第221話 託された元帥杖
ロックウェル王国軍を国境まで見送る事になった。
ソーニクロフト侯爵家が集めた民兵は先に帰し、ウォリック・ウィルメンテ侯爵家の軍が合流したので今は八万の兵がいる。
ロックウェル王国六万の軍勢を、八万の軍勢が見送る姿は壮観だった。
だが、道中における住民の反応は「もう来るな」と、睨みながら遠巻きに見ているというものだった。
ロックウェル王国に襲われた村々は、種籾まで持っていかれている。
春の収穫を持っていかれただけではなく、秋の収穫のために種を蒔く事もできなかった。
領主が支援してくれなければ、餓死者が続出するだろうから当然の感情なのかもしれない。
この見送りでは、フィッツジェラルド元帥達が中心となって見張り役を買って出た。
少しでも戦争の役に立ったという事実が欲しかったのだろう。
ウェルロッド侯爵家とランカスター伯爵家は後方を付いていくだけでよかった。
両家とも手柄は十分に立てていたので、喜んで見張り役を譲った。
アイザックに「安全な後方にいろ」という命令が出ていた事も影響していた。
この道中にエルフの治療班は参加していない。
戦争が終わったという事もあり、アスキスでバリケードの撤去や家を建て直す手伝いをしてくれている。
同行しているのは、クロードとマチアスの二人だけだ。
またアイザックが致命傷を負ってはたまらないので、念の為についてきていた。
一行がメナスに到着した時、一番激しく肩を落としたのは包囲していた部隊の指揮官ではなかった。
――メナス公爵だ。
目の前にいる四万の軍勢。
それは、
だから、いつも通り耐えて援軍を待ち、いつも通り追い返す。
それでいいと思って要塞都市に籠っていた。
だが、目の前の敵は急遽集めて数を水増しされた烏合の衆。
肝心の戦いに参加できず、精兵を街に閉じ込めていただけという結果になってしまったからだ。
ヘクターから使者が送られてきた時、メナス公爵は己のミスに気付いた。
だが、使者が到着した時には、戦争の趨勢が決まってしまっていた。
今更行動する事の意味を見いだせなかったので、最後まで街に閉じこもったままで終戦を迎える。
彼の行動は普段通りの戦争であれば間違ってはいなかった。
だが、今回の戦争は特殊過ぎた。
誰にもその行動を非難されたりはしなかったが、本人がロックウェル王国軍の戦略に対応できなかった事を一番悔やんでいた。
そんなメナス公爵を、フィッツジェラルド元帥達が慰める。
――従来の常識を覆す戦争。
そのせいで出番がなかったのはメナス公爵だけではない。
彼らも今回の戦争に間に合わなかった者達。
愚痴で話がよく弾んだ。
一方、ロックウェル王国側はお通夜のような雰囲気だった。
――勝利を信じて送り出した部隊が、武装解除されて護送されてきた。
メナスを包囲していた部隊は、ギャレット達と合流した時点で完全に戦意を喪失した。
元々戦うための訓練をやっていない部隊だ。
戦闘訓練を受けた部隊が敵わなかった相手に勝てるはずがない。
彼らも大人しく武装解除を受け入れた。
問題は起きず、物事は全て順調に進んでいた。
あとは国境を越えて去っていくのを見守るだけ。
そんな時、アイザックのもとにフェリクスがやってきた。
「君に受け取ってほしい物がある」
そう言って彼が差し出したのは、フォード元帥が持っていた元帥杖だった。
「……次に元帥になられる方に必要なのではありませんか?」
どういう意図で渡そうとしているのかわからないので、アイザックは疑問をぶつける。
素直に受け取って、下手な借りを作るわけにはいかなかった。
受け取るのは彼が何を考えているのかを知ってからでも遅くはない。
「おそらく、ダッジ将軍が次の元帥になられるだろうとは思う。その時には新しい元帥杖が作られる。この杖はただの形見でしかない。だから、そう警戒しないでくれ。陛下も君に渡してもいいと許可を出してくださった」
アイザックに渡すために、ギャレットの許可まで得ているようだ。
だが、だからといってあっさり受け取るわけにはいかない。
モーガンに尋ねたかったが、彼はギャレットと話をしに行っている。
そこでアイザックは、もう一人の祖父に頼る事にした。
「ちょっとお待ちを。……お爺様、ロックウェル王国に『仇に形見を渡して決闘の誓いにする』とかいう風習はありますか?」
マット達と共に、アイザックの近くで守ってくれているハリファックス子爵に話しかける。
この事は、絶対確認しておかねばならなかった。
「形見の品を受け取ったから、今度決闘しろよ」と言われたりしたらたまらない。
他国の風習まではわからないので、年長者に意見を求めた。
「いや、そういう風習があるとは聞いた事はないな。この場合、理由を尋ねても失礼にはならん。本人に聞いてみた方がいいのではないかな?」
しかし、アイザックの心配は杞憂だったようだ。
だが、そうなると理由がわからない。
ハリファックス子爵が言うように、本人に尋ねた方がよさそうだった。
「フェリクスさん、なぜ僕に元帥杖を渡そうと思われたのですか? 形見の品ですよね?」
「確かに形見の品だ。でも、君に持っていてほしいんだ。曽お爺様を倒した君に……」
「えっと、その……。いつか取り返しに行くためとかの理由だったら、お断りしたいのですが」
「そういう思いも少しはある」
フェリクスはフッと軽く笑った。
「でも、それ以上強く君に期待している気持ちもあるんだ」
「期待?」
「そうだ。曽お爺様や母上をつまらない男に討ち取られたとしたら、それは悲しい事だ。でも、きっと君なら『アイザック・ウェルロッドになら負けても仕方がなかった』と言われるような立派な男になってくれると思う」
(えっ、何それ。重すぎ……)
フェリクスの言葉に、アイザックは期待の重さを感じる。
できれば、丁重にお断りしたいところだった。
「だから、これを受け取ってほしかったんだ。いつか私も君に並ぶ男になるというわかりやすい目標を持つためにね。もちろん、ビクター・フォードを討ち取った証拠の品を持っている事は、君にとっても損ではないはずだ。どうだろう? 受け取ってくれないだろうか? これからは、目標でもないと生きていくのも厳しくなりそうなのでね……」
「そうですか……」
アイザックは、ジッとフェリクスが持っている元帥杖を見る。
正直なところ、少しは欲しいと思っている。
装飾は立派だし、自分が手柄を立てたという証拠にもなるからだ。
ルシアやケンドラに見せてやりたいという気持ちもある。
(でもなぁ……。フォード元帥が死ぬわ、俺も死に掛けるわで呪われているようにしか思えないんだよなぁ……)
こうしてフェリクスが渡そうとしてくるのも「持ち主のもとに戻ってくる人形」のように、杖に呪いが掛かっているからのように思えてきてしまう。
だが、アイザックは「ダッジ将軍には何も起きなかったので、ちょっと縁起が悪いだけだ」と考え始める。
マットの時のように、呪いの不気味な威圧感も何も感じないというのが決め手だった。
「……わかりました。ですが、僕は文官になるつもりです。戦場で戦う機会はないと思ってくださいね」
「残念ではあるが、かまわない。殺されそうになったにもかかわらず、君はトムの死体に敬意を表そうとしたという噂を聞いた。策謀に長けている者にしては珍しく勇士に対する敬意を持っている。そんな人にこの杖を持っていてほしいというのが本音だ」
フェリクスが笑顔で差し出してくるので、アイザックはフォード元帥の杖をうやうやしく受け取った。
呪いの装備だと思っているとはいえ、一応は立派な杖である。
持っていれば、それなりに見栄えが良い。
「縁起が悪い」と思ったのでダッジ将軍をハメるために使ったが、タダでくれるというのなら意地になって断る理由もない。
(それに、曽爺ちゃんの鎧の方が悪かったっていう線もある。杖単体ではあんまり悪くないのかも)
――ジュードの鎧とフォード元帥の元帥杖。
その相乗効果によって、殺されかけるという不幸な目に遭ったのかもしれない。
アイザックは、普段ならばこんなに縁起を気にしたりはしない。
死に掛けたせいで、アイザックは少しだけ縁起というものを気にするようになっていた。
とはいえ、負傷した時から時間が経った事により、アイザックは杖を受け入れられる程度には心に余裕を持てるようになっている。
それに――
本当に呪われていたとしても、屋敷に置いておけば問題はないはずだ。
――と思ったから、フェリクスから杖を受け取る事にした。
それに、一度クロードに頼んで見てもらえばいい。
本当に呪われているのであれば、お祓いをしてもらうだけだ。
「フェリクスさん、あなたが望むような男になれるかはわかりません。ですが、フォード元帥に勝った者として恥ずかしくないよう、大きな男になれるよう努力します」
「ありがとう。私も君に負けないよう努力するよ」
フェリクスがフフフと笑い、手を差し出した。
どうやらトム達の遺髪や遺品を渡した事で、フェリクスの心証が大きく変わったようだ。
初めて顔を合わせた時には考えられない表情だった。
やはり、印象というものは大事なのだろう。
特にアイザックは最低評価だったので、上がる時はグンと上がる。
あれほど強い殺意を籠めた視線でアイザックを見ていたのに、今では握手を求めるほどになっている。
嫌われるよりは気分がいいので、アイザックは笑顔でその手を握った。
「また会おう」
「戦場以外でなら歓迎しますよ」
フェリクスの言葉をアイザックは軽く受け流した。
苦笑を浮かべながら、フェリクスは去っていく。
話していた二人の姿を、クロードとマチアスが少し離れたところでずっと眺めていた。
「クロード、よく見ておけ。ワシはリード王国の建国を始まりから見ていた。お前はアイザックが何をするのかを見ておけ。おそらく、あやつは新しい時代を築くような傑物だ。アイザックの行動を身近で見て、後世に語り継いでやれ」
「ああ、わかってるよ」
アイザックは、まだ子供だ。
だが、その行動は周囲に多大な影響を与えている。
こんな面白い人間と同じ時代を生きる事ができた事を、クロードは神に感謝していた。
マチアスに言われるまでもなく、アイザックの生き様を目に焼き付けるつもりだ。
今見たフェリクスとのやり取りも、いつか村の子供達に話してやりたいと思っている。
森の中での暮らしに不満はなかったが、こうして刺激的な環境に身を置くと、やはり物足りない生活だったと感じられる。
「これから先、アイザックはどんな事をするのだろうか」と思うと、クロードは楽しみで仕方がなかった。
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王都アスキスに戻ったのは八月中旬。
十万を超える軍隊が、国境まで行って戻るだけでも時間がかかる。
移動だけで一ヵ月以上かかってしまった。
アスキスでは歓迎の準備が整っていた。
街の近くでは街道沿いに住民が集まり、兵士達に感謝の言葉を投げかけた。
宿営地に着くと、大量の食事が用意されていた。
この一ヵ月で流通が再開したのだろう。
肉や野菜などもふんだんに使われていた。
だが、これは序の口に過ぎない。
夕食は城で用意されている。
戦勝記念パーティーに参加するのは、アイザックにとって初めての経験である。
「どれだけ豪華な料理が出るんだろう」と楽しみにしていた。
昼食を済ませると、パーティーに出席する準備を始める。
お湯で濡らしたタオルを使って体を拭く。
(早く家に帰って、ゆっくり風呂に入りたいな……)
細菌の存在は知られていないが「体を汚くしていると怪我をした時に傷口が腐る」という事は知られている。
そのため、アイザックも普段から体を綺麗にしていた。
だが、湯船に浸かったり、お湯を頭から浴びたりするのとは気分が違う。
戦争が長引いたりせず、本当に協定記念日までには帰れそうな状況を喜んでいた。
体を綺麗にしたら、次は宮廷服に着替える。
「戦争だったから」といって、鎧下の衣服のままパーティーに出席するわけにはいかない。
こういう時は、貴族という立場が面倒に思えた。
ノーマン、マット、トミーの三人もパーティーに同行する。
本来ならば彼らは別室で待機となるのだが、アイザックが未成年者という事もあり、ノーマンの同行が特別に許された。
マットとトミーの出席は、ファーティル王国側からの強い希望によるもの。
フォード元帥とシャーリーンを討ち取った功労者達と、ファーティル王国の貴族達が会いたがったからだ。
彼らは鎧下の着替えしか持ってきていないので、王宮からサイズが合いそうな服が送り届けられていた。
「アイザック様の補佐をするためとはいえ、私が出席するのは気が引けますね……」
着替え終わって、皆が集まった時にノーマンが弱気な事を口にした。
――アイザックは勝利に多大な貢献を果たし、マット達は敵将を討ち取った。
――なのに、自分は何もしていない。
戦勝記念のパーティーに出席するのが場違いのように思えてしまったからだ。
「何言ってるんだ。武官は何か起こった時に対応するのが仕事。文官は何も起きないようにするのが仕事。何かが起きて文官の目立つ機会がある方が問題だよ」
アイザックがノーマンをフォローする。
この戦争で一番頑張ったのはランドルフの部下だが、ノーマンも彼らを手伝って、物事が滞りなく進むように頑張ってくれていた。
武官が活躍する土台を作っていたとも言える。
目立つかどうかの違いだけで、ノーマンのような文官がいるから戦争で勝てたのだ。
これはただの慰めの言葉ではなく、嘘偽りのない言葉だった。
「パーティーではフォローを期待しているよ」
「はい、アイザック様」
アイザックの言葉で、ノーマンは気を取り直す。
武官が「矢の残りは? 食料は?」と心配せず、戦う事に専念できるようにするのが自分の仕事。
最低限の事はやっていたと思い、自分を卑下する事をやめた。
とはいえ、やはり「敵将を討ち取る」という活躍は、一人の男として羨ましくて仕方がなかったが。
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アスキスの門の前で、ソーニクロフト侯爵の出迎えを受ける。
外務大臣であるグレンヴィル伯爵が急遽解任されたため、モーガンと縁戚にある彼が臨時で接待役を任されたのだ。
街の中にあったバリケードはエルフ達の魔法によって撤去された。
門のところから王宮まで騎乗したままゆっくりと移動する。
――ゆっくりと移動する理由。
それは、沿道にいる住民に姿を見せるためだった。
称賛の声に応えて笑顔で手を振ったりしてやると、彼らの声がさらに大きくなる。
特にアイザックには、若い女性から黄色い歓声が投げ掛けられた。
――若く、美形で、頭も良い。
――しかも、噂とは違って優しそうな顔立ちをしている。
女性人気を一人占めしているような気分になり、アイザックは上機嫌だった。
一方、ランドルフには男のファンが付いたようだ。
――侯爵家の後継者であるにもかかわらず、敵将を自らの槍で討ち取った。
その剛勇振りに惚れ込んだのだろう。
ランドルフの名を叫ぶ野太い声がよく聞こえた。
アイザックは、心の中で「おっさんに人気がなくてよかった」と安心していた。
だが、それも今だけの事だった。
王宮に着くと、大広間でヘクターから感謝の言葉を述べられた。
モーガンやフィッツジェラルド元帥が、祝いの言葉を返すなどの儀礼に則った式典のようなものが続く。
アイザックは「暇だな」と思いつつも、黙って目の前の終わるのを待った。
あくびが出そうになった頃になって、ようやくつまらないやり取りが終わる。
内容は「援軍への感謝」と「お礼」についてを、小難しい喋り方で話し合っていただけだった。
式典が終わると、庭園でパーティーが開かれた。
夕食ではなく、交流をメインとしたお茶会のような内容だ。
「若いのに、すでにフォード元帥を上回る実力を持っておられるとは。すでに大陸一の知恵者ですな」
「まだ娘は十歳ですが、美しく育っております。第二夫人や第三夫人でもいいので、いかがでしょうか?」
「実は息子が将軍を目指しておりまして、アイザック様のもとで学ぶ機会をいただけると助かります」
そこでアイザックは、
――おべっかを使う者。
――娘を婚約者として売り込もうとする者。
――息子を部下にしてもらおうとする者。
何らかの思惑を持って皆がアイザックに近付いてくる。
彼らの言葉に「まだ子供なので、僕には決める事ができません。お爺様に聞いていただけますか?」と、アイザックは答える。
本当は自分で断った方がいいのだろうが、今はモーガンやランドルフがいる。
保護者同伴の状況なら、自分の口から断るよりはモーガンの口から断った方がかどが立たないと思っての返答だった。
……ただ面倒事を押し付けているだけではないはずである。
アイザックが「ちょっと面倒になってきた。誰か助けてくれそうな人はいるかな?」と思ったが、残念ながら誰も助けてくれそうな者はいなかった。
最初はハリファックス子爵も「いきなりそういう話を持ち込まれては、アイザック様も困るでしょう」と庇っていてくれたが、アイザックを褒める言葉に気分を良くして談笑している。
マットは婚約者の話を持ち込まれて戸惑っているようだ。
ノーマンとトミーは、第二夫人の話を持ち込まれている。
彼らもアイザックを助けられそうな状態ではなかった。
かつてロックウェル王国軍を包囲したアイザック達が、今ではファーティル王国の貴族達に取り囲まれ身動きできなくなっていた。
少しだけ囲まれる恐怖が理解できたような気がした。
しかし、救いの手は意外なところから差し伸べられた。
アイザックの前の人だかりが一斉に割れる。
その先にはヘクターが立っていた。
彼の隣にはモーガンとドレスを着た少女もいる。
「大変そうだな」
「いえ、そのような事はありません。皆さんの感謝の気持ちがよく伝わってきて嬉しく思っていたところです」
ヘクターの問いかけに、アイザックは笑顔で答えた。
「そなたに紹介したい者がいるのだ」
アイザックは「この子だろうな」と、ヘクターの横にいる少女に視線を移す。
年は同じくらい。
だが、十歳式の時のジュディスのように髪で顔の左半分を隠しているのが気になった。
ヘクターも少女に視線を移す。
「この子は孫娘のロレッタだ。今年で十三になる」
「ロレッタ様、お初にお目にかかります。ウェルロッド侯爵家ランドルフの息子、アイザックと申します」
「はじめまして、ファーティル王女のロレッタです」
ロレッタはジュディスとは違い、ハッキリとした声で挨拶をする。
しかし、その目はアイザックと話すのを嫌がっているように見えた。
「どうだ、可愛い娘だろう?」
「はい、お美しい方だと思います」
アイザックの返事を聞いて、ヘクターは満足そうにうなずく。
だが、ロレッタは露骨に顔を歪めていく。
「この子は、この年になっても婚約者が決まっていない。良い相手がいればいいのだがな……。ロレッタと結婚した者は、二代後の国王になれるというのに」
(このおっさん、露骨過ぎんだろ……)
アイザックは、ヘクターがわざわざ彼女を紹介しに来た理由を察した。
グレンヴィル伯爵の裏切りを見破った自分の事を高く評価しているというのもわかっている。
「婚約者がいないのなら、孫娘と結婚させよう」という意思が見て取れる。
アイザックがモーガンを咎めるような目で見る。
そういう雰囲気の話が出たところで止めておいてほしかったからだ。
だが、モーガンはすまなさそうな顔をするだけで、止めようとはしなかった。
――王族との婚約は名誉な事。
それが止められない理由だった。
完全にフリーなアイザックに婚約者を薦めて何が悪いというのか。
モーガンはリード王国の外務大臣でもある。
その立場が、やんわりと拒否する事すらできなくしていた。
彼はアイザックが適当な理由を付けて断ってくれる事を願っていた。
「あの――」
「お爺様、やめてください!」
アイザックが断ろうとしたところで、ロレッタが荒らげた声をあげる。
まさか、ロレッタの方から止めてくれるとはアイザックも思わなかった。
「まずは彼女の反応を見よう」と、このあと続く言葉を黙って聞こうとしていた。
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