第3話 無毛人違法薬物所持および密輸事件
「おいっ起きろ!早くしないと裁判が始まるぞ」
ブリショー警官に肩を揺さぶられ、僕は目を覚ました。
「探偵を名乗った少女とは会ったか?」
目を覚ました僕を見て、ブリショー警官は心配するように聞いた。
「・・・・そうだ!あいつは何処に」
起き上がり、部屋中をくまなく探しても彼女はいない。恐らく、僕は彼女に頭突きをしたのはいいが、僕だけが気絶してしまったみたいだ。
わけも分からず自分を攻撃してしまうなんて彼女の言う通りになってしまった。不甲斐ないことこの上ない。けれど、必死に探偵を探している僕を見て、ブリショー警官は安心したような顔をしていた。
「どうやら、会ったようだな。探偵は何て言ってた?」
「あいつは・・・・僕を助けるって」
「そうか・・・・だったらいい、今から法廷に向かうぞ」
牢屋の扉が甲高い金属音を鳴らしながら、ゆっくりと開いた。
入廷すると、中には既に多くの人がいた。勿論全員の姿は猫だったわけだけど。
「
裁判長らしき人が「開廷・・被告人は前へ」と言うと、僕は証言台に立たされた。
裁判長から名前、生年月日を質問された。その後に住所を聞かれときに
「ちょっと待った!」と遮る声が聞こえた。
声のする方に顔を向けると猫耳の探偵──
「ここは私が答えさせて貰おう」
と探偵は僕の隣に立った。
周りは騒ぎ立っているが、気にせずに探偵は続ける。
「彼は極東の島国から来たんだ」
「・・・・・・・・」
先ほどまでとは打って変わって法廷内は一気に静まり返った。
探偵は僕の方を向くと、
「・・・・君のせいでスベったじゃあないか!」
と責任転嫁。
「知るか、てか何しに来たんだ!?」
「もう忘れたのかい? ひょっとして頭でも打って記憶喪失になっちゃたかな?」と僕をからかった後に
付け加えて 「君を助けるって言ったじゃないか」と微笑んだ。
「探偵が何でいるんだぁ?」
と検察が叫んだが、探偵は無視して声高らかに言い放つ。
「閉廷します!」
探偵は僕の手を取って逃げるように促すが、動かない僕を見て不思議そうな顔をする。
「ん? どうしたの?」
「いや、だって、裁判中に勝手に抜け出すのは良くないな〜って」
「真面目か! このまま続くと死刑だよ。ここのお役人さん達はバカだから本気で君のことをこマタタビで国を破滅させるテロリストだと思ってるんだよ。だからね、ほらっ早く逃げようよ」
「んーそうなんだけどさぁ〜何だかなぁ」
「何を渋っているの?」
「何て言えばいいかな・・例えば、車も人のいない赤信号でも待ってしまうみたいな気持ち」
「渡っちゃばいいじゃん」
「そこで渡れないのが日本人っていうかさ。ルールを破ることの罪悪感に耐えられない国民性なんだよ」
「日本人って面倒くさっ」
「お前も日本人だろ」
「フッ 私は日本人離れした倫理観を持っているのさ」
「それは平和ボケした日本人では考えられない思想を持っているってことか!」
「手始めに全国の屈強なマッチョマンにネコミミをつける!」
「なんて危険的な思想だ。猫耳とマッチョの組み合わせなんて、どんな化学反応が起こるかが未知数だぞ!!」
当たり前だが、 下らない茶番をしている内に僕たちは囲まれてしまった。当の本人は周りを見渡すと他人事のように溜息をついた。
「はぁ 君のせいで囲まれてちゃったじゃないか──しょうがないなぁプランAにするか」
逃げるのがプランAじゃ無かったのか?
「ここで逃げるのが一番楽だけど君が駄々をこねると思ったから、プランは一つしか用意してなかったんだよ。だって基本的に私の想像通りに物事は進むから、一つでも多いくらいだしね」
そう言うと探偵はパチンと指を鳴らして注目を集めた。元々、注目は僕たちに集まっていたので指を鳴らす必要は無かったはずだが、まぁ要するに、カッコつけたかったのだろう。
「はーい皆さん、これは見てください」
探偵はスカートのポケットから小さな紙切れを取り出し、背伸までして、周りに見せつけた。そこに書いてあたのは『何でもいうこと聞く券 エノコロ王国 国王』だった。
送り主は国王とは書いているが、小さな子供が母の日に贈るプレゼントのような紙切れを掲げたところで意味は無いだろう、と思ったが、周りを見渡してみると、理解出来ずに口をポカーンと開けた猫、驚きふためいている猫など反応は様々、共通として言えるのはほとんどの猫たちは取り乱していた。
だか一人だけ、裁判長だけが落ち着きながら探偵に対して意見した。
「これは確かに国王陛下のものですが、ここは裁判所です。司法の場では国王陛下でも介入出来ません」
「確かにそうかも知れないけれど、国王を中心としたこの国ではいくら独立した権力である法廷でも国王を無下には出来ないはずだよね」
裁判長は眉間の皺を増やした。
「まぁまぁ恐い顔しないでよね。むしろ彼を逃がすことはこの裁判所の為にもなるんだよ」
僕を含めて猫たちは探偵の言葉に首を傾げた。僕を逃がすことは僕しか得をしないはずだ、裁判所はむしろ犯罪者を逃がした失態を犯してしまう。
「君は裁判所が一番してはいけないミスって何だか分かるかな?」
「・・・・・・・・」
急に話を振られたら答えることなんて出来やしない。法律のことはさっぱりだ。
「あぁやっぱり君は分からないかぁ。君って頭固いよね。君の今の状況なのに・・・・」
石頭なのはお前だろ。てかコイツは僕に対して当たりが強くなってるような気がする。
「裁判所が最も犯してはいけないミス・・・・それは冤罪だよ」
あぁそうだ、冤罪は在ってはいけない。それは僕が身に染みて良く分かっている。僕は国家転覆なんてしてない──事実無根、冤罪だ。
「なのに今まさに冤罪が起ころうとしている。その原因は国民からの圧力だよね。裁判長? 」
「・・・・・・」
裁判長は何も答えず、黙り込んだが、探偵は元々裁判長の回答には興味は無かったのだろう…そのまま続けて説明した。
「国民は最近起こったマタタビ事件に対して、未だに何も出来ずにいる政府に不信感を抱いている。不信感は徐々に膨らんでいき、今にも破裂寸前ってわけだ。破裂しちゃったらどうなるのかなぁ、まぁ暴動、クーデターも起こりかねないよね。その一時しのぎに彼を処刑をするつもりでしょ・・駄目だよね…命は大事にしなきゃ」
「僕が言うのもなんだが…クーデターを止める為に尚更僕を処刑すべきじゃあないか」
「だから君は頭が脆いんだよ。そんな訳だから頭突きしたぐらいで気絶しちゃうんだよね」
さっきは僕の頭を固いと罵ったのに、今度は脆いと馬鹿にする──僕はガラスかい。
「何か僕に対して辛辣になってないか?」
探偵は僕の文句には耳にも止めずに話を続けた。
「君を処刑したところで、マタタビの被害は止まらないよね。そうなると君が冤罪で処刑されたと国民にバレる。テロリストならまだしも、無毛人はこの国では人気者だから尚更、政府に対して不信感が増すって訳だよね」
ダイエットでリバウンドをするように、あくまで一時的な平穏──すぐに悪化する。
てか無毛人ってこの国では人気者なのか、何故だろう?とそんな疑問を感じていると・・・・
「そ、それはこの無毛人がテロリストではない場合の話だろ。こいつはマタタビを使ってエノコロ王国を混乱させようとしてるんだ」
と一人の検察官が横やりを投げた。
「こっちには証拠だってあるんだぞ」と僕が持ってきたマタタビ入りのおやつを出した。すると、探偵はその検察官に近付き、おやつを奪ったと思ったら検察官に無理やり食べさせた。
「ウゲッ・・てめぇ何をするんだ」
検察官は青ざめた表情で探偵に睨み付けたが、探偵は憶さずに「検察官はイカれて無いかな?」と僕の隣に戻り訊いた。
検察官はそれを聞くと「イカれてるのはお前だろうがぁ」と怒りながら僕たちに近付いてくる。それを見て僕は探偵の質問に答えた。
「普通に歩いている様だし正常だと思う。至って健康体だ」
「うん、私もそう思う」
「はぁ? こっちはマタタビを食わされたんだぞ。正常なわけ・・・・・・あれ! 何ともない!?」
「お菓子に含まれるマタタビはそれ程多くない。それにこの国の住民は外界の猫よりかなり大きい…その分、大量のマタタビが必要だよね。まぁ要するに巷で生じているマタタビの事件を起こすには量が少なすぎるって事だね」
薬と同じだ。同じ薬でも体重によって薬の量を変える。
「探偵さん・・彼がテロリストでは無いとしても、マタタビをエノコロ王国に持ち入れたのは事実ではありませんか?」
裁判長の言うとおり、僕はテロリストの容疑では無罪だが、マタタビ密輸の容疑では有罪だ。ヤバい! どうするんだ?探偵っ!
「それは、検察官を見て分かると思うけど、マタタビ密輸で逮捕される程多くのマタタビを持ち入れてないよね。それに彼は無毛人だよ。知らないで持ち込んだに決まってるじゃん。これは事故だよ」
探偵は見事に論破した。これには反論の余地がないだろう。
「しかし、釈放すると私の面目が・・」
裁判長は往生際悪く僕の無罪は認めなかったので、探偵は更に追撃する。
「だから、私は王様の何でも券を出したんだよ」
「あれは『何でも券』を貰ったのが嬉しくて、見せびらかす為では無かったのか?」
と僕が空気を読めないようなことを言うと「馬鹿だよね。君は」
と分かりやすく呆れた表情に変化させる…探偵はそのままの顔で説明を付け加えた。
「責任を追及されたら、国王の『何でも券』には逆らえなかったと被害者のふりでもしてたらいい」
「・・・・・・でも、あっ! そうだ。ここで無毛人を逃がしたところでマタタビの事件の被害は止まらないですよね?」
裁判長は思い出したかのようにマタタビ事件の心配し始めた。
「だからこそ、彼を釈放すべきだよ。そうすれば、あなた方も私達も得する」
「どのような意味ですか?」
探偵の言葉足らずの説明に裁判長は詳細を訊いた。
「私の言いたい事はとどのつまり、彼を釈放すれば私達でマタタビ事件を解決させる」
探偵は僕の肩に手を乗せた。
「え!? 僕も?」
「当たり前じゃあないか。『君を助ける私』が『君』をパシリにするのは当然のことでしょ?」
パシリは少し釈然としないが、手伝う分には問題ない。むしろ僕が犯人を捕まえてやりたいぐらいだ。そいつのせいで僕はテロリストとして処刑されそうになったわけだし、一発殴らないと気が済まない。
「・・・・・・・・」
裁判長は未だに黙ったままで何も言わなかったが、思いがけないところから賛成の声が届いた。
「ここは釈放すべきでしょう!」
その声の持ち主は探偵にマタタビを食べさせられた検察官だった。
「け、検察側は釈放してもよろしいと?」
裁判長はようやく口を開いたが、驚いたように検察側に問う。
「我々は問題ないです。条件付きではありますがね…」
条件ってなんだ?分かりやすく悪い顔したな…絶対に無理難題を投げつけてくるぞ。
条件の内容を裁判長が聞くと、検察官は右側の口角を上げて笑った後に条件を叩きつけた。その条件と言うのは一週間以内にマタタビ問題を解決させないと僕と探偵は死ぬまでずっとこの国で奴隷として働き続けるって事だった。殺さないだけ有難く思えと余計な一言を付け加えて・・・・。
探偵はそれを聞くと
「一週間なんて多いよ…3日で十分さ」
と余計なことを一瞬だけ左眼のみを閉じて言い放った。
その後、僕は釈放された。
自由の身になり、落ち着いて周りを見渡してみると町の中心には中世の城のような大きい建物がそびえ立っており、城も含めて多くの建造物の色は白で統一されている。まるで地中海の雰囲気なのだが、所々に日本ぽい建造物も存在している。例えば道の向かい側にはは神社があり、その隣には銭湯がある。それに探偵が走った方には暖簾を上げたばかりのラーメン屋があった・・・・
「・・・・・・・・ちょっ!?」
こんな知らない場所を一人にしないでくれ。
てか、 このネコの国にはラーメン屋すらあるのかよ!
僕は探偵を追ってラーメン屋に向かった。店内に入ると探偵が一番手前のカウンター席に座っていたので、僕は探偵の隣の席に座った。座ったところで、今の僕にはラーメン代を払うことは出来ない。捕まる時に荷物は取り上げられたし、そもそも日本の通貨がここで使えるはずがない。もしかしたら探偵が奢ってくれるかも知れないと思い、探偵にお金がないことを伝えると──
「奇遇だね…私も一文無しさ」
「・・・・・・」
じゃあ何故コイツは颯爽とラーメン屋に駆け込んだ?ちょっと待て…探偵が店に入ってから僕が入るまでの間、こいつは何してたんだ?
まさか・・・・
「流石にもう注文はしてないよな?」
「心配しなくても君の分も一緒に頼んどいたよ。『ありがとう』と言って貰っても構わないよ」
コイツは僕にマタタビ密輸だけじゃなく、無銭飲食の罪を重ねさせる気か!
「すみません!さっきの注文はキャンセルで──僕達お金無いんです 。直ぐに出ていきますから」
探偵には睨み付けられたが、気にせずに探偵の腕を引っ張ってお店を出ようとした。
すると、厨房の方から微かに声が聞こえた。
「無料でいい」
「はい!?」
よく聞こえなかったので聞き直すと
「あんたらは無毛人だから無料でいい」
それを聞いた探偵は僕の手を振りほどき、席に戻って嘲笑って言った。
「『ありがとう』って言って貰っても構わないよ」
僕は大将に「有難うございます」と礼を伝えてから席に戻った。
「私にもありがとうは?」
作者のひと言
主理なら猫耳マッチョマンも愛せると思います。
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