話を聞いて、考察をする日々 ②


 『勇者』――その単語はファンタジー小説が好きな僕は結構よく見かける。

 勇敢なる者。勇ましい者。世界を救う英雄。

 大抵がファンタジー世界だと、『勇者』と呼ばれる者は『魔王』などの悪とされる存在を倒す英雄である。

 そして大体がとてつもなく強い。イメージ的に光属性の魔法や剣を使っているイメージだろうか。




 フラッパーさんが言うには、杉山はその『勇者』らしい。




 他の人が言うのならば何を冗談を言っているんだと笑い飛ばしたかもしれない。だけど杉山たちは不可解な現象の中心にいる人物である。この意味の分からない現状を思うと、本当にそうなのかもしれない――と僕が少し考えてしまうのも当然であった。





 一度目の高校二年生の時に杉山が行方不明になっていたのは、異世界で『勇者』をやっていたから。そう考えると、少ししっくりくる。『勇者』として召喚されたのか、それともたまたま異世界に落ちて『勇者』となったのか。そのあたりは分からないけれど、杉山が『勇者』なことを考えるとそうなのだろう。





 それにしても異世界なんてものが本当にあると言う事実に僕は衝撃を受ける。異世界転生ものや転移ものが好きでよく読んではいるが、まさか本当に異世界が存在すると思って読んでいるわけではない。

 そう考えると実は異世界の存在を知っている者もこの世界にはいて、知らない所で戦っていたり――なんていうラノベでよくありそうな展開もあったりするのだろうか。










「ひかる殿、この世界はとても平和ですな」

「そりゃそうだよ。向こうみたいに魔物はいないから」

「でもそうなると剣の腕が鈍ってしまいます。ひかる殿、手合わせお願いできますか」

「うん。もちろんだよ」






 平和なのを分かってるというのに、剣の腕が鈍らないために手合わせをするらしい。





 当たり前のように頷く杉山に僕は、何とも言えない気持ちである。明らかに強そうなトラジーさんが手合わせを頼むぐらいの腕を杉山は持っているらしい。……トラジーさんたちがこのままこの世界に骨を埋める気ならば、もう異世界の常識何て忘れた方がいいのではないか? と正直思うが、剣にいきてきたみたいなトラジーさんにとってはそれはやりたくないことなのかもしれない。





 もちろん、これは僕の想像だけど。





 それにしてもどこでその剣を振り回す気なのだろうか。警察に見つかったら捕まるだけなのだが、多分常識改変で捕まる事はないのだろうな……。教室にぐらい剣を持ってこないようにしてほしいと僕としては思うので、杉山に「……剣を置いて行くように言え」と念を送る。もちろん、届くわけはない。

 うん、僕は色々な情報を杉山たちから聞かされ続けて疲れているのかもしれない。







「ひかる、私も魔法の練習をしたいわ。一緒にやりましょうよ!」

「うん。そっちももちろん」








 魔法かぁ……なんて思いながら僕は平然をよそいながらも遠い目である。





 この常識改変も十分超次元的な能力が使われているように見えるが、魔法と呼ばれるものが実在すると思うと少しのワクワクと恐怖を抱く。僕はそういう世界が好きだから魔法が実在する事にはワクワクするけれど、一般人の僕にそういう意味の分からない力が向けられたら……と思うと恐怖しかない。






 それにしても『勇者』と呼ばれるだけあって、杉山は魔法も堪能な様子である。これはあれかな。聞いている会話とよく読む『勇者』もののテンプレからすると、フラッパーさんは『勇者』を召喚した国のお姫様とかで回復魔法を使えるとかそういうやつで、ルードさんは見た目がっつりエルフだし大魔法使い的な奴なのだろうか。

 それでトラジーさんは、護衛とかいっているから国の騎士団長的な感じなのだろうか。






 この四人で魔王を倒しましたという英雄なのだろうか。それとも他に仲間はいたけれど地球についてきたのが三人なのか。




 そのあたりは分からないけれど、そう考えるとしっくりくるから不思議だ。






 もし僕以外にこのおかしな状況に気づいている者がいれば、大騒ぎになること間違いなしだろう。……本当に何で僕には影響がないのかがさっぱり分からない。








 ちなみに勝手に聞こえてくる情報から、杉山たちの事情がなんとなくつかめてきているがそれは僕の頭の中に留めている。

 どこかにメモしたりと記録に残して後からややこしいことになるのは勘弁したい。そもそも本当に『勇者』とかそういう存在だったとしても関わりたいとは思わない。






 考察するだけならタダなので、全部頭に留めて「へぇー」と思いながら聞いておくことにしている。突っ込みどころが多すぎて心の中でも全部突っ込んでたら疲れてしまうしね。









 そしてその日の夕方、本屋に寄って帰宅する途中に水の弾みたいなのが空に上がったのを見て、ルードさんが何かやっているのかな……なんて普通に思った僕は大分この状況に適応してきているのだと思った。




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