第214話 予備交渉

「数が約五万……。これ以上は無理だな」


 リード王国からの援軍が到着した時点で、ギャレットは戦闘の継続を諦めていた。

 この決定には撤退してきたフェリクスからの報告が影響していた。


 ソーニクロフトで戦った援軍の数はおよそ二万。

 さすがに消耗しているはずなので、残存兵力は一万五千程度だろうと思われる。

 そこにソーニクロフト侯爵家の兵士一万を上乗せする。

 さらに急遽徴兵するであろう兵士が一万程度はいると、開戦前に予想されていたので、追加で一万。

 ここまでで三万五千。


 なら、残りの一万から一万五千程度の援軍はどこから来たのか?

 答えを導くのは簡単だった。


 ――ウィンザー侯爵家の部隊だ。


 リード王国の侯爵家では、大体一万五千程度の兵士を出陣できるようにしている。

 その事はあらかじめ調べていた。

 だから「ウィンザー侯爵家が合流しているから、五万近い大軍となっているのだ」とギャレットは考えた。

 そう考えたのは、やはり裏切り者の存在を疑った事が大きい。


(ウェルロッド侯爵家とランカスター伯爵家の援軍はただの先遣隊で、あとから援軍が続々と到着するのではないか?)


 そんな考えがギャレットの頭をよぎった。


 ――本当に裏切り者がいて、その情報を基にリード王国は全軍をファーティル王国へ向かわせている。


 その可能性がある以上「目の前の敵を殲滅して、アスキス攻略を行う」などという冒険はできなかった。

 若かりし頃のギャレットであれば、感情のままに攻撃を仕掛けていたかもしれない。

 だが、年月が彼に知恵と落ち着きを与え、それと共に直感で行動する事を制限してしまっていた。


 そして何よりも、アスキスでの抵抗が予想以上に激しかったのも計算外だった。

 兵士だけではなく、街の住民までが積極的に軍に協力して抵抗してきていた。

 門を突破したはいいが、突破した先は瓦礫で封鎖されていた。

 近くの家を壊してバリケードにしていたのだ。

 おかげで街の中に入っても、激しい戦いが続いている。


 家一軒、路地一本を奪い合う市街戦となり、かなりの苦戦をしていた。

「援軍が来る前に攻め落とそう」と攻勢を強めていたのに、住民までが武器を手に取って歯向かってきたため、援軍が到着する時間を稼がれてしまった。

 それでも、あと三日もあれば陥落させられていただろう。

 リード王国からの援軍があと一週間遅ければ態勢を整え直して迎え撃てたかもしれない。


(ファーティル王国の民も、我々に恨まれている・・・・・・という事を自覚していたか)


 ロックウェル王国とファーティル王国には数多くの因縁がある。

 その中でも特に大きな因縁を思い浮かべ、ギャレットは激しい抵抗の理由を悟る。

 誰だって自分達を恨んでいる者に上に立ってほしくはない。

 だから、自分達のためにも必死になってファーティル王国に協力していたのだろうと。


 これは完全な計算外だった。

 この世界はナショナリズムの精神がまだ発達していない。

 そのため、国民が国家のために必死になって協力する事はないと考えていた。

 だが、住民は自分達の生活を守るために、必死になって戦っている。


 もちろん、これくらいの計算違いは計画に織り込み済みだった。

 それでも、対応できる手筈は整っていた。

 攻略が数日遅れようが、許容できる範囲で収まるはずだったのだ。


 ――本来ならば。


 その余裕を持った計画を、リード王国からの援軍が打ち砕いた。

 さすがに二週間も早く援軍が到着したあげく、フォード元帥の部隊を打ち破ったりするなど計算違いもはなはだしい。

「今回の戦争は裏切り者が情報を流し、リード王国に対応されてしまったので負けるのも当然だ」と考えるのが、ギャレットには納得のできる敗戦の理由だった。


「使者を出せ。それとフェリクスにこちらから仕掛けるなと伝えておけ。一万では時間稼ぎにしかならん。王都の部隊も内と外から挟撃されぬように撤退させよ」


 ギャレットは矢継ぎ早に命令を下す。

 もし、援軍が二万くらいならばフェリクスの部隊に時間稼ぎをさせていた。

 復讐に燃えるフォード元帥の部隊なら、それくらいはできると思われたからだ。

 だが、五万は無理だ。

 たちまち敵兵の波に飲み込まれてしまう。

 気力で補える範囲を越えてしまっている。

 ただの犬死になるだけだった。


(もう少し、もう少しだったんだ。せめて、奴らが来るのがあと一週間遅ければ……)


 ギャレットは拳を固く握り締める。

 ファーティル王国を攻略する事は、ロックウェル王国にとって長年の悲願だった。

 二百年にわたる夢が今にも手に掴めそうだったのに、手のひらからこぼれ落ちていってしまった。

 本心では兵を引きたくはない。

 しかし、ここで全ての兵を失えば、軍の立て直しに数十年単位で時間を必要とする事になるだろう。

 捲土重来を期すためにも、今は耐える時だ。


(我々は二百年耐えた。だから、あと十年や二十年くらいは耐えてやろうではないか)


 ギャレットは強い目つきで、リード王国軍の援軍を睨みつけていた。



 ----------



「なんだ、どうした? 敵が引いていくぞ」


 王宮にある物見の塔にいる兵士が異変に気付いた。

 先ほどまでの激戦が嘘のように街中が静まっていく。


「おい、あれ!」


 一人の兵士がその原因に気付いた。

 西方を指差す。


「まさか、援軍か?」

「もう着いたのか?」


 兵士達がざわつき始める。


「落ち着け。おい、お前。どこの旗か見えるか?」


 彼らを統率する騎士が、一番目の良い兵士に旗を確認するように命じた。

 まずはどこの軍か確認しなければならない。

 これで「ロックウェル王国の援軍だった」なんて事になれば大変な事になる。


「ソーニクロフトの旗が見えます。あとは……。えっ、リード王国!?」

「リード王国!? 見間違いじゃないのか!」

「さすがに私はリード王国の貴族の旗はわかりませんが、国旗くらいはわかります。確かにリード王国の旗です。助かったぁ」


 兵士の言葉は騎士も同感だった。

 本当にリード王国からの援軍であれば「助かった」という感想以外出てこない。


「わ、私は陛下に知らせてくる。見張りを続けろ」


 騎士はそう言い残して、王のもとへと走り始める。

 その足は軽やかなものだった。




「リード王国からの援軍? ロックウェル王国の偽装ではないのか?」


 報告を受け、最初に疑問を口にしたのはファーティル王国第八代国王ヘクターだった。


「ですが、ロックウェル王国の軍が街中から退き始めております。それに大軍だったので本物ではないでしょうか?」


 報告に来た騎士は、少し自信がなさそうだった。

「ロックウェル王国の偽装ではないか?」と聞かれれば「違います」と言い切る事ができないからだ。

 遠めに見ただけなので、絶対の自信がない。


「陛下、いくら何でも援軍が早すぎます。ロックウェル王国による何らかの策であると考える方が自然でしょう」

「どんなに急いでも、まだ十日は掛かるはずです。これは遅くなる事はあっても早くなる事はありえません。旗を見ただけで信じるのは危険です。慎重に行動するべきです」


 軍関係者は慎重論を口にする。

 彼らはリード王国から援軍が来るのに必要な日数を熟知している。

 だからこそ、このタイミングで援軍が来た事に怪しさを感じていた。

 ヘクターも彼らの意見にうなずいて同意した。


「街の中から我らをおびき出そうとしているのかもしれん。今は守りを固める時間を得たと思う事にしよう」


 この考えはもっとも無難な考えだった。

 下手に動くよりは、このままジッと耐えた方が時間を稼げる。

 援軍が来るまで耐えられるかはわからないが、抵抗を諦めれば確実に援軍は間に合わない。

 リード王国からの助けを信じて、今は時間を稼ぐ事を考えるしかなかった。


 陰鬱とした雰囲気の会議室。

 そこに伝令が駆け込んできた。


「ソーニクロフト侯爵家からパートリッジ子爵が使者として訪れました! リード王国のランカスター伯も同行しております!」

「なんだとぉ!」


 報告を聞いた者達が思わず椅子から立ち上がった。


 ――偽物の援軍だと思っていたら本物だった。

 ――しかも、ランカスター伯爵まで来ている。 


 これは大きな事だった。

 ランカスター伯爵は外務大臣だったので、ファーティル王国の者達も顔を知っている。

 彼が本物であれば、リード王国からの援軍も本物だという事だ。

 これ以上ない判断材料が手に入った。

 ヘクターはすぐにここに連れてくるように命じる。

 待っている間、早く来ないかともどかしい時間を過ごす。


 会議室にやってきたのは、確かにランカスター伯爵とパートリッジ子爵だった。

 二人とも見覚えのある顔であり、偽物という事はなさそうだった。


「陛下、ご無沙汰しております」

「久しいな。……ランカスター伯。本当にリード王国から援軍として来てくれていたのか」


 ランカスター伯爵を前にしても、ヘクターはまだ信じられない思いだった。

 何をどうすれば、こんなに早く到着できたのかが理解できない。

 その思いは他の者達も同じだった。

 本人だと確認しても、唖然とした表情で見るばかりだ。

 目の前の現実に思考が追いついていない。

 その反応を見て、ランカスター伯爵は「まずは説明が必要だな」と感じた。

 立場が逆だったなら、やはり説明を求めただろうから。


「それでは、まず援軍がどうして早く動けたのかを説明させていただきましょう。ソーニクロフトでの事はパートリッジ子爵にお任せします」


 まずはウェルロッド侯爵家の演習から順序立って話し始めた。

 話をする度に、ファーティル王国の者達の表情がコロコロと変わって面白い。

「自分も同じような感じだったのだろうな」と思うと、ランカスター伯爵は笑うに笑えなかった。

 ときおり、パートリッジ子爵に補足してもらい、アスキスまでの事を話し終える。

 ヘクターを始め、ファーティル王国の者達は「まだ信じられない」という顔をしていた。


「まず、援軍に来ていただきありがとうございました。とりあえず、最初に聞きたいのは『なぜロックウェル王国の侵攻前に動きがあると教えてくれなかったのか』という事です」


 最初に動揺から立ち直ったのは、一人の将軍だった。

 自国を救ってもらった事を感謝しつつも、少し咎めるような感じがあった。

 それもそのはず、ロックウェル王国の動きを察知していたのなら、侵攻前に教えてほしいと思うのが人情だ。

 わかっていれば、軍を動員して国境付近で侵攻を防げたかもしれない。

 今のような惨事にはなっていなかったはずだ。


「私も詳しくは聞いておりませんが、信じてもらえないと思ったのではないでしょうか。仮に信じてもらったとしても、ロックウェル王国は準備が整っているファーティル王国には攻めてこないでしょう。そうすると、嘘を吐いたと思われて信用を失う。絶対に来るという確信がなければ迂闊な事は言えなかったのでしょう。それにアイザックは何の権限もない子供なので、演習という形で兵を集めるのが精一杯だったのだと思います」


 推測ではあるが、ランカスター伯爵はこの持論に自信を持っていた。

 いくら何でも「演習を思いついて実行していただけ」などという偶然のはずがない。

 アイザックが何を考えているかはわからないが、この考えが大きく間違っている事はないはずだ。


「なるほど、確かにその通りです。王都にまで攻め込まれていたので、少し気が立っていたようです。申し訳ない」


 将軍は素直に頭を下げた。

 必死に助けに来てくれている者に、非難がましい事を言うのは筋違いだと気付いたからだ。

 自分の愚かさを恥じる。


「ロックウェル王国の動きに気付いたのも凄いが、そのあとにフォード元帥の部隊を一日で撃破した事の方が凄い。どれだけの猛者がウェルロッド侯爵家に集まっているのか」


 そう言ったのは先ほどとは違う将軍だった。

 彼の鼻息は荒い。


 ――トムを一突きで討ち取った剛勇無双のランドルフ。

 ――フォード元帥を上回る神算鬼謀のアイザック。


 その二人以外にも、マットやトミーといった粒揃いであるウェルロッド侯爵家に強く興味を惹かれていた。

 他の将軍達も似たようなものだ。

 もう二度と「弱兵」とウェルロッド侯爵家を侮る事などできない。

 それどころか、テスラ将軍を討ち取ったランカスター伯爵にも「サインをください」とお願いしたいくらいだ。

 救国の英雄を敬意と嫉妬が混じった眼差しで見つめる。


「すぐにでも歓迎の宴でも開きたいところだが、なぜ他の者達は外で待っているのだ?」


 ヘクターが素朴な疑問をランカスター伯爵に問いかける。

 ロックウェル王国軍が街から出ていき、包囲を解いているので王都の中に入るのは容易だ。

 なぜ外で待機しているのかがわからなかった。


「王都の中に入れば、ロックウェル王国軍は王都の攻略に集中すればいいだけ。王都の外に軍を置き、どちらかを攻めればもう片方に背後を突かれるという状況を維持した方がいいとアイザックが言っておりました」

「その通りです。一ヵ所に固まれば周囲に味方がいると安心できますが、敵に行動の自由を与える事になります。今は二正面での戦闘になるぞと警戒させておく方がいいでしょう」


 ファーティル王国の将軍も、アイザックの意見に同意する。

 これは基本的な事だが、どうしても仲間のいるところに集まろうとしてしまうのが人間というものだ。

 ダメだとわかっていても、防御施設のある安全そうな街中に集結してしまう。

 徴兵したばかりの雑兵が多いので、門が崩れていても街中に入りたいと思う気持ちは大きかったはずだ。

 なのに、外で待機するという精神的に負担の掛かる選択をした。

 子供とは思えないアイザックの冷静沈着な判断に、改めて感心させられる。


「アイザックが警戒しているように、戦争はまだ終わっていません。むしろ、これからの講和交渉の方が本番でしょう」

「そうだな」


 ヘクターはランカスター伯爵に答えながら、自国の外務大臣をチラリと見る。


(……こやつはロックウェル王国の動きをまったく掴めなかったな)


 各国に駐在する大使には、その国の動きを見張るという役割もある。

 ロックウェル王国へ送っている駐在大使が無能なのか。

 それとも、外務大臣が無能なのか。

 すぐには判断が付かないものの、少々不安があった。

 そこでヘクターは一つの申し出をする。


「フォード元帥の部隊を打ち破った指揮官にも同席してもらえると、ロックウェル王国への睨みも利くだろう。ランカスター伯やランドルフ、アイザックといった者達も予備交渉に同席してもらえんか?」


 ランカスター伯爵は前外務大臣であるし、ランドルフはウェルロッド侯爵家の次期当主という重責を担う立場。

 援軍の司令官という事もあり、同席する権利は十分にある。

 だが、ヘクターの本命はアイザックだった。

 若者とはいえ、常人の理解の範疇を越えた知謀を持つ者に同席してほしかった。

 だから、さり気なくアイザックの名前を二人のあとに含めていた。


「私はかまいません。二人も断わりはしないでしょうが、念の為に確認をしておいた方がいいでしょう」

「そうだな、そうしてくれ」


 ヘクターは席を立ち、ランカスター伯爵のもとへ自分から近寄っていく。


「来てくれて本当に助かった。この恩は忘れない。ありがとう」

「間に合って何よりでした」


 二人は両手でガッチリとした握手を交わす。

 これはヘクターの人生で、初めてともいえる心の籠った感謝の握手だった。

 今までは国王として「感謝の言葉を述べて握手をする」という作業でしかなかったが、今回ばかりは一人の人間としての感謝の気持ちが強く籠められていた。



 ----------



 予備交渉は翌日行われた。

 場所はアスキスとロックウェル王国軍の陣地との中間地点に張られた陣幕の中でだった。

 双方共に少数の護衛を連れただけの会談である。

 ここに来る事を、アイザックは心底嫌がっていた。


(これじゃあ意味ねぇ……。何のために俺が外で待機を主張したと思ってんだよ)


 アイザックは自己保身のためにアスキスへ入る事を拒んでいた。

 一度街中に入ってしまうと、包囲された時に逃げ場がなくなってしまう。

 だから、外で援軍を待機させ、非常時には兵士達に時間稼ぎをしてもらって自分は逃げ出すつもりだった。

 なのに「交渉に参加してほしい」とファーティル王国の国王から希望されてしまった。

 国王自らの要望なので、実質「参加しろ」と命令されたのに等しい。

 今のアイザックには嫌がらせにしか思えなかった。


 少数の護衛しかいないというのは、とても心細いものだった。

 今すぐにでも「お家に帰る」と逃げ出したいくらいだ。

 しかし、そんな事をすれば、せっかくの勝ち戦で築き上げたものが全て無に帰すという事を理解している。

「それはもったいない」という思いから、渋々と参加する事に決めた。


 まずは会談の地にてファーティル王国の者と顔合わせをする。

 そこでアイザック達は周囲の視線を集めていた。

 誰も彼もが「フォード元帥を超える若者」に興味を持っていたからだ。

 その傍らには「槍の達人」であるランドルフもいるので、二人が並んで立っているだけで視線は釘付けだった。


「順番に紹介していこう」


 双方の事を知っているランカスター伯爵がお互いに紹介を始めていく。

 今回の予備交渉ではヘクターは出てこない。

 外務大臣や将軍といった者達がメインだ。

 アイザックはソーニクロフト侯爵とも会えるかと思っていたが、彼は財務大臣なので留守番をしていた。

 交渉のあとに会えるのかもしれない。


 軽く紹介が終わったあと、一同は陣幕の中へと移動する。

 そこにはロックウェル王国の者達がすでに待っていた。

 彼らの目は険しい。

 中でもランドルフくらいの年齢の騎士が、鋭い目つきをしていた。

 なんだか怖かったので、アイザックは彼と目が合わないように視線を逸らしていた。


 まだ子供という事もあり、アイザックは末席で大人しく座っていようと考えていた。

 しかし、それは無駄だった。

 お互いに出席者が自己紹介を始め、アイザックが自分の名前を名乗ったところロックウェル王国側全員の目がアイザックに集中したからだ。

 特に先ほどの騎士が切りかからんばかりに殺意に満ちた目をしている。

 彼はフォード元帥の曾孫のフェリクス・フォードだそうなので、曾祖父と母を殺された恨みがあるのだろう。

「やったのはマットとトミーだから。俺じゃないから」と、アイザックは心の中で逃げていた。


「そうか、お前がアイザック・ウェルロッドか」


 ギャレットがファーティル王国の外務大臣やランカスター伯爵ではなく、アイザックに話しかけた。

 その声は冷え切っていて、怒鳴り散らされるよりも怖さがあった。


「フォード元帥の作戦を見破り、討ち取った者。そして、今回の戦争を引き起こした元凶でもある若者だな」

「えぇっ!」


 前半はともかく、後半は身に覚えのない言い掛かりである。

 いくら何でも戦争を引き起こすような真似をした覚えはない。

 他国同士を争わせるような行動など取っていなかった。


(いや、そりゃまぁ考えた事はある。あるけど実行なんてしていない)


 アイザックは将来、リード王国の同盟国の動きをどう止めるか考えていた。

 その中には、ファーティル王国とロックウェル王国のように因縁のある国を争わせて援軍に来られなくする方法もあった。

 しかし、そんな策を実行していないし、まだ下準備すらやっていない。

 まさか無意識の内にやっていたなんて事もないだろう。

 アイザックには完全な言い掛かりにしか思えなかった。

 なぜそんな事をいうのかわからず、驚く事しかできなかった。


「アイザック、お前……」


 だが、周囲の反応は違う。

 ランドルフの――いや、リード王国とファーティル王国の出席者達の視線までもが、アイザックに釘付けとなっていた。

 その目は「まるで図星をつかれて驚いているのでは?」という心情を言葉以上に物語っていた。

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