第353話 修羅場

 ロレッタの登場により、アイザックは窮地に追い込まれた。

 彼女の発言次第では、今まで積み重ねてきたものが一気に崩れ落ちる。

 非常に危険な存在だった。


「謁見の間でのお話は、とても興味深いものでした。特に女性を褒美として求めないという、政略結婚を否定する考えは印象に残っています。とても変わった考え方ではありますが、一人の女として嬉しく思いました」


 そう言って、彼女はアイザックの隣に立つ。

 その姿はまるで、アイザックの伴侶に決まったようなものだと周囲に示しているように見えた。

 同行しているニコラス達が何か言いたそうだが、彼らはロレッタの行動を止めなかった。

 アイザックとの関係が深まるのは問題ない。

 むしろ、推奨すべき行為だからだ。


「リサさんが羨ましいですわ。こんなに素晴らしい方に愛されているのですもの」

「ええ、本当に。私自身、今も信じられない思いです」


 リサの返事は、アイザックと婚約できたという意味だけではない。

 こうしてジェイソンやロレッタとも普通に話せる立場になった事も、一年前には考えられなかった事だ。

 アイザックといるだけで、今まで彼女が見る事ができなかった世界に連れてきてくれている。

 そちらの意味でも、彼女は「信じられない」という思いを抱えていた。


「エンフィールド公」

「……なんでしょう?」

「卒業式まで様子を見ると仰っておられましたよね? 卒業式まであと一年と少しあります。それだけあれば、お互いを知るのに十分な期間だと思うのですが……。どう思われますか?」


 ロレッタは最も肝心な事を聞き出そうとしていた。

 こんな聞き方をされては「一年じゃダメです」とは到底答えられない。


「入学してから色んな人の事を知っていこうと考えていたくらいですので、それだけの期間があれば相手を知るには十分だと思います。肝心なのはお互いを知るという事で、時間をかける事自体が目的というわけではありませんし」


 そのためアイザックは、このように答える事しかできなかった。

 ロレッタは、アイザックの答えに満足したかのように笑顔を見せる。


「それならば結構です。……ハンカチの見返りとして婚約を申し込んでいただけるのだと思っていましたので、正直なところ寂しかったです。でも、エンフィールド公が女を軽く扱わないとわかったので、それはそれでかまいません。これからはあなたの事を教えてください。そして、私の事を知ってください。私はあなたの事を――」

「ちょっと待ったぁ!」


 ロレッタがアイザックの腕に触れようとしたところで、このやり取りを見ていたアマンダが待ったをかける。

 彼女もアイザックの近くで挨拶をする順番を待っていたので、ロレッタの行動にすぐ反応する事ができたのだった。

 一緒にいるウォリック侯爵は、アマンダを止めようとはしない。

 その表情には、怒りも焦りもない。

 無表情で、ただ成り行きを見守っていた。


「ボクだってエンフィールド公を……。アイザックくんの事がずっと好きだったんだ。いくらロレッタ殿下とはいえ、横からかっさらわれていかれるのは黙って見過ごせないよ」


(えぇぇぇ、嘘っ! そうだったの!?)


 突然の告白に、アイザックは驚く。

 アマンダの気持ちが本物に見えたからだ。

 彼女に好意を持たれている事は薄々感じていたが、それはウォリック侯爵家の財政を助けた感謝だと思っていた。

 過去に婚約を望んでいるような素振りも確かにあった。

 だがそれは政略結婚のため、家のために、そういう演技をしているのだと思っていた。

 家の繋がりではなく、自分個人への本気の好意だというのは想定外だ。


 ――ただでさえ扱いきれない事態になっていたところに、思わぬ新事実が発覚した。


 アイザックの思考がフリーズする。


「横からかっさらうとは心外なお言葉ですね。私はリサさんを尊重するつもりです。蔑ろになど致しません。いつかアイザックさんの隣に、リサさんと共に立つ事ができればいいなと願っているだけです」


 アイザックとは違い、ロレッタは即座に反論する。

 彼女はアマンダの存在を以前からライバルとして認識していたので、意外でもなんでもなかったからである。

 だが、彼女もアマンダに釣られて「アイザックさん」と呼ぶようになっていた。


「アイザックさんの反応を見る限り、アマンダさんが想いを打ち明けるのは初めてなのでしょう? それなら、アマンダさんから奪うような事にはならないのでは? だって、お二人の関係は始まってすらいないのですから」


 ロレッタにとって、アイザック争奪戦での最大のライバルはアマンダだ。

 彼女を強く意識しているせいか、その言葉には敵意が見える。


「確かにアイザックくんなら、ボクの気持ちに気付いているはずだと思って言葉にはしてこなかった。けどね、アイザックくんの事を好きな気持ちは誰にも負けないよ。ボクなら『どんな理由があろうともハンカチを受け取ったんだから、これからは自分と親しくしてほしい』なんて態度でアイザックくんに接しない。そういう弱みに付け込むような方法でアイザックくんと親しくなって、後ろめたいところはないの?」

「でしたら、アマンダさんは指を咥えて見てらっしゃるとよろしいのでは? 好きな人には好きだと伝え、親しくなるために話す機会を増やす。それのどこが悪いというのです。そんな様ですから、今までチャンスがあったのに婚約できなかったのですよ」

「それはお互い様だよね」


 ロレッタとアマンダが睨み合う。

 両者の視線がぶつかり合い、まるで火花が飛び散っているかのようだった。


(あわわわわ……)


 そんな状況に対応できず、アイザックは助けを求めて視線を動かす。

 だが、この状況で即座に動ける者はいなかった。

 誰もが呆気に取られて、ポカンとして事態を見守っている。

 状況は把握できているのだろうが、アイザック同様に状況についていけていない。


 ――王女と貴族令嬢の恋愛バトル。


「えっ、なんで今ここで?」と、誰も彼もが固まっていた。


 ロレッタがアイザックの傍から離れ、アマンダの前に立つ。

 そして、左頬に手を当てた。


「私は子供の頃に酷い怪我を負ってしまいました。魔法でも傷跡は治りきらず『こんな醜い女と結婚するのは辛いだろう』と婚約者に自分から別れを切り出しました。少なくとも、婚約者に捨てられてしまうほど魅力のない女ではないと自負しております」

「くっ……」


 アマンダが歯を食いしばって耐える。


 アマンダ自身――


「もっと自分に魅力があれば」

「もっとフレッドに男友達のように扱わないでくれと言っていれば」

「もっと女として見られる努力をしていれば」


 ――と数多くの後悔をしていた事だ。


 婚約者に捨てられた女という点は、どうあがいても否定できない。

 痛烈な反撃を受けるが、彼女はそれだけで諦めたりはしなかった。

 アイザックを奪われたくないために、卑怯だと思う手段を使う。


「確かにロレッタ殿下はお美しい。でも、その美貌が戻った事で考えが変わったんじゃないの? 『綺麗になったから、元婚約者とよりを戻したい』ってね。わざわざ元婚約者を同行させているくらいだし」


 アマンダはニコラスを指し示す。


(えぇぇぇ、そうだったの!?)


 先ほどからずっと驚かされる事ばかりだった。

 確かにロレッタの元婚約者が誰だったのかは気になったが、今までそれを聞いた事はなかった。

 彼女の古傷をえぐるような真似になるからだ。


(いや、まぁ確かに立場としては理解できるけど……。へぇ、そうだったんだ……)


 ニコラスは三男とはいえ、侯爵家の息子である。

 ロレッタの相手に選ばれていてもおかしくない。

 だが、今はソフィアという婚約者がいる。

 ロレッタも今更ニコラスを奪うような真似はしないだろうという事くらいは、アイザックにもわかる。

 それに、これはその気があれば簡単に調べられる内容だ。

 アイザックが調べなかっただけで、秘密でもなんでもない。

 アマンダの口撃に、ロレッタは涼しい顔をして答える。


「確かにニコラスは元婚約者です。ですが、彼はアイザックさんの又従兄弟なので連れてきただけです。もう男としての興味はありません。余計な心配をしてくださってありがとうございます」


 男として興味がないと言われて、ニコラスは情けない表情を浮かべる。

 ロレッタとの婚約は子供の頃に解消されているので、彼も引きずってはいない。

 今ではソフィアの事を愛している。

 それでも「男として興味がない」とキッパリ言われてしまっては、やはり悲しいものを感じてしまうものだ。


 関係のないところにも飛び火し始めた。

 アイザックは止めるべきかどうか迷い、二人を止めようとする。

 だが、アイザックの腕を掴む者が現れたせいで動きが止まる。


「あの二人……。怖い……」


 ――ジュディスだった。


 彼女は自然な動きでアイザックの右腕に抱きつく。

 そして、胸の谷間にアイザックの腕を挟みこんだ。

 言葉通りロレッタとアマンダを恐れているのか、恐怖で体が小刻みに震えている。

 そう、プルプルと震えていた。


(おっ、ラッキー! ……じゃない。今はそういう時じゃない!)


 アイザックはジュディスの行動により、動きが止められてしまう。

 しかし、すぐに行動しなければならない時である。

 さすがのアイザックも、ジュディスの感触を楽しんでいる場合ではないと理解している。


「ちょっと待って。二人とも落ち着いて」

「!?」


 ロレッタとアマンダは、アイザックに止められて自分達が何をしているのかを悟った。

 言い争うみっともない姿をアイザックに見せてしまっていたのだ。

 二人は見つめ合い「馬鹿な事をした」と一度自嘲気味に笑い、アイザックの方に向き直る。

 その時、二人の顔は般若のように恐ろしいものへと変わる。


 ――一瞬見せた笑顔はどこへ行ってしまったのだろうかと思うほどに。


「ジュディスさん、何をしてるの?」

「ドサクサに紛れて卑怯ですわ」

「やだ……。怖い……」


 二人を恐れたジュディスがギュッとアイザックの腕に強く抱き着く。

 その強さに比例して、ロレッタとアマンダの視線も強くなっていった。


「ジュディスさん、離れて。その行動は火に油を注ぐようなものだからさ」


 ジュディスの行動がマズイ事はアイザックにもわかる。

 似たような事を漫画で読んだ記憶があるからだ。

 まさか自分がそのような状態になると思っていなかったが、今は嬉しくともなんともない。

 崖っぷちに立たされているかのような恐怖感と焦りで呼吸と鼓動が早くなっていくのを感じていた。


「私の事……。嫌い……、ですか?」

「うっ……」


 ジュディスが上目遣いをしながら、アイザックに尋ねる。

 前世では女の子にこんな事をされた事がない。

 せいぜい、妹が「困っている妹を見捨てるの?」と夏休みの宿題を手伝わせる時くらいである。

 血の繋がらない女の子の上目遣いが、ここまで威力のあるものだとは思わなかった。


「嫌いではないですけど……。今はそういう時じゃないので離れてください。本当にお願いしますから」


 アイザックが困っているのを見て、ジュディスは渋々と離れる。

 寂しそうな表情を浮かべる彼女を、ランカスター伯爵がそっと抱き寄せる。


「ジュディスも可哀想に。ハンカチを受け取ってもらえて、命の恩人と婚約できる。そう思って楽しみにしていたのに……。婚約だけではなく、隣に寄りそう事すらできないとは」


 ランカスター伯爵がジュディスを慰める。

 だが、それはアイザックをさらに窮地に追い込む言葉でもあった。


(おいぃぃぃ! あんた、俺の味方をするって言ってたよな? なんで背中から刺すような真似をするんだよ!)


 アイザックは裏切られたような気分だったが、ランカスター伯爵にとっては違う。

 ジュディスがアイザックと婚約し、さらに関係を強化する事で助けようとしていた。

 ロレッタからハンカチを受け取っていた事も気にしないつもりだった。

 それに、ロレッタとの婚約を拒否したため、関係が悪化するかもしれない。

 孫娘のため、アイザックのためにも、二人の背中を押してやるべきだと思っていただけだ。

 これはアイザックが、ロレッタ以外の者からもハンカチを受け取っていたなどとは考えもしていなかったからである。


「ジュディスさんからも? アイザックくん、どういう事?」

「何人の女性から受け取ったんですか?」


 アマンダとロレッタの矛先がアイザックに向かう。

「お互いだけが有力なライバルだ」と思っていたが、他にも手強い相手がいるなら黙ってはいられない。

 ジュディスは元外務大臣の伯爵の孫娘だ。

 ウェルロッド侯爵家とも仲が良い。

 二人に比べれば勢力は小さいが、第三勢力としては十分な規模の敵である。

 このまま第四、第五の敵が現れるのなら、二人はちゃんと知っておきたかった。

 先ほどのジュディスが取った行動のように、二人で争っている時に横からかっさらわれてはたまらないからだ。


「いや、それは……」


 あとはパメラとティファニーの二人だけだ。

 しかし、この状況で二人の名前を出すのはマズイような気がしていた。

 アイザックは答えに窮す。

 そこに「フフフッ」という笑い声が聞こえた。


「アイザックもなかなかモテるようだね。お邪魔のようだから、これで失礼するよ」


 ジェイソンは「もう、こいつはニコル争奪戦どころではなくなった」とでも思っているのだろう。

 満足そうな笑みを浮かべて去ろうとする。

 彼の隣に立っているパメラは、能面のような表情でアイザックを一瞥すると、ジェイソンと共に立ち去ろうとしていた。


「あっ、待って」

「待つのはお前だ」


 アイザックはパメラを呼び止めようとしたが、ドスの利いた声で逆に行動を止められる。

 言葉を発したのはモーガンだった。

 アイザックが振り向くと、鬼のような形相をしたモーガンがいた。


「先に聞いたはずだ。ハンカチを他からも受け取ったのかと。なぜ言わなかった」

「い、いや、その……。言おうとしましたが、言える状況ではなく……」


 アイザックはパメラ以外の事は話そうとしていた。

 ティファニーが名乗り出たのと、ジェイソンが話しかけてきたせいで言い出す事ができなかっただけだ。

 わざと黙っていたわけではない。


 だが、それはアイザックの言い分である。

 モーガンには、アイザックが意図して黙っていたようにしか思えなかった。

 そこで、この場を収拾するために自分が動くしかないと彼は考える。


「このままでは事態の収拾がつかんだろう。まずはこちらで詳しく事情を聴き、後日改めて個別に話し合いたい。もちろん、言いたい事はあるだろう。そこは申し訳なく思うが、今は抑えてほしい。近いうちに場を設ける事は、ウェルロッド侯爵として約束する」


 とんでもない騒動になりそうだが、今はアイザックが無事に帰ってきた事を祝うパーティーが始まったばかりだ。

 他の貴族もアイザックに挨拶をしていないのに、女性関係で揉めているところをいつまでも見せるのはまずい。

 すでに手後れではあるが、早い段階で落ち着かせれば名前が傷つく事はないだろう。

 モーガン自身、アイザックに言いたい事はたくさんある。

 だが、今は自分の感情も抑えて対処するべき時だと理解している。

 ここは我慢して、アイザックの尻拭いをしようとしていた。


 現職の外務大臣であり、アイザックの祖父でもあるモーガンがこう言うのだ。

 言いたい事がある者達も黙るしかない。

 アイザックも「この流れに乗るしかない」と思って動く。


「僕からもちゃんとした事情の説明とお詫びをするつもりだ。最初からそのつもりだったしね。陛下があそこで殿下からハンカチを受け取ったと言われなければ、個別に落ち着いて話ができていたはずだ。みんなの名誉を損なわないように尽力する事を約束する。本当に申し訳ない」


 アイザックは頭を下げて謝る。

 ここで開き直る事などできない。

 ただ謝って許しを乞うしか方法が思い浮かばなかった。


「リサにも謝らないとね。前もって話せなくてごめん。不安にさせてしまったと思う。今は何を言っても信じられないだろうけど……。ちゃんと説明するから待っていてほしい」

「……はい」


 リサは返事をしたが、どこか呆れた表情だった。

 告白された時にアイザックから「第一夫人を迎えると思う」という話をされていたので覚悟はできていた。

 とはいえ、まさか複数人に粉をかけていたとは思わなかった。

 彼女はアイザックのプレイボーイっぷりに、つい呆れてしまっていた。


 モーガンとアイザックの言葉により、ひとまずは解散という雰囲気になった。

 だが、近くでこのやり取りを見ていた貴族達には終わりではない。

 アイザックの近くから離れていったロレッタやアマンダ、ジュディス。

 自分が正妻競争で有利だと思う者に取り入ろうと話しかけていく。

 この光景には、アイザックもなにやら危ういものを感じさせられる。


(なんでこうなるんだ? 俺は愛してるだとか一言も言ってないのに……)


 確かに女の子に囲まれる・・・・暮らしを思い描いていた時期はある。

 しかし、それはみんな笑顔でキャッキャウフフというハーレムとしての暮らしだ。

 周囲を取り囲まれて、リンチされそうな意味での囲まれる・・・・ではない。

 いっその事「うっ、頭が」と、ドラゴンに会ったショックで記憶喪失になってしまったフリをしたいくらいだ。

 だが、それももう遅い。

 個別に対応しなくてはならない状況になってしまった。

 いや、まだモーガンのおかげで個別に対応できるだけマシだろう。

 一緒に話しても、まとまるような気がしない。

 そこは祖父のサポートが光る。

 アイザックがこの状況に絶望していると、母の溜息が聞こえた。


「義姉さんの言う通り、大きくなったアイザックは大変な事をしでかしたわね」

「私が言った通り? あぁ、子供の頃に生粋の女たらしとして生まれてきたんじゃないかって言った、あれね」

「そうよ」


 かつてカレンは――


『この年なら、お菓子とかおもちゃの方を喜ぶと思うはずよ。なのに、わざわざ花を選んでプレゼントするなんて……。きっと、生粋の女たらしとして生まれてきたのね』


 ――と、ルシアにアイザックの事を語っていた。


 あの時は冗談のような話だったが、今となっては冗談にならなくなってしまっている。

 その話を聞き、一人の男に大人達の視線が集まった。


 モーガンが。

 マーガレットが。

 ルシアが。

 フィルディナンドが。

 ジョアンヌが。

 アンディが。

 カレンが。

 オリバーが。

 アデラが。


 ――ランドルフを見る。


「な、なにかな?」


 一斉に見られたランドルフはたじろぐ。

 見るとすれば、アイザックのはずである。

 彼にはここで視線を集める理由に身に覚えがなかった。

 そんな彼に、ルシアがポツリと呟く。


「血筋ね」


 かつてランドルフはルシアを妻にすると決めたあとも、他の女の子達に優しく接していた。

 そのせいで、女の子達は「私を婚約者に選んでくれるのかも」と期待してしまった。

 ルシアと婚約すると決まった時には、そこそこの規模の騒動になったものだ。


 アイザックもランドルフと同じ。

 女の子に優しく接し過ぎてしまい、相手を本気にさせてしまった。

 当時の事を知る者は、親子揃って似た者同士だとしか思えなかった。


「わ、私の時はハンカチを受け取ったりはしていなかった。……ドラゴンの対処など命じられなかったからだけど」


 周囲の視線の意味を察したランドルフは「自分はアイザックとは違う」と否定する。

 それでも、アイザックの行動をフォローしてやろうとしていたのは、親としてのささやかな優しさだった。

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