。探偵のサポーターは従僕で家来でも、部下でもないだろ」


探偵は少し考えるとボソッと「………助手?」と答えた。


「ニャハハハ、ボウズもそれでいいか?助手なら平等な関係だよな? それにミミがいないと3日以内に事件解決出来ないぞ」


確かに僕が一人で捜査しても、事件を解決することは出来ないだろう。──無事に帰るためには探偵の力が必要なのかもしれない。

でもコイツの助手って何だか嫌だなぁ。まだ探偵と関わる時間が少ないが、こいつとは相性が悪い気がする。別にこの事件を解決するまでの協力関係なのだから、いちいち、助手になる必要はないだろう。

それに探偵の今までの僕に対する態度から、探偵も僕が助手なのは心底嫌がるはずだ。

「主理くんが助手!? 」


耳をピコピコ動かしながら勢い良く立ち上がり、僕のほうを向いた。

『こんなやつを助手にしたくない!!』とでも言われると覚悟したが、思いもよらない言葉が探偵の口から飛び出た。


「よろしくね! 私の助手の……主理くん!!」



花火のような弾けた笑顔を僕に向けた。

僕は眩しすぎて彼女の笑顔に顔を背けてしまった。まぁそうなると、探偵の逆に座ってる警部に顔を見られるのだが……


「ニャハハハ 発情期か?」


うるせぇ! ホモサピエンスは年がら年中、発情期だ。



作者のひと言

ネコの舌って結構ザラザラしていて、舐められると結構気持ちいいですよね。

因みに作者は犬派です。

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