第219話 王国正規軍の到着
アスキスに着いて二週間目。
アイザックはやる事がなく、暇を持て余していた。
日常の業務はランドルフやその部下が行い、アイザックは近くで見ているだけ。
動きがあるとすれば、リード王国からの援軍が到着するか、メナスからの使者が戻ってきた時だろう。
しかし、そんな状況でも忙しい者達がいた。
――商人だ。
彼らは補給物資を運ぶ馬車を貸し出してくれている。
だが、それだけではなかった。
物資を運ぶ輜重部隊に同行し、兵士向けの嗜好品を売りに来ていた。
焼き菓子や乾燥果物などを販売し、兵士達にささやかな安らぎを売っていた。
もちろん、リード王国の商人だけではない。
ファーティル王国の商人達も集まっていた。
彼らにとって、兵士達の財布は生命線だった。
戦争のせいでファーティル王国の流通は混乱している。
その損失を取り戻そうと必死になっていた。
ここで問題になったのが、兵士達への褒美だった。
大勝利を収めたので、働いた者達に褒美を与えないといけない。
何と言っても一万人もの敵兵を捕虜にしたのだ。
中には当然貴族出身の騎士もいる。
兵士達もそれ相応の褒美を期待していた。
だが、捕虜の身代金はかなりの高額になるが、さすがにロックウェル王国もそんな大金を戦場に持ち込んでいないはず。
そのため――
捕虜をファーティル王国に引き渡し、代わりに金銭を受け取る。
――という方法をランカスター伯爵が考えた。
そうする事で、兵士達に支払う報奨金を用意するつもりだった。
しかし、兵士に「お金が払えないので捕虜をファーティル王国に売ります」などとは口が裂けても言えない。
貴族としての体面があるからだ。
だから、ギャレットに捕虜の話題を持ち出す事で、自然とファーティル王国に引き渡す流れを作りたかった。
ギャレットの「捕虜をファーティル王国に引き渡しておいてほしい」という要請をランドルフがあっさりと受け入れたのは、望み通りの言葉を引き出せたからだった。
捕虜の値段に、謝礼の意味を込めてファーティル王国は色を付けてくれた。
国王であるヘクターやソーニクロフト侯爵からの印象がよかったからだ。
多めにもらった捕虜の代金は兵士達を喜ばせた。
多額の報酬は「演習だと思ったら実戦に駆り出された挙句、相手は精鋭部隊だった」などという不満を吹き飛ばした。
兵士達は勝利の喜びと、生き残った事に浮かれて財布の紐が緩む。
当然、商人達はこの機会を逃すまいと必死に売る。
リード王国軍の陣地周辺は、大規模な露天市場のような様相を呈していた。
一方、ロックウェル王国軍の状況は悲惨だった。
グレンヴィル伯爵の手紙を送ってから、目に見えて炊煙が減った。
食料を切り詰めて、メナスに向かった使者が戻るのを待つつもりなのだろう。
元々が短期決戦のつもりだったので、食料は必要最小限しか確保できなかったはずだ。
だが、講和交渉中に食料を略奪に出かけるわけにはいかない。
ファーティル王国の商人達も、ロックウェル王国の陣地には近づかない。
そのため、今ある分で交渉が終わるまで持たせる必要があった。
それが、食事量を減らすという手段になったのだろう。
「もう少し待ってから攻めれば、体力を消耗しているので簡単に勝てそうですね」
遠くに見えるロックウェル王国の陣地を見ながら、アイザックは父に話しかける。
「それはそうだろうが……。講和交渉中はダメだぞ。用意はしてもいいけれど、交渉中は攻撃はしないというのが最低限のルールだからな」
「大丈夫です。僕もわかってますよ」
戦争を始めるのに宣戦布告は必要ないが、終わる時には暗黙のルールがある。
講和交渉中に騙し討ちはしないというルールだ。
一方が話を持ちかけている間はいいが、双方が交渉の席に着いたらそれからは休戦状態となる。
それは、講和交渉がまとまるか決裂するまで続く。
このルールは戦争における最低限のルールである。
破ったりすれば王族や貴族としてではなく、人としての信用を完全に失ってしまう。
周辺の国から袋叩きにあってもおかしくない行為だった。
だから、二十年前の戦争でフォード元帥は交渉が始まる前にジュードを殺した。
交渉が始まる前なら、まだ戦争中。
厄介な相手に言い包められる前に始末してしまっても許される。
――戦争中と交渉中。
そこには明確な線が引かれており、如何なる者でも破る事が許されなかった。
「父上も僕の事をもう少し信用してくださいよ。というか、ギャレット陛下に戦争の元凶だって言われた時に反応してはダメでしょう」
父からの信用がない事に対して、アイザックは抗議する。
ランドルフは苦笑いを浮かべながら視線を逸らした。
「すまなかった。お前のやる事はスケールが大きいからな。それにギャレット陛下を恨んでいたようだし」
「尻を蹴り上げてきてくれたかは聞きましたけど、戦争を起こすほど恨んでませんって。大体、本当に一国の王を蹴ったりできるなんて思ってません。本当にそこまで恨んでいるんだったら、戦争なんてしないで暗殺者でも送ってあっさり済ませます」
「いや、そこは一国の王だから仕返しを諦めるところだぞ……」
ジュードの仇とはいえ、一国の王を相手に諦めるという意思が見えない。
普通なら「立場が違う」と諦めるところだ。
そんなアイザックに、改めて「自分とは根本的な考え方が違う」とランドルフは思い知らされた。
「もうちょっと、本当かどうかわかりやすい冗談を言ってくれると助かるな」
「そうですね。メリンダ夫人が関わると、冗談かどうかわかり辛かったですよね」
「ケツを蹴り上げたい」という程度の恨みはあったが、戦争を起こすほど強い恨みではなかったというのは本当の事である。
恨みという点では、戦争の元凶だと言われた今の方が強いくらいだ。
まさか、昔言った軽口がこんなところに影響するなんて思いもしなかった。
「私も交渉の席であのような反応をするべきじゃなかったと反省している。これから気を付けないといけないな」
ランドルフは微笑みながら、アイザックの肩に手を置いた。
「でも、もう少し親を驚かさないような生き方をしてくれると助かるな」
「驚かせるつもりなんてないんですけどね」
アイザックは苦笑で返す。
この戦争に関しては、ほとんどが偶然の産物である。
「父を驚かせてやろう」と思ってやった行動ではない。
自分自身、驚かされる事もあった。
しかし、ランドルフは全部アイザックがわかってやったと思っていた。
日頃の行いが大きく影響していた。
「父上も明日には援軍と共に到着する。今の状況を聞いたら、きっと驚かれるだろうな。父上もお年だ。驚かせて負担を掛けるなよ?」
「報告を聞いていたら、もう手遅れじゃないですか?」
フォード元帥の軍を打ち破ったという報告を聞いたら、きっと腰を抜かして驚いているはずだ。
「驚かせるな」と言われても、もう遅い。
「かもしれないな。まぁ、お前が笑顔で出迎えてやれば驚きも和らぐさ」
ランドルフはアイザックの肩をポンポンと叩くと仕事に戻った。
(確かに爺ちゃんを驚かせたかもしれないけど、勝ってるし大丈夫だろう)
惨敗したという方向の驚きならともかく、予想外の勝利による驚きだ。
怒られたりはしないだろうと、アイザックは軽く考えていた。
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翌日、正規軍が到着した。
王家の直轄軍だけではなく、その他にも伯爵家などの兵も合流しているので三万を超える大軍だ。
これでソーニクロフト侯爵家が集めた民兵に頼らずとも、数でロックウェル王国を上回る事になった。
やっと人心地がついた。
ホッとするのも束の間の事。
馬車から降りたモーガンが、一直線にアイザックのもとに向かった。
鬼気迫った形相で、笑顔を浮かべるアイザックの体を舐め回すように見つめる。
「あの、お爺様……」
「怪我は? もう大丈夫なのか?」
「挨拶どころではない」とばかりに、モーガンがアイザックに詰め寄った。
「え、ええ。もう大丈夫です。大怪我をしましたが、クロードさんのおかげで助かりました」
体を捻ったりすると傷口が開いたりしそうで怖いが、それを言うと余計に心配させそうなのでアイザックは言わなかった。
だが、その事を言わなくてもモーガンは十分に心配しているようだ。
アイザックの両肩を掴み、強い目つきで視線を合わせてきた。
「子供が戦場に出るなとは言わん。お前のおかげでファーティル王国が助かったからな。しかし、前線に来る事はないだろう。前線はランドルフに任せて、なぜ、お前は安全な後方にいなかった? 二人揃って前線にいて何かあったらどうする! ウェルロッド侯爵家の未来を考えろ!」
「も、申し訳ございません……」
(今、ここに三人揃ってるんだけど……)
アイザックは、その事を口にしそうになったが我慢する。
とても口出しできそうな雰囲気ではないからだ。
「そもそも、敵の刃が届く距離に行くのがありえん。好奇心で前に出たのだろうが――」
「まぁまぁ、ウェルロッド侯。周囲には騎士や兵士達がいる。叱りつけるのはあとにした方がよろしいでしょう」
フィッツジェラルド元帥がモーガンを宥める。
「家族の間で話をするのは、戦争が終わればいつでもできます。先に現在の状況を聞きましょう」
「……確かにその通りですな」
納得しているように返事をするが、まだアイザックの両肩をガッシリと掴んでいるのが「納得していない」という本心を物語っている。
フィッツジェラルド元帥は苦笑いを浮かべるしかなかった。
「彼に陛下のお言葉を伝えねばなりません」
「うむ」
モーガンは渋々とアイザックから手を放した。
エリアスからの言葉を伝えるのに、掴んだままではまずいからだ。
国王陛下からのお言葉とあれば、表向きは敬意を表して聞かねばならない。
アイザックは「なんだろう?」と思いながらも、その場に片膝をついて首を垂れる。
「アイザック・ウェルロッド。エリアス陛下からのお言葉だ。『そなたは若く、血気に逸る事もあるかもしれぬ。だが、リード王国の未来を担う若手の旗頭であるという事を自覚し、自重せよ。敵の手が届かぬ安全な場所で待機する事を命じる』との事だ」
アイザックが重傷を負ったと聞き、エリアスはアイザックを失う事を恐れた。
彼にとって、アイザックはまだまだ使い道がある。
そのため、安全な後方で待機しているように命じる事にしたのだった。
「陛下の温かきお言葉、ありがたく存じます」
「うむ。まだ子供とはいえ、戦場で活躍している者に後方に下がれと仰られるのは異例の事。陛下のお言葉をしかと受け入れよ」
「はっ」
アイザックは、神妙な面持ちで返事をする。
将来、エリアスとどういう関係になるのかわからない。
しかし、今は良好な関係だ。
心配してくれているのだから、素直にエリアスの言葉をありがたく受け入れられる。
「ついでに私からも言わせてもらおう。まだ若いのだから生き急ぐ必要などない。親元で経験を積んでから前線に出るべきだ。無茶をするのは若者の特権だが、君はもう個人の感情で動いていい立場ではなくなっている。陛下のお言葉通り自重せよ」
「はい。以後、気を付けます」
エリアスだけではなく、フィッツジェラルド元帥からも注意を受けてしまった。
(俺は前線になんて行ってないのに……。死にかけたせいで誤解されてるんだな)
「先陣を切って戦っていたから怪我をした」と思われているようだ。
確かに手紙には詳細を書いていなかったが、そこまで武闘派に思われているのかと思うと不思議だった。
やはり、フォード元帥達を討ち取った事が影響しているのだろう。
それだけ、彼らの武名が鳴り響いていたともいえる。
「戦場なのでろくなものがありませんが、お茶くらいは出せます。皆様に寛いでもらいながら、今の状況を報告させていただきたいと思います」
ランドルフがモーガンやフィッツジェラルド元帥を、一際大きな天幕に案内する。
今回の出迎えと報告に、クリストファーは呼んでいない。
クリストファーは親族とはいえ、仕える国が違う。
利害が相反する事になるかもしれないので、リード王国側の決定を知られるわけにはいかない。
まずは
天幕に集まると、ランドルフが順序立てて話を始める。
最初に援軍に駆け付けられた理由は、モーガンが思っていた通り「アイザックが演習という形で兵を集めていたから」だった。
この部分は「演習したい」と前もって話をされていたので、モーガンもわかっていた。
フィッツジェラルド元帥や同行している将軍達にも話していたので、彼らも驚いたりはしなかった。
反応があったのは、レオ将軍の夜襲について話した時だ。
ソーニクロフトを救援するため、一晩だけ安全な丘の上で休めばいい。
それなのに、あえて丘の下に布陣して奇襲を受けやすくしつつ、相手が攻めてくる方向を限定した。
さらにこの時、フォード元帥に送った刺客をたった二人で行かせたと聞き、モーガン達は驚いた。
実戦経験のない軍なら、マットのような戦場を渡り歩いた者をそばに置いておきたいはずだ。
それを、難しい任務で無事に帰ってこないかもしれないのに、アイザックは経験豊富なマットを敢えて刺客に使った。
計画を思いついただけではなく、必要な人材を危険な任務に投入できる決断力に元帥達は驚いた。
だが、モーガンが一番驚いたのは、このあとだ。
――ソーニクロフトに攻め寄せていた軍を包囲したのはいいが、本陣に乗り込んできたトムの手によって、アイザックが真っ二つに切り裂かれた。
重傷という報告は受けていたが、そのような致命傷だとは書かれていなかった。
モーガンは鎧の上からアイザックの腹を触る。
「本当に大丈夫なのか?」
「痛みとかはないですね。何かの拍子に千切れたりしないか不安ではありますけど」
「クロード殿には十分な礼をせねばならんな」
アイザックの顔色がいいので、体は至って健康そうだ。
後遺症などは残っていないようなので、問題はなさそうに見える。
孫の窮地を救ってくれたクロードに、モーガンは心底感謝していた
「ランドルフもよくやった。あのトムを一突きで討ち取るとはな」
「アイザックを狙って動きが単調になっていたのと、ドワーフ製の槍のおかげですよ」
モーガンに褒められ、ランドルフは照れ臭そうにしていた。
照れ臭さを誤魔化すためか、話を先に進める。
もちろん、ここからの話が大切だというのもある。
王都アスキスに到着し、休戦状態になって講和交渉が始まった。
そこでアイザックは、謂れの無い難癖を付けられてしまう。
しかも、ファーティル王国の外務大臣であるグレンヴィル伯爵がそれに同調してしまう。
だが、それは彼が裏切っていたからだった。
「ちょっと待て、グレンヴィル伯が裏切っていたのか!」
ここでモーガンから待ったの声が上がる。
グレンヴィル伯爵のまさかの裏切りに、目を大きく見開いて驚いていた。
「はい。ヘクター陛下から証拠の品を見つけたと聞いております」
「そんな馬鹿な……」
アイザックから「証拠があった」と聞いても、まだ信じられない様子だった。
「さすがに手紙のやり取りだけで裏切るとは思えん。……そうか! サイモン陛下が亡くなられた時の弔問で話を持ちかけたのかもしれんな」
友好的な関係になくとも、弔問の使者くらいは送る。
弔問に訪れたグレンヴィル伯爵に、ギャレットが寝返るよう説得したのかもしれない。
何もない時ならギャレットと二人で話していれば怪しまれるが、弔問に訪れた時なら二人で話していても怪しまれない。
故人を偲ぶ話をしているように思われるからだ。
戦争が始まる前に再度接触し、協力するよう要請していたのだろうとモーガンは考えた。
「この戦争、終わらせるのに苦労しそうだな……」
モーガンは、深い溜息を吐く。
これほど用意周到に準備しているのだ。
失敗した時の事を考えて、何か対策をされているかもしれない。
しかも、戦争を終わらせるために協力するはずの外務大臣がいない。
長い交渉になる事を覚悟せねばならなかった。
「そうでもないですよ」
そんなモーガンの苦悩を、アイザックが「造作もない事だ」と言わんばかりにあっさりとした言葉で否定する。
「悩むにしても、父上からこのあとの事を聞いてからでも遅くはありません」
「まだ何かあるのか?」
モーガンはランドルフに視線を向ける。
すると、ランドルフは力強くうなずいた。
「このあと、戦争を継続するかしないかに関わらず、そう遠くないうちに終わるようになっています」
ランドルフが続きを話し出す。
今はメナスに送った使者が帰ってくるのを待っている状況。
しかし、それはリード王国からの援軍が来るまでの時間稼ぎに過ぎない。
使者が帰ってくると、ギャレットに「検討の結果、国土を割譲する気はない」と伝える予定だ。
もし、ここでギャレットが決戦を選んだとしても、食事を減らされた兵士を率いて戦わなければならない。
数が揃い、食事をしっかりとって英気を養ったリード王国軍を相手にするのは厳しいだろう。
しかも「戦争が終わる」と安心しているところでの戦争再開だ。
士気にも大きく響く事になる。
「我々が到着した時には、すでに勝利のお膳立てが整っている……か」
フィッツジェラルド元帥は、アイザックの用意周到さに感心する。
このままだと戦わずして勝利する事ができる。
戦う事になったとしても、開戦当初とは違って相手は弱体化している。
もうギャレットに勝ち目はない。
ひらめきなどよりも、その用意周到さがアイザックの強みなのではないかと、フィッツジェラルド元帥は思い始めていた。
「ファーティル王国と歩調を合わせれば大丈夫だと思います。その他、賠償金をどうするかなどはお爺様にお任せ致します」
「うむ、それはヘクター陛下とよく話し合おう」
モーガンの表情からは強い意気込みが感じられる。
ここまで有利な状況を作ってもらっておいて、醜態を晒すような真似はできない。
絶対に交渉を有利に進めてやろうと考えていた。
アイザックを傷つけた分を上乗せして。
「ところでアイザック。君は軍に興味はないのかな? 実績と家柄を考えれば、そう遠くないうちに将軍にだってなれるだろう」
フィッツジェラルド元帥がアイザックを正規軍に誘う。
将来的には、元帥すら狙える逸材。
アイザックのような者に軍を任せた方が、彼としても安心できるからだ。
「高く評価してくださってありがとうございます。ですが、僕はお爺様のように政治家として働きたいと思っています。申し訳ありませんが、軍人としての道を歩むつもりはありません」
「アイザック……」
モーガンの胸が熱くなる。
それだけ、孫に「お爺様のようになりたい」と言われるのは感動的だった。
すでに体は大きくなっているので、政務に励んでいるアイザックの姿が彼の目に浮かぶ。
――だが、残念な事にアイザックが口にした事は、言葉通りの意味ではなかった。
軍事に傾倒する王もいるが、ほとんどの王は軍事よりも統治がメインの仕事となる。
アイザックは
嘘は言っていないが、大臣よりも上を目指している事は隠していた。
それに「痛い思いをするのは、もう嫌だ」という思いもある。
戦争など滅多にない事だろうが、危険からは離れておきたい。
しかも、将軍になったりすれば王都で暮らす事になる。
行動の自由が制限されるので、裏で動きにくくなる。
保身のため。
将来の夢のためにも、軍人という道をアイザックは選べなかった。
「僕が怪我をした事は母上も知っているでしょう。どれだけ怒られるのか考えると、家に帰るのが怖いですね。将来、文官を目指すと言ったら許してくれるでしょうか?」
そう言って、アイザックは場を和ませる。
あとはメナスに送った使者が戻り次第、ギャレットに現実を突きつけるだけでいいのだ。
もちろん、油断しているわけではない。
心にゆとりができただけだ。
一週間後、ギャレットがどんな顔を見せてくれるのかをアイザックは楽しみにしていた。
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