第2話 耳だけがネコの少女
僕がマタタビ密輸で捕まる前の出来事。
マタタビ密輸で逮捕までの経緯 について話そうと思う。
だが、未だに名前すらも出ていないので、過去回想に入る前に僕自身のことを聞いて貰いたい。
名は
「書き」の方は「勉強した甲斐があった。主に理科が」
「読み」の方は「飼いしゅり(すぎ)だよ。
てな感じで覚えて欲しい。
動物番組を欠かさず見ているような動物好きのただの高校生。
僕のちょっとした自己紹介はこれぐらいで良いだろう。
過去回想に入ろうと思う、過去と言っても逮捕される数時間前の出来事。
その日は一学期最後の日なので学校が午前中の終業式のみで、午後のも特に用事がなかったので唯一の趣味に赴くことにした。
僕の趣味は野良猫の姿を写真におさめることだ。自由気ままに生きてるネコを撮ると、癒されし、現実も忘れられる。
この趣味には僕なりのルールがある。
①人の迷惑をかけない
②敷地内には入らない
③行ったことの無い場所でネコを撮影する。
④撮影し終わったら、お礼代わりにおやつを渡す。
⑤一眼レフとかではなく、スマホのカメラで写真を撮る
ルール①と②は当たり前のことだとして、ルール③は色んなネコの写真を撮りたいから定めたもので、④は僕は誰であっても、たとえ、ネコであっても借りを作りたくないから決めたルールだ。
僕はルール④に従って、ネコのおやつ(マタタビ入り)を買い、相棒のママチャリに乗って 目的地もなくペダルを漕いだ。
少しばかし自転車を走らせていたら、猫じゃらしが生い茂った大きめの公園が目に止まった。ここならネコが沢山いそうだと思い、僕はこの公園を撮影場所に決めた。
公園の入り口には「狗尾公園」と書いてあったが、活字離れした高校生である僕にはなんて読むのか分からない。
国語は苦手なんだ。だけど知らないままなのは気持ち悪い。
そんな時こそ文明の利器の出番だ。
僕はスマホで読み方を調べようと、スマホを入れてあるリュックサックを開いた。
リュックサックの一番手前には買ったばかりのマタタビ入りのおやつがあり、邪魔だったのでマタタビを手に持ってどかすと、その下に目的物のスマホがあった。
スマホを取り出して「狗尾公園」を調べようとしたが、誤ってカメラを開いてしまう。
カメラを開いてしまったことで、道の先にある違和感に気が付いた。
画面を覗くと、道の真ん中に真っ黒な穴が映っている。気になってカメラをズームにして謎の穴をよく見てみると、穴の横にはマンホールが置いてあった。
おおよそ、誰かがイタズラでもしてマンホールを外したのだろう。
このままだと危険だと思い、とりあえず僕は穴に向かって真っ直ぐ進んだ。そう、直線的に
マンホールまであと10歩あたりで、マンホールの先を黒猫が横切ろうとしていた──それは目の色が左右で異なるオッドアイの黒猫だった。
黒猫が横切ると不吉と言う迷信があるけれど、僕はその迷信が嫌いだ。
まるで黒猫が不吉の象徴みたいではないか。ネコ好きの僕にとって黒猫が目の前を横切ること自体が吉だし、まして珍しいオッドアイの黒猫だ──幸運以外の何物でもない。僕はその物珍しいネコを写真を撮ろうと思い、スマホの画面を見ながら黒猫に近づこうとした。
言い忘れていたがルール⑤は写真を撮れる道具がスマホしかないのであって別段こだわりでも何でもない──
猫が逃げないよう音を立てずにゆっくり前に進んだ。10歩ほど進むと、突如として、僕の体は浮遊感に包まれ、徐々に目の高さが低くなってゆく。
僕はマンホールの穴に落ちたのだ、画面越しの黒猫に夢中になって。黒猫が横切ることで、僕は不幸に陥る。
そして、穴に落ちる。
穴に落ち、僕はマタタビ密輸で捕まった。
そんなオチ
そして、今、僕は留置所に放り込まれている。
他には誰もいない。まるで、貸し切りだな。
牢屋を貸し切りにしたことで、プライバシーの糞もないのだけど・・・・
窓が小さいためなのか、留置所内は薄暗く、埃っぽい。それに夏だってこともあり蚊にも刺されまくる。
居るだけで心がどんより落ち込む。
落ちに落ちきった僕は壁に背中を預けて座り、どんよりとした弱音を吐く。
「こんなところで独りぼっちか」
「私もいるんだけどね」
反射的に声のするほうを振り向くと・・・目があった。
けれどそれは、アイコンタクトがとれた意味での目が『合った』ではなく、まぁ、確かにアイコンタクトはとれてはいたのだが、僕が伝えたかった意味での『あった』は存在の意味での『在った』だ。
つまり、瞳しか見えないほど近い位置に誰かが座っている。
「うあぁぁぁぁぁ!」
驚いて後退する。
後退し過ぎて鉄格子に勢い良く頭をぶつけた。
「ついてない」
一言ぼやいた後、ぶつけた頭を撫でながら顔を上げると、瞳しか見えなかった者の正体が明らかになった。
それは玉のように丸まって座った女の子。
彼女は足先まで黒一色のワンカラーコーデ。
鳩尾ぐらいまで伸ばした黒髪からは、耳が飛び出ていた。だが、それは人の耳では無く・・・ネコの耳だった。
けれども、僕を捕まえた警官のように全身がネコではなく・・・・
彼女は耳だけがネコだった。
だとしても、猫耳なんてそう対して珍しいものでもない。パーティーグッズで猫耳カチューシャは普通に販売されているし、中には猫耳が自動で動くものさえある。
だから、道端で猫耳をつけた人がいたところで僕はここまで驚くことはない。「コスプレかなぁ」ぐらいしか思わない。
だが、僕は彼女を一目見て、時が止まったように感じた。
実際、確かに僕はマタタビ密輸容疑で逮捕された時よりも驚いていた。
声も出せないほど驚いていた。
なぜなら、彼女の耳は作り物ではない── 血が通っている生きている耳だったからだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・猫耳!?」
「そうだね。私は耳だけがネコの探偵、
「ねこみみ!?」
「単刀直入に言うけど君を助けに来たんだよ」
「ネコミミ!?」
「…」
「ネコミミ」
「大分混乱しているなぁ。まぁ、しょうがないね、私が君の事を何とかしてあげるよ。信じて待っててね」
と言い、牢屋から出ようと鉄格子に近づこうとしたが、次の僕の言葉で彼女の動きが止まった。
「・・・・信じられない」
「やっぱりそうだよね、うん確かに私のような『化け物』なんて信じられないかもしれないけど・・・・」
そう言う彼女の耳は少し垂れている。
「そうじゃない。僕が言いたいことは猫耳が似合う存在を信じられない・・・・だ」
「猫耳は付けるだけでどんなものでも魅力を底上げする存在だ。けれど僕は猫耳を付けた女の子のことを一度も可愛いと思った事なんてない、一度たりともない。猫耳はネコに付いているからこそ至上なんだ! アイドルや女優、たとえ二次元のキャラクターが猫耳を着けたって僕の心は少しも揺さぶる事は出来ない──精々震度5弱だ」
「かなり揺れてるね」
と彼女は言ったが興奮した僕の口は止まることを知らない。
「だが、君は違う…ネコ並みに猫耳と調和している。まるで、生まれて時からこれが当たり前の如く存在しているように感じた。まさに──鬼に金棒ならぬ、美少女に猫耳だ!!」
勢い良く彼女に言い放った。マシンガントーク
「・・・・・・」
彼女は少し驚いたように目を広げた後に、顔を伏せて、黙った──因みに耳は吊り立っている。
やばっ!? ひょっとして、泣いているのか?
猫耳に対する興奮で生じた熱が一気に引いていく。
女性に泣かされたことはあっても、泣かせたことはないのに・・・・
「ゴメン。何か気に触ること言っちゃっいました?」
心配になって彼女に近づく。
「ぐはぁっ」
銃弾が体に残るように僕の
状況から察するに、僕は彼女に頭突きされた様だ。
それも衝撃時に体を回転させることで威力を上げている。その証拠に彼女は僕の顔を下から見上げている──つまり僕を枕にして仰向けでいる。
「はっ!つい反射的に頭突きしてしまった」
うめき声しかあげられない僕に反して彼女は目を見開いて驚いたような表情を見せた。
「 反射的に頭突きなんてパキケファロサウルスではあるまいし」
僕は文句を振り絞る。
そんな僕のことを気にも留めずに、彼女はパキケファロサウルスの話を無駄に広げた。
「因みにパキケファロサウルスは『厚い頭をもつトカゲ』って意味なのに、体の構造的に頭突き出来ないらしいよ。パキケファロサウルスてば情けないよね、私は頭突きしても、ちっとも痛くないのに」
「パキケファロサウルスの事を悪く言わないで下さい」
パキケファロサウルスは恐竜キングでよく使ってたんだ。
「君はパキケファロサウルスと知り合いなのかい? それだったら是非とも私にも紹介して欲しいな」
彼女は僕の鳩尾に頭を埋めたままパキケファロサウルスを紹介しろと無茶な事を言う。
「そんなことより、そろそろ離れてくれませんか」
「私にとってはパキケファロサウルスはそんな事ではなく、かなり重要なことなんだけどね」
「いいから、離れてください」
「うーん、それは無理なお願いだね、どうやらこの体勢だと妙に心地よいんだよね」
彼女は耳をピョコピョコ動かしながら、僕のお願いを断った。お願いてはなく命令に近かったのだが、
言ってきかないなら、しょうがない。
渋々、僕は彼女を無理やり剥がして・・・・・あれ!? 全く剥がれそうにない、力強すぎだろ。
仕方なく、そのままの格好で「あなたは誰なんだ?」と訊いてみた。
「さっきも言ったんだけどね。まぁいいか、君は猫耳で頭いっぱいで聞こえて無かった様だからもう一度自己紹介するよ。私は猫耳が付いただけのただの名探偵、
ん!? 僕の名前をなぜ知っている? いや、それよりも探偵? 探偵が何しにこんなところに?
僕の頭の中にハテナマークが殺到する。
「戸惑いふためき、パニックに陥っているね。パニックのあまり、頭の上をヒヨコがクルクル走り回っているね。私ったら、無意識に『てんしのキッス』でもしちゃったかな」
確かに僕は予想外の出来事の連続で混乱しているが、状態異常での『こんらん」ではない。『わけも わからず じぶんを こうげきした!』にはならない。
「
このふざけた女が、絶望的なこの状況を救えるのか?
「君が丁度捕まる瞬間を目にしてね。主理くんって面白いね。君の事をもっと知りたいな、死なせるには勿体ないなって思ったんだ」
「・・・・助けてくれる理由はよく分からないですけど、この状況を何とかしてくれるなら、藁にだってすがれますよ。死にたくないので」
「過小評価しないで欲しいな~私は藁なんて弱々しいものじゃない、
未だに僕の
『いやいや、藁だろ…頼りなさ過ぎる』
だが、今の僕は藁にもすがりたい、いや、こっちの諺のほうが適切か『猫の手も借りたい』たとえ、頼りなくても、助かる希望は手放したくない。
「それは頼もしいですね。それじゃあ、いい加減に僕に頭を埋めてないで速く助けてください」
僕は頼りないとはいえ、彼女に見捨てられるわけにはいかずに思ってもないことを言った。
若干最後に本音が入ったが上手く機嫌をとれたと思う。
「 君はどうやら、私を頼りないって思ってるみたいだね。でも、藁にもすがりたい、いや・・・・こっちかな『猫の手も借りたい』君は私に取り入ろうとして、思ってもない事を言ってるね。心を読まなくて分かるよ」
丸々全部バレてた! 本当に心を読んでるんじゃないか!?
「心配しなくても、人の心を読める力は私にはないよ」
読んでるじゃないか、末恐ろしいよ。
「あ~でも、速く助けて欲しいのは本音だろうね。だけど、今すぐには無理かな」
「ど、どうして?」
僕は慌てて彼女に聞いた。
「それはね、君に頭を密着させると、妙な安心感があるんだ。初めての感覚だよ・・・・自分の事でもまだ知らないことがあるんだね。興味深いなぁ…まだ感じていたい」
頭を僕に擦り付けながら気持ちよさそうに目を細めた。
「そんなことせずに早く助けてくれ」と叫びそうになったが 恐らく、彼女は気が済むまで何もしてくれないだろし、ここで機嫌を損ねたくない。それに今すぐには処刑されないはずだ。ネコの警官は一週間後だと言っていたし、だったらその間にこの探偵から色々聞くのが得策だろう。
「暫くこのままでもいいですけど、いくつか質問してもいいですか?」
探偵は平然と了承したので、僕は質問コーナーに移った。
「じゃあ聞くけど、ここはどこなんですか?」
まず知りたいのはここの場所だ。マタタビを所持していて逮捕される国なんて聞いたことはないし、それ以前に、ネコが住民の国なんてあるわけがない。
「ここはエノコロ王国」
うん聞いたこと無い。僕の経験から察するに多分ここは異世界だ。マンホールの穴に落ちて死んだ僕は転生してこの世界に来たんだろう。で、ここは獣人たちの国ってところだな。なんだか興奮してきた。魔法とか使って、実は物凄く強かったみたいになってハーレム暮らしになるかもしれない。そんな夢物語を考えていると・・・・・・
「ところで君はどこから来たんだい?」
探偵は気持ちよさそうに目を細めたまま異世界ものでは必ず聞かれる質問を口にした。
来た来た! ここは異世界もののお決まりの返事をしとこう。
「極東の島国から来ました」
ここは敢えて日本とは言わずに極東の島国と答えるのが異世界系での嗜みって奴だな──ちょっと言ってみたかったんだ。
「イヒヒヒ、君はひょっとしてここがファンタジーの世界だと、イヒヒヒ、思っているのかい?イヒヒヒ」
探偵は馬鹿にするようにイヒヒヒと笑った。
「え!? 違うの?」
「ここは、イヒヒヒ、君が、イヒヒヒ、言う、イヒヒヒ、極東の島国だよ、イヒヒヒ・・・・」
笑いすぎだろ。てか、この笑い声がとても気に障る。
「いやーだって、ここの場所を教えたとたんに君はワクワクドキドキした顔しているからね、ひょっとして異世界転生でもしたって勘違いしているのかな〜って思って少し探りを入れると案の定『極東の島国から来ました』キリッだもん・・・・可笑しくてたまんないよ・・・・イヒヒヒ」
うん、分かった。こいつムカつく・・・・
「魔法や剣を使い、俺つえぇって感じになって、チヤホヤされて、ハーレム暮らしなんて考えてかも知れないけど、残念でした。ここは一応日本です…イヒヒヒ…」
気がつくと僕は頭にきて彼女の頭に向かって自身の頭を頭を勢いよく振り下ろした──端的に言えば、頭突きを食らわした。
作者のひと言
つい、気合入って無駄な会話が長くなってしまいましたが、読んで頂いてありがとうございます。
あと、星★、フォロー、ハート♡を頂ければ、これから頑張っていこう!! と励みになるので、お願いします。
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