GWにショッピングセンターにて ②
おかしな雰囲気でも、周りは通常通り動いている。
僕以外は、この場がおかしな雰囲気になっていることに気づいていないようである。
母さんと父さんに合流するために、地下へと向かう。
その最中に僕はおかしなものを見た。
音が消えている空間。
不思議と周りに誰もいない場所で――なぜか踊り狂っている人たちがいる。
こんな場でただの売り場の中で、急に踊っている人たちがいる。しかも生気がないというか、何だか、本人達も何も考えていないように見える。
その脇で、ケタケタと笑っている存在がいる。
その存在があまりにもこの場に似合わなくて……僕は思わずずっこけそうになる。この前の女神降臨の時とは違って、周りの時間を止めているわけでもない。
だけれども、そこに当たり前のように存在していて、誰にも違和感を持たれていない。
……やっぱり色々とおかしい。
なんとか平常心を保って、僕は両親と合流しに向かう。その間、視線さえも向けなかったけれども……ただやっぱりチラ見したその存在はおかしい。
恰好も見た目も何もかもおかしい。
なんでこんなところで、ドレスなんて身にまとっているのか。
それでいてその真っ白な髪もひどく目立つ。
これだけ綺麗な人がいれば騒がれるのが当然なのに、そういう風にならないのは多分常識改変でもきいているのだろうとおもう。それを行っているのが、あの不思議な存在なのかは分からないけれどとりあえず俺は無視することにした。
「母さん、父さん」
「博人、買いたいものは買えたか?」
「うん」
母さんと父さんは普通に買い物をしていてほっとする。
このショッピングセンター自体の雰囲気は相変わらずおかしい。異質で、その異質さに僕しか気づいていないのも頭を抱えたくなる。
というかもしかしてここに杉山たちもいたりするのだろうか……とそう思ったが、今の所、杉山たちがいる気配はない。
早急にこのショッピングセンターから出て行った方がいいと僕は思った。
「母さん、父さん、買い物を終えたらすぐに帰ろうよ」
「あら、どうしたのよ。そんなに急いで、何か見たいテレビでもあるの?」
「……うん、そうだよ」
本当は見たいテレビなんかなかった。
だけれど、僕の予感がはやくこの場から去った方がいいと言っている。
僕も両親も自慢じゃないが、普通の人間である。
普通の人間なので、魔物だとか、異世界だとか、そんなものに関わって無事でいられるわけなのないのだ。
「ゴールデンウィークは沢山特番番組があるからな。一緒に見るか」
「うん」
……さて、丁度良く見たいテレビがあるだろうか。ちゃんとテレビの番組表をちゃんと見ていなかったのだ。
でも丁度良いのがなかったら、それはそれで上手くごまかせばいいか。帰る前に時間があったら丁度良い時間のテレビが何があるかぱっとスマホで調べよう。
でも買い物中にスマホっていじりにくいんだよなぁ。
話している最中にスマホをしないように母さんにも注意されるし。
そんなことを考えながら、食品の買い物を手伝う。こういう大型スーパーは安いものが沢山あるから、買いだめには丁度良いらしい。
母さん達も色々と買い込んでいたから、荷物は多い。
僕と父さんは買い物したものを手に持つ。母さんもそんなに量を持てるわけではないからな。
「二人が来てくれてよかったわ。こんなに沢山買えたものね」
母さんはにこにこしてご機嫌だった。
僕はそんな母さんを「はやく帰ろう」と誘導する。
母さんと父さんと一緒に出口へと向かう。車で来たので、駐車場にこのまま向かうのだ。
「博人ゴールデンウィークの予定は他にはないの? なにか行きたいところとかあったら連れていくけど」
「いや、特にはないかな。ゲームしたいし」
そう言い切れば母さんに呆れたような目を向けられた。
でもゲームを買ったわけだし、買ったばかりのゲームをひたすらやりたいと思うのは当然だと思う。
話していたら、買ったばかりの新作ゲームに思いをはせてしまう。楽しみで仕方がない。もう常識改変が起こっているというのを抜きにしたとしてもはやく帰りたい。
なんて考えて、先ほど見た変な光景を頭から抜かしていたのが悪かったのだろうか。
異質な雰囲気を醸し出していても、関わらなければ、普通にしていれば関わらずに済むと思っていたのだ。――けれど、そういう風に気を付けていようともどうしようもないものがあるのだと僕は知らなかったのだ。
急に――不思議な感覚になった。
足音が響く。他にも人がいるはずなのに、ただ――その足音だけがやけに響いていた。
やばいと思った。
思ったけれども、此処から慌てるのは得策ではない。そうなったら僕がこの場が普通ではないと気づいていることが悟られてしまうから。
さて、どうしようか。
どうしたらこういうややこしい事態に関わらずに、普通の僕の暮らしを続けられるか。
なんて考えても、仕方がないため僕は平常心を保ったまま、両親と一緒にそのまま歩く。
だけど途中で、両親の言動が止まった。いや、他の人たちだって止まった。
僕も慌てて身体の動きを止める。いや、本当にやめてほしい。こんな歩いている最中に止められるとか、僕もキツイんだけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます