けもの化ウイルスに感染した彼女たちのコンタミ~探偵のミミはネコの耳
一滴一攪
探偵のミミはネコの耳
第1話 マタタビ密輸容疑
僕は終業式の帰りに現行犯逮捕された。
「マタタビ密輸容疑で逮捕する!」
そう、マタタビ密輸で・・・・・・
刑事ドラマのお決まりのセリフと共に汗ばんだ手首に手錠がはめられた。
「冤罪だぁーーーーーーーーー!!」
驚きのあまり冤罪だと叫んでしまったけれど、マタタビ密輸が犯罪なのを僕が知らないだけであって、実は麻薬取締法みたくマタタビ取締法が存在するなら、僕は冤罪ではないだろう。
理由を説明するのは簡単だ。僕が今掴んでいるものを見て欲しい。
──マタタビ──
がっつり『マタタビ入り』と記載された猫用のおやつを僕は握っている。
もしマタタビ密輸が犯罪なら、僕の言動はまるで素っ裸な人が「卑猥なことは一切していない、冤罪だっ!」と警察管の前で叫んでるような支離滅裂なものだっただろう。
まるで僕は頭のおかしい異常者だ。
・・・・・・・・・
いやいやいやいや、そんなはずはない! 僕は至って正常だ。
異常なのは僕ではなくこの状況じゃないか。
マタタビを持っているだけで逮捕されるなんておかしいだろ。マタタビ密輸で逮捕なんてあるわけがない。
だけど信じられないことは、マタタビ密輸で逮捕されたことだけじゃない。
それは僕を逮捕した警官だ。
警察服を着ているが人ではない。
正確に言うならば、霊長類真猿亜目ヒト上科ヒト科 ホモサピエンスではない。
顔はどう見ても、食肉目だ。もっと細かく分類するならば──ネコだ。
ネコだと言っても・・・・・ネコだと言っても僕の知っている猫には到底思えない。
まず、大きさで全く違う。
猫の体長は大きくても大体30cmぐらいだが、彼の身長は僕と同じぐらいだ。
まぁ、僕の身長は、誇り高きサイヤ人と同じ164cmと決して大きいとは言えないが、猫の大きさで考えるならば164cmは異常な大きさだ。
それに二本足で立ち、服を身につけ、流暢に日本語を話す。
こんな感じに──
「冤罪じゃあねぇだろ。まさか、ムモウジンが犯人だったか」
ネコの警官はマタタビを取り上げ、僕の目の前に突き出した。
「これは違法薬物のマタタビ、お前はマタタビ密輸の現行犯だ」
ご丁寧に逮捕した理由を説明してくれたが、全く理解出来そうにない。
「マタタビを持ってて何が悪いんですか?」
思わず、思った事を口走ってしまった・・・・わけではなく、単に知りたかったから僕は聞いた。
この状況をどうにかするよりも、僕はマタタビが違法な理由を知りたくて仕方ない。
「にゃっ!?」
ネコの警官は 急にネコぽいリアクションをした。
恐らく「えっ!?」とか「はぁ!?」みたい意味だろう。
ネコ語を使うんだったら最初から語尾に「にゃー」でも付けて欲しかったと思う。
その後、警官は当たり前のルールだからと答えたが、納得出来なかったので疑問を続けた。
「マタタビは確かに興奮させるような働きがありますが、依存性は低く、食欲増進やストレス解消などプラスの作用があります。それに最近の研究では蚊を寄せ付けない効果もあるそうです。分量をしっかり守ればむしろ体に良いものなのですが、何で危険薬物なのですか?」
「何意味分からない事言ってんだ?」
警官はめんどくさそうに頬を掻いた。
僕はマタタビの有用性を論理だてて主張したが、ネコの警官には分かってもらえなかったようだ。
警官は頬を掻いた手が徐々に上行していき、掻いた手が頭に達すると、めんどくさそうにマタタビが違法な理由を説明し始めた。
「お前は知らないだろうがなぁ、2年前にマタタビが
なるほど、警官が論理だてて説明してくれたお陰でマタタビが違法な理由が分かった。
中国がアヘンで国が傾いた経験から薬物に関して厳しいように、この国ではマタタビに対して厳重に取り締まっているのだろう。
それに海外では合法な物でも、日本では違法の物だってある。
マタタビがいくら無害だと説いたところで、駄目なものは駄目なのだろう。
「分かってくれたようだな」
警官は僕の反応を見て、目を細めて笑った。
「じゃあ、大人しく署にご同行願おうか」
と警官は顔を隠すように僕に上着をかけた。
「…はい」
ここは大人しく従うのが吉だ。
足の速さには自信があるが、知らない場所で手錠をはめられている状態では恐らく逃げ切れないだろう。
それに逃亡を試みることで罪が重くなる可能性が高い。
僕と話してくれる警官は毛色がグレーのブリティッシュ・ショートヘア顔でがっしりとした体つきだった。
ブリティッシュ・ショートヘアは温厚で賢い性格だと聞いたことがある。
ひょっとしたら、大人しく従えば帰してくれるかもしれない。
そんなことを考えているとブリティッシュ・ショートヘアのような警官、以下ブリショー警官は話しかけて来た。
「俺達を見ても取り乱さねぇな。ここにはごくごく稀にお前のようなムモウジンがくるんだけど、基本的にみんな俺達を見て怖がるんだ。「化け物だぁ!」って叫ばれることもあったなぁ」
ん? さっきほども言っていたムモウジンってなんなのだろう?
ム→無 モウ→毛 ジン→人・・・・
あぁ、なるほど、毛の無い人で『無毛人』なのか。つまり、僕たちヒトのことを無毛人って呼んでいるみたいだな。
「まぁ僕はお巡りさんのような素敵なフワフワの毛は持ってないですけど、意志疎通の出来る相手のことを化け物だとは思わないです。それよりも、いきなり逮捕されるほうが驚きました」
「ニャハッハッハッ、確かにお前は俺たちを見て最初に言ったことは『冤罪だぁー』だったな」
ブリショー警官は口を大きく開けて笑った。
「そりゃあ、いきなり逮捕されちゃあ冤罪だと叫んじゃいますよ。アハハㇵㇵㇵ」
ん! ちょっと待てよ。一緒になって笑っている場合ではない。大事なことをスルーしてしまうところだった。
僕以外にもこのネコの国に迷いこんだヒトがいるって! だったら、その人たちはどうなったんだ?
もしも、その人たちがこの国から無事に帰ることが出来たなら、僕も家に戻れるのではないか。
「それで僕のような無毛人はどうなったのですか?」
僕はブリショー警官に尋ねる。
「基本的には俺達のことを秘密にする条件で帰すことになっている」
「良かったぁ! じゃあ僕も秘密にすれば無事に帰れるってことですね」
「いやいや、お前は駄目だ」
「えっ!? 何でですか?」
「だってお前はこんな時にマタタビを密輸しちゃたじゃん」
手首に繋がられている手錠のことと一緒にマタタビのことなどすっかり忘れていた。
牢屋にぶち込まれるのは回避できそうにないな。それなら、逮捕を避けることは忘れて・・・・・ここは忘れてはいけなくないか? まぁいいか。切り替えは早いほどいいしな。ならば今後考えるべきは懲役期間の長さだ。
「因みに僕はどのくらい牢屋で暮らすことになるんですか?」
ひょとすると案外、短期間の牢屋暮らしなのかもしれない。
「お前の場合はそんなに長くは牢屋に居ることはないな。長くても一週間ぐらいかな」
どうやらマタタビ密輸は軽犯罪らしい。
一週間ぐらいなら我慢出来る。一週間は神が世界を創造し、ラスト二日間は…
「裁判までの間は牢屋で暮らして、終わったら恐らく斬首刑だな」
「斬首!?」
全然、軽犯罪じゃなかった。
懲役一週間でなく、余命一週間だった。
「情状酌量の余地は?」
「恐らく無い。しかも、ここ最近、マタタビによる被害が出始めている。恐らくお前はマタタビを使って国を滅ぼそうとした国家転覆罪の容疑をかけられて、即、死刑だな。ニャハハハハ」
マタタビ密輸ならともかく、国家転覆なんてしていない。それこそ冤罪だ。
ブリショー警官は僕を引きずりながら、何か言ってきたが、死刑判決のショックのあまり、僕の耳にはブリショー警部の声は入って行かなかった。
微かに頭に入ったのは、探偵が──などの断片的な言葉だけだった。
作者のひと言
まだヒロインが出ていませんが、どうか見限らないで続きも見てください!!
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