第645話 寄せ集め
ウォリック公爵軍に同行していたエルフ達がモントゴメリーに到着した。
本来ならばウォーデンに捕まっていたドワーフ達と共に帰国する予定だったが、ドワーフの扱いに怒りを覚えたので続けて参戦する事にしたからだ。
この申し出をアイザックは断らなかった。
リード王国で簒奪を考えていた時とは違い、今回は断る理由がなかったからだ。
アイザックは彼らにキンバリー川の東岸に
要塞でないのは、いずれこの駐屯地を有効活用するつもりだったからだ。
強固なものを作られては困る。
だがキンバリー川は大河である。
東岸に活動拠点を作っておきたい。
だからこそ当面の間の活動拠点として駐屯地を作る事にしたのだ。
「キンブル元帥の支援に向かわなくともよろしいのですかな?」
まだ暴れ足りないマチアスがアイザックに尋ねる。
「大丈夫なようにはしています。元々、皆さんの力をお借りせずとも戦えるように準備はしていましたから。……ウォーデンではありがとうございました。マチアスさん達がヴォルフラムさん達を止めてくれなければ、ウォリック公爵家の兵にもっと多くの被害が出ていたでしょう。リード王国の王として感謝致します」
「気にするな。その場で殺せばそれで終わる。だが奴らにはそれだけでは手ぬるい。誰がどのような事をやったのかを記録し、罪人どもの名を歴史書に永遠に残してやるべきなのだ!」
「その通りだと思います」
(この人も意外としっかりした考えを持っているんだな)
非常時にどのような行動を取ったかで、その者の人となりがよくわかる。
同族の中ではなんだかんだとコキ降ろされるマチアスだったが、どうやら実態はそうではなかったようだ。
アイザックは、マチアスの評価を上方修正した。
「それを言ったのは私だったでしょう。なんで自分の手柄のように語るんですか」
「ええい、黙っておればいいものを」
だが、その上がった評価をアロイスの一言が木っ端微塵に吹き飛ばした。
どうやら評価するべき相手はアロイスだったらしい。
(やっぱり村長を任されるだけあって冷静な人だな。遠征部隊の隊長になってくれてよかった)
マチアスの吹き飛んだ評価と、えぐれるほど下がった評価の分だけ、アロイスに上乗せされて彼の評価が爆上がりしていた。
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キンブル元帥率いる本隊は、ファラガット共和国の首都デューイまであと十日ほどのところまで来ていた。
だがマーロウ州の交通の要衝に作られた要塞を前にして進撃が止まる。
シューティングスター城のような平原で孤立した拠点ではない。
小山を切り崩して作られた本格的な要塞を前にしたからだ。
しかも要塞前、そしてリード王国軍の北方側、南方側の三か所に軍が布陣している。
これは一筋縄ではいかなそうだった。
キンブル元帥が進撃を止めた理由は要塞があるからだけではない。
ファラガット共和国軍の数が問題だった。
三方に分かれて布陣している軍は、それぞれ一万人から二万人規模。
対するリード王国軍は、本隊とウェルロッド公爵軍を合わせて五万ほど。
不用意に攻撃を仕掛けられるほどの戦力差はない。
兵を休ませるためにも、一度動きを止めるしかなかった。
その光景をマーロウ国防大臣の息子、ブラウンが要塞の中から眺めていた。
「ジャスティン、ここダールグレンで奴らを止めるぞ」
彼は自分の息子のジャスティンに話しかける。
「はい。ダールグレンは二百年前からマーロウ伯爵家が心血を注いで作り上げてきた要塞です。必ずや奴らを追い払えるでしょう。まさか本当にここを使う事になるとは思いませんでしたが」
「私もだ。だが国を守るために私財を投じるのも貴族の役目。ノブリスオブリージュの精神を捨てずに保ち続けてきた甲斐があったというものだ」
二人とも「こんな内部に要塞を作る意味があるのか?」と内心では思っていた。
国境から離れているので、せいぜいが反乱を起こすか、起こされた時に立て籠もるくらいにしか役に立たないと考えていたからだ。
――だがその真価を発揮する時がきた。きてしまった。
「しかし、フォレット元帥は要塞を活用するのは野戦で一戦を交えてからと考えているようだな」
「訓練を受けていない平民をかき集めたところで一方的に殺されるだけでしょう」
「そうだ。……だがな、元帥の考えもわからんでもない。リード王国軍は十万以上、もしかすると二十万を超えるかもしれないらしい。奴らが集結する前に各個撃破しておきたいのだろう」
「それができれば、の話ですが」
「難しいだろうな」
二人ともファラガット共和国軍の力を信じていない。
大統領令が発布されたのは、リード王国軍が侵攻してきて三週間後。
西部の伝令が到着してからだった。
慌てて徴兵したものの、ただ若者に武器と防具を身につけさせるだけで終わった。
――その数、四万。
だが首都には最低限の正規兵を残しておきたいという事から、正規兵は四万人中三千人しかいない。
しかも、その内千名は海兵を陸に上げただけのもの。
フォレット元帥が「ダールグレンを突破されれば終わりなのに、なぜ兵を惜しむ」と嘆いていた惨状である。
ブラウンとジャスティンも、平地で戦って勝てるとはまったく思っていなかった。
しかし、絶望もしていなかった。
「父上が兵を送ってくれた。彼らを中心に逆転を狙うしかないだろう」
ブラウンは、ジャスティンに一枚の紙を差し出す。
そこに書かれていたリストを見て、ジャスティンは目を丸くして驚く。
「まさか、彼らを送ってくださるとは……。お爺様も頑張ってくださいましたね」
まず目に入ったのは、
彼らは五年前に農民が武装蜂起した際、メイヒュー財務大臣の甥っ子と共に五百人を超える反乱軍に囲まれてしまった。
だが彼らは諦めなかった。
ホテルに立て籠もり、たった十三人で百人を超える反乱軍兵を殺して、援軍が訪れる三日後まで耐えきった男達である。
腕前もさることながら、雇い主を見捨てないプロ根性と、絶望的な状況でも最後まで諦めずに戦い抜く精神力が高く評価されていた。
今では大臣直属の護衛に抜擢されている凄腕の傭兵だった。
次に目に入ったのは、
彼らは普段大陸南部で活動する三百人ほどの傭兵団だ。
しかも防衛側にのみ付くという一風変わった信念を持っている。
それは彼らが戦災孤児の集まりで、侵略戦争をする国を憎んでいるからだ。
実戦経験豊富で命知らずの集まりなので、最も頼り甲斐のある傭兵団だった。
本来はグリッドレイ公国へ向かう予定だったが、経由地であるファラガット共和国にリード王国が侵攻してきたので、そのまま戦う事に決めたそうだ。
他にも商人が保有する私兵集団を送ってきてくれていた。
どうやら政府が軍の出し惜しみをするのを見て、彼らは真剣に危機感を覚えてくれた憂国の士らしい。
総勢二千名ではあるが、頭数を集めただけの軍とは比べ物にならないほど頼もしい。
「そこに我らの
「よろしいのですか?」
「ああ、お前はもう私よりも強い。葬送騎士団も任せられるだろう」
「ありがとうございます! 必ずや敵将の首を挙げて凱旋致します!」
「レッツゴー・ジャスティン! フォレット元帥を助けて男になってこい!」
ジャスティンは、まだ十九歳になったばかり。
弱冠にも満たなかったが、その責任の重さを理解し、受け止めるだけの器量があった。
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