話を聞いて、考察をする日々 ③

 水の弾の正体はすぐにわかった。

 翌日になって、ルードさんと杉山が意気揚々と話していたからである。

 それにしても魔法で周りに違和感がないようにしているとはいえ、そういう話を堂々としすぎではないか? とそんな風に思ってしまう。



 そもそもこの世に絶対はないわけで、その効果が本当にすべてにきいているのかというのは分からないものであろう。

 全部効いてないやついるかもしれないじゃん。僕みたいに。僕みたいに。




 大事な事なので二回いったけどさ、もう少し杉山たちは周りを警戒したほうがいいのではないかと思う。というか、これ僕には違和感がないように聞こえているし、録音して誰かに聞かせたらそのままその内容が聞こえるんだろうか?

 そうなったらこいつら大変なことになりそうだな。……いや、まぁ、やらないけれど。






 そんなことをして僕の平凡な生活が崩れてしまうし。そもそもそんなことしたら面倒なことになる未来しか見えない。絶対に嫌だ。








「――この世界にも魔物がいれば鍛錬を積めるのですが、いや、平和なのは良いことですが」

「はは。ザールはいつも鍛錬をしていたもんな。でも今度、向こうに戻ったら魔物退治が出来るだろう?」








 ……向こうって異世界? また異世界に行くの?

 というか、異世界とこの地球って簡単に行き来出来るの? 怖すぎるんだけど。




 異世界ってどうやっていくものなんだろうか。漫画とか小説とかだと、色んな手段で異世界に行く。中には異世界に行き来出来る系の物語も確かにある。移転者などの乗り物に乗って移動したり、ゲートのようなものをくぐったり、あとは特定の場所からのみ移動できたり――。






 僕はそういう異世界ものも楽しんで読んでいる。だけれど、やっぱり現実となると異世界と行き来出来るというのは色々恐怖と不安の方が勝る。やっぱり制限とかあるものなのだろうか? でも制限なしで、向こうからも来れるとしたらヤバいのではないだろうか。





 そう言う人たちも、アレなのかな。やっぱり周りに気にされないような何か常識改変されるのかな。そうしないと、騒ぎになるだろうし。それさえも僕は聞こえちゃうのだろうか。杉山たちだけでも突っ込みどころ満載なのに、益々突っ込みどころが増える? 僕の平常心が試されるのとかそんな感じ?






 それにしても魔物かぁ。魔物ってやっぱりファンタジーの小説や漫画に出てくるようなものなのだろうか。それとも僕が知らないような特性を持った生物でもいるのだろうか。

 そういうのは少し気になるから、杉山たちからの話でそれが分かるのは楽しいかもしれない。でも魔物もこっちの世界に来たら怖いな。






 これで戦う力がある人間なら、戦おうとするのかもしれないけれど、僕はそういうのは普通に無理な文系人間なので、そういうのはやめてほしい。









「ひかる、魔物退治もいいけれどお父様もゆっくりお話ししたいとおっしゃっていたから、時間をもらってもよろしくて?」

「ああ。もちろん!」






 フラッパーさんがお姫様ならお父さんというのは、王様か? その王様と会うのも当たり前みたいにしているってことは、それだけ杉山が王様と会うことも日常的になっているということだろうか。



 こちらの世界では一般生徒で、異世界では『勇者』で王様とも出会う――なんともまぁ、主人公だなぁと思う。






 とはいえ、杉山はこの学園でも有名人で、人気者で、何か特別な雰囲気があるからそこまで違和感はないけれど。でも僕は本当に目立たなくて、周りから注目などされない存在が実は……みたいな展開も好きなんだよな。

 あくまで物語の上では……だけど、現実でこんなことがあるのは正直、突っ込みどころが多すぎて仕方がないから。








 異世界転生や転移物は沢山物語として紡がれていて、沢山のパターンがある。こうして実際に異世界に転移したらしい杉山を知った後に読むとまた違った妄想が出来て、面白いかもしれない。そう思うと、少し新しく異世界物を読むのが楽しみになってきている。




 杉山たちに聞こえていることなどを悟られたくはないと思っているが、ただ聞いている状況は慣れてくると少しだけ楽しさもある。まぁ、何で僕にだけきいていないんだろうという気持ちも当然あって、周りと同じように気にならなくて済むなら気にしない方が楽に生きやすいだろうけれど。





 そういえば、フラッパーさんたち三人は、聞こえてくる身分や見た目からパーティーでどういう役割なのかなんとなく想像しやすいけれど、『勇者』である杉山はどういう戦い方なのだろうか。やっぱり正統派の『勇者』なのだろうか。






 そもそも何をもって『勇者』と定義するのか。

 召喚されたから『勇者』なのか、それとも勇者の剣的なものがあるのか、神様みたいな存在に任命されるのか、何かを倒したからこそ『勇者』と呼ばれるようになったのか――そのあたりも杉山たちはべらべら話しそうだから、そのうち分かるだろうか。




 ただ勝手なイメージとしては、やっぱり正統派な光魔法とか使いそうな剣で戦うイメージかな、杉山は。



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