第338話 気球のお披露目会
気球の飛び込み事件から三日。
修理された気球を改めてお披露目する事となった。
場所は王宮の広場。
今回はリード王国の重鎮や使節団だけではなく、ジェイソンと彼から話を聞いたパメラも参加していた。
ジェイソンは王太子であるし、パメラは未来の王太子妃。
公式の行事ではあるが、二人は特別に呼ばれていた。
それをアイザックは――
(嫌だなぁ……。今回に限って失敗したらどうしよう……)
――と思うだけだった。
なにしろパメラの前である。
ジェイソンはどうでもいいにしても、彼女の前で無様を晒したくない。
上手くいってくれと願うばかりだった。
「アイザック、君は本当に面白い発想をするんだね」
ジェイソンがアイザックに話しかけてくる。
その姿はフレンドリーで、ニコルの影響を受けているとは思えないものだった。
「やぁ、ジェイソン。新しい事を試そうとしたら酷い事になったよ。陛下にも醜態を晒してしまった。恥ずかしい限りだ」
アイザックもジェイソンに合わせて、フレンドリーな態度を取る。
他国の使節団も来ているのだ。
表立って嫌っているとアピールする必要はない。
それよりも二人の仲が良いとアピールする事で、他国の油断を誘った方が有用だ。
警戒されていては、リード王国内の動向を必要以上に探られてしまうかもしれない。
表面上は波風立たせないのがアイザックにとって無難な選択だったので我慢する。
「不運にも気球が会議室に飛び込んだそうですわね。その責任を命をもって取ろうとされたとか……」
パメラが心配そうな表情で、アイザックに真偽を尋ねる。
なにか探りを入れているかのような雰囲気もあったが、アイザックは「どうしてそこまで責任を取ろうとするの?」と疑問に思っているのだろうと考えた。
祖母に言われたように、アイザックはウェルロッド侯爵家の貴重な跡取り息子だ。
家の存続を重要視する貴族らしくない行動だったと思っているのだろう。
だから、アイザックは貴族らしい事を答えようとする。
「王国貴族として当然の事をしたまでです。陛下だけではなく、他国の使節団まで危険に晒した。公爵としての特権を活用して言い逃れをすれば、命を懸けずとも許されていたかもしれません。ですが、公爵がそのような振る舞いをすれば王国の威信に関わります。自分から処罰を願い出るのが、リード王国のためになると思っての行動でした」
――マーガレットに言われた事は覚えているが、それはそれ。
アイザックは、パメラの前で格好をつける事を優先した。
貴族としての意識を持ち、王国のために行動していると見栄を張ったのだ。
そのおかげか、パメラの表情が陰り、より一層心配そうなものへと変わる。
探りを入れるような気配も弱まった。
「それは立派な心掛けだと思いますけど……。私としては無茶のし過ぎだと言いたいところですね。若くして死んでしまっては、両親を悲しませるだけではありませんか。死んでしまってから後悔しても遅いのですよ」
彼女はアイザックの行動を、軽率だと非難した。
(やっぱり、そう言われるのか……。でも、パメラも俺の事を心配してくれてるって事だし、これはこれでありだな)
だが、アイザックはへこたれなかった。
マーガレットやブリジットのように、パメラも自分の事を心配してくれているからこその苦言だと思ったからだ。
なにも感じるもののない相手ならば「大変でしたね」で終わっていただろう。
こんな形でしか、彼女の気持ちに触れられないもどかしさがたまらなく辛い。
「そうですね。確かに死んでしまってから後悔しても遅い。今後は弁解するように努めます」
アイザックは、祖母やブリジットにも答えたような内容をパメラにも言った。
「フフフッ、君は豪胆な男だね。けど、それが結果を残せる秘訣なのかもしれないね」
アイザック本人は助かる計算を立てていた上での行動だったので危機感が薄い。
それが他人事のような態度を生む原因となっていた。
そして、その態度がジェイソンに「アイザックはランドルフに負けないほど肝が据わった男だ」と評価させる事になった。
口を挟んできて目障りだったが、パメラと二人っきりで話しているわけではないので仕方がない。
「実行を躊躇わないというのが大切なのでしょう。……気球のアイデアを思いつく事ができるという前提が必要ですけど。確か、アイザックさんは鉄道も提案されていたとか。次々と新しいアイデアを思いつくコツでもあるのでしょうか?」
またパメラの探るような気配が強まった。
(この世界の技術レベルを超えたものだ。俺一人で考えたものだなんて想像できないんだろう。きっとピストのような人間を集めた頭脳集団がアイデアを出していると思っているんだろうな)
彼女は未来の王太子妃というだけではなく、ウィンザー侯爵家の女でもある。
他家のシンクタンクが、どの程度のレベルなのかは気になるはずだ。
純粋な好奇心から、という理由もあるかもしれない。
「ならば、自分が考えたと答えればどう思うだろうか?」とアイザックは考える。
ひょっとすると、彼女の好感度も上がるかもしれない。
「最初はちょっとした疑問ですよ。煙が立ち上っていたのを見て、暖かい空気は空へ向かおうとするのではないか? 階段の手すりで滑っている時に、滑らかな面は重いものも運びやすくしているのではないか? そう思いました。疑問を解決する方法を考えていった結果、気球や鉄道という形になったんです。疑問を理論付け、その理論を実験で確かめる段階にまで発展させた。それだけですよ」
「そこまで考えられるなんて素晴らしいですね」
アイザックは特に中身がないものの、なんだか凄いと思われそうな答え方をした。
しかし、残念な事にパメラの気は引けなかったようだ。
言葉とは裏腹に、彼女から探るような気配が消え去ってしまった。
それが「自分への興味を失わせてしまったのではないか?」とアイザックを焦らせてしまう。
(気取った答えが悪かったのか? わかりやすい答えの方がよかったのか? ミスったな……。選択肢があれば、選択肢があれば俺だって正解を答えられたのに……)
これが恋愛ゲームであれば、出てきた選択肢を選ぶだけでいい。
大体、正解だと思われる選択肢は限られるからだ。
だが、現実では選択肢など出てこない。
もう一つの選択として浮かんだわかりやすい答えではなく、他の答え方をしなければならなかったのかもしれない。
前世での恋愛経験がないせいで、こういう時にどう答えればいいのかさっぱりわからない。
こういう時こそ疑問を理論付けていかなければならないのだが、アイザックの頭の中は真っ白になっていた。
「お話し中失礼いたします。ドワーフの皆様から早く始めたいという要望がございましたので、気球に火を入れ始めるところです。見学席にお着きください」
「わかった。いこう」
アイザックがフリーズしていたところ、文官がお披露目会の開催を告げにきた。
彼にジェイソンが答えると、三人は見学席に向かう。
見学席に近付くと、レイモンド達がドワーフと共に気球を上げる準備をしているのが見えた。
今回はちゃんとロープも繋げているので安心だ。
アイザックはジェイソン達と別れ、彼らのもとへ向かった。
「任せっきりですまないね」
「それはいいよ。……ものすごく緊張するけど」
アイザックが声をかけるとポールが答えた。
周囲では手の空いている者達が見学に来ている。
大臣クラスも大勢見に来ているので、学生の身には重過ぎるプレッシャーを感じていた。
それはポールだけではなく、他の者達も同様だった。
男爵位を持つカイも変わりはない。
男爵になったとはいえ、学生なので政治的な活動はまだ何もしていないからだ。
「何を言っておる。すでに成功しているのだから緊張する必要などない。むしろ、やり甲斐を感じるべきだ」
手伝っていたドワーフが口を挟んでくる。
緊張の原因の一つに、ドワーフとの共同作業というものが含まれているというのにだ。
だが、彼らには気にする様子はない。
楽しそうに気球の周りを取り囲んでいる。
「そうですよね。政府の要人くらいしかこうしてドワーフの皆さんと話す機会がない。なのに、こうして一緒に作業ができる。その事を楽しもうくらいに考えておけばいいんじゃないかな」
アイザックはそう言い残し、あとは彼らに任せて去っていった。
友人達は「やっぱりアイザックは大物だな」と、その神経の図太さに感心する。
アイザックに割り当てられた見学席はエリアスの隣だ。
エリアスの反対側には王妃のジェシカやジェイソン、パメラが座っている。
アイザックの隣にはヴィリーが座っており、その向こうにエドモンドとロレッタが座る。
アイザックとしては、思わず「チェンジ」と言いたくなる場所だった。
席に着くと、ヴィリーが話しかけてきた。
「エンフィールド公、気球というものは調べれば調べるほど面白いですな。空を飛ぶというのに、あまりにもシンプルな作り。いや、だからこそ飛ぶのかもしれません。形もいい。私が作れば暖かい空気を受け止めやすいように傘のような形にしていたでしょう。ですが、このたまねぎをひっくり返したような形だからこそ、空気が漏れる事もなく中に留める事ができます。最初から理想形のものを作られるとは、噂通りのお方ですな」
ヴィリーが興奮した口調で話しかけてくる。
「アイザックは最初から理想形の品物を持ってくる」とは噂で聞いていた。
だが、自分ならどうしたかを考えれば考えるほど、アイザックの発想力には驚きしかなかった。
まるで最初から知っているかのように完成形の物を出してくるのだ。
どのような思考をしているのか徹夜で語り明かしてみたいくらいだった。
「ジークハルトから聞いているのかもしれませんが、誇張されているかもしれませんので、いくらか割り引いて考えてください」
「いえいえ、謙遜される必要はございません。あのハトメというものがエンフィールド公の実力の証拠です。出来の悪い者ならば気球を作る事だけに夢中で、土台となる基礎技術を軽んじるところ。バネやネジという物作りの土台として必要なものを見抜いて作る慧眼。お見事です」
「お、お褒めいただき、ありがとうございます」
興奮して顔をズイッと近付けてくるヴィリーに、アイザックは引き気味だった。
(気球を作ってからロクな目に遭わないな……)
――おっさん連中に囲まれ、挙句の果てに鼻息を顔にかけられている。
喜ばれるのは嬉しいが、アイザックには厄日にしか思えなかった。
せめてパメラやロレッタ――いや、ジェイソンの隣でもマシだったのにと考えずにいられない。
だが、興奮していたのはヴィリーだけではなかった。
「ヴィリー殿。この程度の事で驚いていては体が持ちませぬぞ。エンフィールド公なら、これからもあっと驚くものを考えつくでしょう」
「それは楽しみです」
(おぃぃぃ、無駄にハードルを上げるんじゃない! やっぱりこいつはジェイソンの親父だな)
突然の無茶振りにアイザックは引きつった笑いを浮かべる。
これ以上のものとなると飛行機くらいだが、航空力学など学んだ事がない。
ドワーフになんとかしてくれと泣きつくにしても限度があるだろう。
学生の間に、前世の友達と鳥人間コンテストにでも挑戦しておけばよかったと後悔する。
「空を飛ぶ道具という事で我々も期待しています。魔法でも空は飛べませんからな」
エドモンドも話に入ってきた。
風の魔法で少し浮かぶくらいはできるが、自由に空を飛んだりはできない。
それができるというのなら、時代が一気に変わるような予感を彼は持っていた。
その瞬間に立ち会えるのだから、この間の騒動など気にならない。
「ドワーフの魔力タンクを使って炎を出せれば、魔法は気球の向かう方向を変えるために使うなど違う用途に使えるようになると思います。風向きを気にせずに遠方へ赴くという事もできるでしょう」
アイザックは気球のバーナーを思い浮かべた。
あれがあれば、搭乗したエルフの魔力を移動に使える。
ウェルロッドと王都の間も早く移動できるようになるかもしれない。
鉄道の普及は資源や人手の問題もあって時間がかかるので、航空移動の方が早く実用化される可能性もあった。
だが、アイザックの発言を聞き、ヴィリーが顔を曇らせる。
「魔力タンクを提供できればいいのですが……。あれは魔力を溜め込む事のできる性質を持つドラゴンの骨を使っておりましてな。ドラゴンの骨は時々地面から掘り起こされたもの以外は手に入りません。陛下への贈呈品である冷蔵庫も有用な品だとわかってはいるものの、量産できないのは骨の在庫がないからです。気球も有用なものでしょうが、魔力タンクを所有している者が提供してくれるかどうか……」
どうやらアイザックの言葉を、彼は魔力タンクを要求していると受け取ったらしい。
その希少性から簡単には提供できないと、申し訳なさそうに断る。
「ドラゴンの骨ですか……」
エルフやドワーフ以外のファンタジー要素に触れ、アイザックは「そんなのいたな」と思い出す。
ドラゴンは成体で全長二十メートルから五十メートルはあるという化け物だ。
「一狩りいこうぜ」と言って、四人で気楽に狩りにいける相手ではないし、アイザックも超人ではない。
五十メートル級のドラゴンをエルフが百人がかりで戦って、多大な犠牲を払いつつようやく追い払ったとかいう逸話を持つくらいだ。
巨体で飛ぶのだから、体に魔力が流れていて魔法への抵抗力を持っていたりするのかもしれない。
そんな化け物の骨だからこそ、魔力タンクの素材として使えるのだろう。
「珍しいものですが、人間の国でも出土しているかもしれません。何に使うのか勘繰られないようにこっそり買い集めるとかできるかもしれませんね」
アイザックはヴィリーにではなく、エリアスに話しかける。
遠回しに「買って」とおねだりしているようなものだ。
ドワーフの国では貴重な素材でも、人間の国ではただのコレクション扱いにされているかもしれない。
欲しがっていると足元を見られないよう、こっそり買い集めれば安く買えるだろう。
ついでにリード王国の財政にちょっとしたダメージを与えられる。
塵も積もれば山となるの精神だ。
「エンフィールド公の意見には一考の余地がある。まずは売りに出されているか調べてみるべきだろう」
エリアスは前向きに検討する姿勢を見せた。
即答を避けたのは、色々と出費が重なっているからだ。
特にロックウェル王国との戦争で満足な褒美を出せなかった事がエリアスには辛かった。
アイザックが地道に王国の財政を削った効果はあったが、論功行賞のせいでエリアスに危機感を抱かせてしまっていた。
エリアスも「うん、いいよ」と答えたいところだったものの、国王としての立場が一歩踏み込むのをとどまらせた。
「そうそう。ドラゴンといえば、ここ数年我が国の南部の街を定期的に襲って装飾品などを奪っていくという被害が起きています。人的被害も大きく、非常に困っておりました。エンフィールド公ならば、良い解決策を思いつかれたり……しませんか?」
ヴィリーが上目遣いでアイザックを見る。
アイザックの心中は、ドラゴンの襲撃の解決策よりも「いい年したおっさんがそんな目で見るな」という思いでいっぱいだった。
しかし、無視するわけにもいかない。
丁重に断る事にした。
「さすがに無理でしょう。言葉も通じない、魔法も通じない。そんな相手に僕ではどうしようもありませんよ」
――説得もできない。
――退治もできない。
――そんな化け物を相手にする方法もない。
ゲーム感覚で狩れる相手ではないのだ。
今でも十分なくらい味方になってくれそうな気配がある。
無理をしてドワーフを助ける理由はない。
ドラゴンの事は天災にでも遭ったと思って諦めてもらうしかなかった。
「おや、アイザックは知らないのか? ドラゴンは話せるぞ」
――ここでジェイソンから横槍が入る。
「てっ……」
「てめえ、なに言ってやがる!」と叫びそうになったが、アイザックはギリギリのところで我慢する。
(くそっ! 決闘騒ぎ以来大人しいと思っていたら、こんなところで邪魔してきやがって!)
ジェイソンの外面はいい。
優しそうに微笑むだけで内面の事を忘れてしまいそうになるくらいに。
だが、被害を受ける者にとっては、破滅へと導く悪魔の微笑みでしかない。
先ほどはフレンドリーな態度だっただけに、アイザックも油断してしまっていた。
腹に一物を抱えているのは、アイザックだけではないのだから。
「そうなのです。ドラゴンはただの空飛ぶトカゲではありません。言葉が通じるのです。そこが腹立たしいところで『今度はもっといいものを作っておけ』と言い残して去っていくそうです。あれならばカラスの方がものを言わぬだけマシというもの。いかがでしょう、言葉が通じる相手ならばどうにかなりませぬか?」
ヴィリーがグイグイと押してくる。
長年悩まされたドラゴン問題を人間の手助けで解決できれば、両国の友好もグッと深まる。
何よりも、鬱陶しいドラゴンを大人しくさせる事が大きい。
ドラゴンがいなければ、南部の都市は生産活動に専念できる。
そうすれば取引量が増え、リード王国にとっても利益になるはずだ。
どちらにとっても悪い話ではない。
――話を持ち込まれたアイザック以外は。
「さすがに――」
「アイザックならできますよ。誰にも不可能だと思われていた事を成してきた男です。エルフやドワーフとの交流を再開できたのもアイザックのおかげ。きっとドラゴンとも上手くやるでしょう」
アイザックが断ろうとする前に、ジェイソンが口を挟む。
(こいつ……。どれだけニコルから俺を引き離したいんだよ!)
すぐにその理由に見当がついた。
アイザックがニコルに「君を守る」と言ったのがジェイソンの耳にも入っていたのだろう。
だが、決闘騒ぎの一件があるので、直接アイザックに何かをする事はできない。
そこで、このドラゴンの一件を利用して遠くへ追いやる。
もしくは、ドラゴンに亡き者にされればいいと思って賛同しているのだろう。
(だが無駄だ。俺にはお前の無茶振りを断る権利があるからな)
「確かにエンフィールド公なら可能だろう。隣人として助けるべきだと私も思う」
「陛下!?」
アイザックがジェイソンの企みを潰す方法について考えている間に、エリアスがジェイソンの意見に賛同してしまった。
これでは断りにくくなる。
「どうした? 何か問題でもあるか?」
(大ありだよ!)
エリアスは「アイザックなら、ドラゴン相手でもきっとやり遂げる。箔をつけさせてやろう」と考えていただけだが、アイザックにはジェイソンと共謀して亡き者にしようとしているようにしか思えなかった。
「学校もありますし、卒業するまでお待ちいただけませんか?」
命が懸っているので、アイザックはなんとか断ろうとする。
せめて、二年後になればうやむやにできるはず。
そう思って、卒業までの時間を稼ごうとする。
「何を言っている。こうしている間にもドワーフが襲われているかもしれん。解決は早い方がいいだろう。それに、学校の成績は常に百点満点だと聞いている。少しくらい休んでも問題はないだろう。そもそも、学校の成績を気にしなくてもいい実績もあるしな。長い夏休みだと思えばいいだろう」
(あぁ、俺の馬鹿!)
面子を守るために成績優秀者であり続けた事が裏目に出てしまった。
こんな事になるとわかっていれば、適度に手を抜いていただろう。
「何か断る理由があるのなら仕方ないが……。何かあるのか?」
「……いえ、ありません」
(あるけど言えるかよ)
――お前の馬鹿息子の足をすくって国を奪う準備をするためです。
(そんな事を正直に答えられる度胸があったら、とっくに俺は天下を取ってるよ)
他にも「死にたくありません」という立派な理由があったが、人前で臆病な姿は見せられない。
ありませんと答えるしかなかった。
「試していただくだけで結構です。エンフィールド公が怪我をするような危険な真似を望んでいるわけではございません。上手くいかずとも、我らは深く感謝致します」
そう言われてしまっては、ドワーフとの友好が欲しいアイザックには断れなくなってしまう。
どうせやるなら、リード王国にではなく、アイザック個人への感謝にすり替えなくてはならない。
(でも、嫌だなぁ……。なんで俺、気球なんて作ったんだろ……)
気球が浮かび上がり、皆がドッと沸き上がる。
それに反して、アイザックの気分はどん底へと沈みこんでしまっていた。
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