第147話 トラップ発動
翌朝、朝食の最中にモーガンがアイザックに話しかけた。
「昨日、ブリストル伯のところに行ったそうだな。何を話した」
「ドワーフとの交易を任せられる方かどうか、直接家族から聞きたかったんです。コンラッドさんからブリストル伯の事を色々聞きました。……腹違いの兄弟でも、あんなに仲が良くなれるんですね」
「あぁ、そうだな……」
モーガンは、アイザックがブリストル伯爵家について調べていた事を知らない。
だから、家庭環境を理解したうえで訪問していたという事も知らなかった。
「グレンから報告がいってるんだから、知っていたんじゃないですか?」
「本人からも一応聞いておきたかっただけだ。すまなかったな」
すでに報告で知っていたが、アイザックがネイサンの事をまだ気に病んでいるとは思わなかった。
あまりブリストル伯爵の話をして、古傷を抉るような真似はしたくない。
さすがにモーガンも、これ以上この話を続ける事はできなかった。
少し気まずい空気のまま、朝食を食べ終える。
「どーしたの?」
ケンドラが食卓を囲む家族の雰囲気を感じ取り、不思議そうにしている。
「何でもないわよ。ご飯を食べたし、パトリックと一緒にお庭をお散歩しましょう」
「うん」
ブリジットがケンドラを食後の散歩に誘う。
ネイサンの事を知るには、ケンドラはまだまだ早すぎる。
そう思って気を使ってくれたようだ。
本来ならリサにでも頼みたいところだが、年末年始で学校が休みの間は家族と過ごしている。
リサが不在の間、ブリジットがお姉さん役をやってくれていた。
「じゃあ、僕も――」
「失礼致します」
アイザックも散歩についていこうとしたところで、数人の男が突然食堂に入ってくる。
彼らの背後には屋敷の使用人達がついてきていた。
かなり戸惑っているのが一目でわかる。
「近衛騎士だと! いったい何事だ!」
ランドルフが驚きの声を上げる。
だが、その声を無視して騎士の一人が巻物を広げ、文章を読み上げる。
「アイザック・ウェルロッド。陛下がブリストル伯爵家への干渉の件について聞きたい事があるので、直ちに出頭するようにとの事だ。我らが同行するので、大人しくするように」
「えぇっ!」
(意外と行動早ぇな!)
まさか、ブリストル伯爵家に罠を仕掛けた翌日に訴え出るとまでは思っていなかった。
アイザックは近衛騎士に挟まれて馬車に連れていかれる。
まるで犯罪者の連行だ。
一応は配慮してくれているのか、腕を掴んだりするなど乱暴な扱いはされなかった。
それでも、連行されるという行為自体が、アイザックにとてつもない心理的負担を与えていた。
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この国では、一日の初めに謁見の間で国王へ前日の報告をしてから政治が動きだす。
大臣や高級官僚が居並ぶ中、アイザックはエリアスの前にひざまずいている。
その両隣には、モーガンとランドルフも同じようにひざまずいていた。
彼らはアイザックを心配して付いてきたのだ。
謁見の間の外では、グレンやベンジャミンも待機している。
「アイザック、今日呼び出したのはブリストル伯爵家の件についてだ。理由はわかるな?」
謁見の間の奥にある一段高い場所。
そこにある玉座に座ったエリアスがアイザックに話しかける。
「僕にはわかりません。なぜ騎士に連行されたのか……」
アイザックは今にも不安で泣き出しそうな顔をする。
子供としての武器を最大限利用するつもりだった。
しかし、それが通用しない者がいる。
「ふざけるな! よくも私を殺そうとしてくれたな!」
――ロジャー・ブリストル伯爵だ。
エリアスの隣に立って、アイザックを睨んでいる。
コンラッドの兄だけあって、面影が似ている。
しかし、優しそうな顔立ちは怒りによって台無しになっていた。
「殺そうだなんてとんでもない。そんな事しようとしていませんよ」
「とぼけた事を……。証拠もあるんだ!」
ロジャーは一枚の紙切れを取り出す。
それをエリアスに渡した。
「アイザック、お前には期待していたんだが……。これでは、言い逃れができそうにないな」
エリアスは残念そうな顔をする。
彼は前もってこの紙に書かれた内容を確認していた。
文章はインクで塗り潰されていたが、消しの甘い部分が薄っすらと読み取れる。
そこには不穏な単語が残されていた。
『当主としては不適格』
『将来の当主』
『裏切り』
どう考えても、これは友好的な内容ではない。
おそらく、ロジャーを殺してコンラッドを次期当主に後押しするという密約だと思われる。
『ロジャーは当主としては不適格。コンラッドを将来の当主にするので、ロジャーを裏切り、ドワーフとの交易を諦めろ』
そのような内容が書いてあったと想像するに難くない。
忠臣だと信じていたアイザックが、ブリストル伯爵家の当主を挿げ替える事を狙っていたなどとは思いもしなかった。
エリアスは今までの人生で感じた事がないほどの失望を感じていた。
(そこまでして、ドワーフの利権を独占したかったのか……)
もちろん、その気持ちはよくわかる。
本音を言えば、ドワーフとの交易は王家で独占したいくらいだった。
アイザックも、その魅力に憑りつかれてしまっていたのだと思った。
ブリストル伯爵家に交易路を作る許可を出さなければ良かったと、エリアスは後悔していた。
「残念だったなぁ。裏切り者のコンラッドはすでに処刑した。ウェルロッド侯爵家にも相応の報いを受けてもらう!」
ロジャーは勝ち誇った顔をしていた。
それもそのはず、目障りな弟が死んだ。
悪知恵の働くアイザックも、さすがにただでは済まない。
さらに、ウェルロッド侯爵家にはペナルティとして、ドワーフとの交易を降りてもらうつもりだった。
彼は心の中で、アイザックの浅はかな行動に感謝しているくらいだ。
「えぇっ! 殺しちゃったんですか?」
「そうだ。生かしておけば、また不届き者がよからぬ事を考えるかもしれぬからな。コンラッドから私の情報を聞き出していたようだが、使う機会がなくなってしまったな。弟同士仲良くやる? 結構、あの世で好きなだけ仲良くするといい」
――コンラッドはロジャーの情報をアイザックに話していた。
――しかも、仲が良さそうに見送った。
アイザックを見送る時に話していた内容を、執事長がロジャーに報告していた。
帰宅時にその報告を受け、ロジャーはコンラッドが自分を裏切ったと思った。
――ブリストル伯爵家がドワーフとの交易を行おうとしている。
この事はウェルロッド侯爵家にとって、面白い事ではないと彼もわかっている。
だから、何か仕掛けてくるだろうという事はわかっていた。
そこにアイザックが自宅を訪れ、コンラッドと密会していたと聞いた。
彼らが何を話していたのかは明白だ。
『コンラッドをブリストル伯爵家の当主にしてやる。その代わり、ドワーフとの交易を諦めろ』
そういう内容を話していたと、ロジャーはすぐに察した。
だから、裏切りの証拠を探すため、すぐにコンラッドの部屋を捜索させた。
証拠はすぐには見つからなかった。
「兄上、私は裏切っていません」という、見え透いた言い訳を聞かされるのにウンザリし始めた頃。
決定的な証拠が見つかった。
――真っ黒に塗り潰された一枚の紙切れ。
しかも、よく見れば不穏な単語が見え隠れしている。
それを見て、ロジャーは確信した。
――コンラッドはやはり裏切っていたのだと。
追及できる証拠がある以上、裏切り者を生かしておく理由はない。
生かしておけば、いつかまた謀略の手段として使われる。
だから、即座にコンラッドとその妻子を処刑し、後顧の憂いを絶った。
家庭内の混乱の種を摘み取り、万全の態勢でアイザックの責任を追及するつもりだったのだ。
ロジャーが恐れているのは、ジュードの後継者と目されているアイザックの仕返しだった。
常識人であるモーガンやランドルフは、陰謀の証拠があれば理不尽な仕返しなどしてこないとわかっている。
そのため「アイザックを他家への干渉を理由に処刑する」か、悪くても「幽閉して何もできなくする」事を狙っていた。
幸い、ウェルロッド侯爵家には娘がいる。
アイザックを失ったとしても、家が断絶する事はない。
徹底的に叩き潰し、ブリストル伯爵家に手出しをできないようにしようとロジャーは考えていた。
その考えは、対策を考えていない相手なら通っていたかもしれない。
しかし、アイザックはちゃんと対策を考えていた。
「もしかして、その紙って……。外で待っているグレンが、昨日コンラッドさんに渡したメモと同じ物を持っていると思います。陛下に見せるために用意していたものです。持ってきてもらっていいでしょうか?」
「私に見せる? まぁいいだろう。おい、紙を受け取ってこい」
エリアスは扉に近い近衛騎士に命じる。
グレンはちゃんと書類などが入っているカバンを持ってきてくれていた。
騎士は急いで外で待っているグレンからメモを受け取り、エリアスのもとへ届ける。
そのメモを見て、エリアスは驚いた。
「この内容は!? 見てみろ」
「えっ、これは!」
ロジャーもメモを見せられ、絶句する。
内容は内容で問題はあるが、今回は関係ない。
書かれている文字の位置が問題だった。
『当主としては不適格』
『将来の当主』
『裏切り』
この三か所の位置が、黒く塗りつぶされたメモと一致する。
「アイザック、このメモの事を説明せよ」
エリアスがアイザックに命じる。
もちろん、尋ねられなくとも説明をするつもりだった。
「昨日、コンラッドさんにブリストル伯の事を伺いました。とてもお兄さんの事を慕っているご様子で、熱心に信頼できる方だという事を教えてくださいました。ですから、こちらもブリストル伯爵家がドワーフと上手くやれるように、情報を提供しようと思ったんです」
ここからが重要だ。
アイザックは一度深呼吸する。
「ですが、コンラッドさんにメモの内容を驚かれてしまいました」
「だろうな。……ドワーフを裏切らせるというが、これはどういう事だ? 戦争を始める気か?」
メモに書かれている事は、これはこれで大問題だ。
エリアスは見過ごす事ができなかった。
「いえ、そういう意味ではありません。ドワーフは人間に武器を売ったりはしないでしょう。でも、その人は上手くおだてたりすれば、こっそり武器とかを売ってくれるような気がしました。だから、ドワーフにとっての裏切り行為をしてもらうという事で、そのように書いたのです」
「しかし、少々手厳しい書き方だな」
「はい、コンラッドさんにも同じ事を言われました。ですから、一度文字を全部消しました。そして、柔らかい文章を書こうとしたところで気付いたのです。ブリストル伯爵家が取引するドワーフは別のドワーフになるだろうと。だったら、余計な先入観をブリストル伯に持たせる必要はないと思い、そのメモを捨ててもらいました」
「ふむ……」
エリアスは顎に手を当てて考え始める。
アイザックの言う事が本当なら、今回の件はロジャーの勇み足でしかない。
罪のない者に濡れ衣を着せてしまう恐れがあった。
ここでエリアスに大きな影響を与えたのは「アイザックは忠臣だ」という思いだった。
そのため、アイザックを罪に問うような事はしたくないという心のブレーキが自然とかかっていた。
「嘘だ! 陛下、ウェルロッド侯爵家はドワーフとの交易を独占したいがために、策略を仕掛けてきたのです! 私利私欲のための醜い陰謀です! 相手が子供だからといって、騙されてはいけません。相手はアイザック・ウェルロッド。あのジュードの後継者と目されている者なのですよ!」
ロジャーは自分がミスをしたと気付きたくない。
アイザックに非があり、これは陰謀だと強く主張する。
だが、その言葉がエリアスに「やはり勘違いだった」と確信させる。
「ブリストル伯は知らぬようだが、ウェルロッド侯爵家はドワーフとの交易で出た利益を軍の拡張に回す予定だ」
「なんですと!」
「交流を再開すればドワーフとの接触が増えるし、武力衝突が起きる危険性も生じる。ウェルロッド侯爵家からは、それに備えて軍を拡張したいという申し出があった。王国の盾として働く用意をしたいとな。そこからは自分一人が儲けたいという意図は感じられない」
エリアスの言葉は、この場にいる者全てに賛同されるものだった。
軍や財務関係者には特にだ。
軍隊というものは国防のために必要である。
しかし、平時には無駄飯食らいに思われてしまう。
領主なら日頃の出費を抑えるために、できる限り減らしておきたいと思うところだ。
なのに、私兵の拡張を自分から申し出るというのは、利益を国益のために使う意思があるという事。
「私利私欲のため、ブリストル伯爵家に策略を仕掛けた」という、ロジャーが主張する内容の大前提が崩れてしまう。
「しかし、きっと――」
「どのような理由がある? 他家の当主を暗殺し、当主を交代させるだけの理由があるか? 欲に目が眩んだのはそなたの方に思えるぞ」
「それは……」
ロジャーは言葉が詰まってしまう。
――ウェルロッド侯爵家に私利私欲はない。
――ブリストル伯爵家にも、ドワーフとの取引が上手くいくように手伝おうとしていた。
――決定的な証拠だと思っていたメモも、勘違いだった恐れがある。
――執事長が聞いた話も、言葉通り仲良くしようとしていただけ。
アイザックを追及する材料が無くなってしまった。
それどころか、自分がとんでもない勘違いをしてしまったのではないかと思い始めた。
「ブリストル伯。僕はコンラッドさんからあなたの事を聞きました。お陰で腹違いの兄弟でも、こんなに仲良くなれるんだと感動しました」
アイザックは悲しみに満ちた表情で、微かに体を震わせながら続ける。
「なんでコンラッドさんを信じてあげなかったんですか?」
「それはお前が……、くっ……」
ロジャーは視線をアイザックから逸らす。
――コンラッドがアイザックと会った。
それだけで「絶対に何か良からぬ事を話していた」と思い込んでしまった。
ドワーフとの取引が上手くいけるように話し合っていたと言われても「そんなはずはない」と考えてしまっていた。
だから、コンラッドが裏切ったと確信を持ったのだ。
ロジャーが考えた事は、アイザックが「こうなるだろう」と予測しての行動だった。
以前、アイザックは自分がジュードの影を重ねて見られている事に気付いた。
曾祖父の恐怖心を利用し「アイザックが突然訪問したのだから、何もしていないはずがない」という疑心暗鬼を生み出した。
かつてジュードが敵国の従属国に使った方法を模倣したものだった。
『ジュードが訪れて、世間話だけをして帰るはずがない。そんなつまらない言い訳をするなんて、本当は話に乗って裏切ったんだろう!』
そのようにジュードが訪問した国を疑い、敵国は同士討ちを始めた。
今回はそれのアレンジだ。
アイザックは訪問するだけでは手緩いと思い、黒く塗り潰されたメモを残していった。
きっとそれでブリストル伯爵家は混乱し、ドワーフとの取引どころではなくなると思っていた。
さすがに、コンラッドを殺すとまでは思っていなかったので、そこは計算違いだったと言える。
だが、目的を達成したという点では、最高の出来だった。
「陛下、こういう事は申し上げたくないのですが……。ブリストル伯爵領に作る交易路の件、一時凍結した方がいいんじゃないでしょうか? 勘違いで仲の良かった弟を殺すような方に、ドワーフとの交易を任せるのはちょっと……」
「確かにそうかもしれんな」
「陛下! それはあんまりです!」
エリアスがアイザックの意見に同意したのを見て、ロジャーが抗議する。
しかし、エリアスが片手を上げて、それを制止した。
「弟を殺さず、事実を確認するまで捕らえておくだけでもよかったのではないか? 処刑するのは急ぎ過ぎだったな。ドワーフと問題が起きた時の事を考えると、短慮性急な者には任せられん。当面の間はウェルロッド侯爵家に一任するべきだろう」
「…………」
ロジャーは何も言い返せなかった。
勢いでコンラッドを殺してしまった事は否めない。
「ドワーフ相手にも同じような事をするのではないか」と言われれば、否定し辛い状況だった。
本当にコンラッドが裏切っていたのなら、何も問題はなかった。
しかし、裏切っていたかどうかわからなくなった今、処刑したという事実がロジャーに強い逆風となって吹きかけていた。
「アイザック、そなたの疑惑は晴れた。下がってよい」
「僕のせいで陛下のお心をわずらわせてしまい、申し訳ございませんでした。失礼致します」
アイザックはランドルフとモーガンに連れられ、謁見の間を出ていった。
上手くいくとわかっていたが、さすがに安堵の溜息を吐く。
「大丈夫でしたか?」
外に出ると、ベンジャミンとグレンが心配そうに駆け寄ってきた。
「ブリストル伯が勝手に勘違いしただけだ。何もお咎めはない」
モーガンが答えると、二人もホッと溜息を吐く。
グレンはアイザックが何もしていない事を知っていたが、それでも「実はどこかで何かやっていたのでは?」という心配もしていた。
お咎め無しと聞いて心底安心する。
「さぁ、帰ろう」
ランドルフの言葉で、一同は馬車へと向かう。
そして、馬車に乗り込み始めたところで、ベンジャミンがモーガンを止める。
「閣下、朝の報告は済まされたのですか?」
「……あっ!」
エリアスに報告するために人が集まっていたからこそ、ブリストル伯爵も断罪の場として選んだ。
だが、一連の流れでモーガンは、エリアスに報告する時間だった事を忘れてしまい、そのまま帰ろうとしていた。
「そうだった! 私は戻る。お前達だけで帰ってくれ」
「わかりました。お爺様、お父様ご心配をお掛けしてすみませんでした」
「ブリストル伯が勝手に誤解しただけだ。お前は悪くない」
ランドルフがアイザックを慰めるように優しく抱き締める。
だが、モーガンはアイザックをジッと見つめていた。
「……本当にブリストル伯の誤解なんだな?」
「もちろんです! グレンが証人です。僕は何も悪い事をしていないよね?」
「はい。それどころか、アイザック様がよからぬ企みを持ち掛ける暇もないほど、コンラッド様はブリストル伯の良い所を話し続けておられました。何も後ろ暗い話をしていなかったと断言致します」
急に話を振られたものの、グレンはしっかりとアイザックが何も仕込んでいない事を証言した。
「疑ってすまなかった。ブリストル伯にはしっかりと抗議しておく」
モーガンは「考えすぎだったか」と反省する。
「いえ、いいんです。僕も曽爺様のようになりたいと言ったりして、誤解させてしまったのですから」
疑われた事を気にせず笑顔を向けるアイザックに、モーガンは頭を撫でてやった。
「では、私は陛下のもとへ行く」
「お仕事頑張ってください」
「ああ」
軽く別れの挨拶を交わすと、アイザック達は屋敷に帰っていった。
エリアスを待たせるのも良くないので、モーガンは見送る事なく謁見の間に向かおうとする。
そこで、先ほどアイザックが言った言葉を思い出した。
『僕も曽爺様のようになりたいと言ったりして、誤解させてしまったのですから』
モーガンは馬車を振り返った。
(そういえば、父上も話をしに行っただけで二つの国を争わせた事がある……)
――もし、誤解でなければ?
――もし、アイザックがジュードと同等の頭脳をすでに持ち合わせていたら?
――もし、こうなるとわかっていて、普通の話をしただけだったら?
それは、今回の件を意図的に仕組んだ可能性がある事を意味する。
その事に気付き、モーガンは背筋が寒くなる。
(いや、ブリストル伯爵家に仕掛ける理由がない。勝手に仮定の話を考えるのはよろしくない)
モーガンはかぶりを振って、今思い浮かんだ事を忘れようとする。
アイザックは金が欲しいわけではなさそうだ。
利益を独占したいという目的がない以上、ブリストル伯爵家を罠に嵌める理由などない。
アイザックがわざとやったとは思えない。
(いかんな、私までアイザックに対して疑心暗鬼になっている)
「孫の成長が早いのは嬉しいが、早すぎるのも考えものだ」と、モーガンは空に向かって深い溜息を吐いた。
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