はじまりの日 ⑤
「なあ、この後どうする?」
「ファミレスいかない?」
「久しぶりにさ、買い物しようよ!」
始業式というのは昼で終わる。
というのもあり、始業式が終わった後の教室では放課後に遊びに行こうという会話が沢山なされている。
僕? 僕は友達もいないし、そんな会話はしないよ。とりあえず混乱してばかりだから、家に帰って自分の気持ちを落ち着かせようと思っている。
ちなみに、杉山たちも放課後の話をしていた。
「ひかる、この世界のことをもっと教えてくださいませ!」
「私もこの世界のことに興味があるわ」
「もちろんだよ。一緒に出掛けよう」
杉山はフラッパーさんと、ルードさんに誘われていた。
左右に美少女を二人も引き連れている杉山はまさしく両手に花といった状態である。ちなみにトラジーさんに関しては、フラッパーさんたちの意見に従う気なようで、何も口を開かない。
一日だけ見ていても分かるけど、これって杉山にフラッパーさんとルードさんが惚れているって感じなのかな。しかもフラッパーさんたちの発言を見るに何だか異世界から来たみたいなことを話しているし。
……これだけほれ込んでいるのを見るに、フラッパーさんとルードさんは杉山を追ってここまでやってきたのだろうか。
疑問点は尽きない。
此処で好奇心旺盛な人間だったり、この世界の謎を解き明かすみたいな使命感に燃えていたら、杉山たちの事を追って、もっと情報を集めたかもしれない。
けれど、僕にはそんな余裕もない。そもそも、それをすることによってもっと面倒なことになるのは勘弁してほしい。
そういうわけで僕は杉山たちが教室から楽しそうに出ていくのを見ながら、帰宅することにした。
……周りを見ても、何も変わらない。
去年の僕の記憶と全く変わらない光景が広がっている。
商店街には人が溢れていて、家までの道も変わらない。
ああ、でも一度目の二年生を終えた後では、工事中だった場所がまだ工事中ではない。うん、やっぱりこの世界は巻き戻っている。
そして原因は明らかに杉山を含むあの四人だろう。
何が原因で、どうしてそんなことになったのかというのは僕が理解出来る範疇をとっくに超えてしまっている。
寄り道をすることもなく、僕は家にたどり着いた。
「おかえり、博人」
「ただいま」
母さんに迎え入れられて、部屋へと向かう。
昼ご飯は今から母さんが準備してくれるらしい。……去年の新学期は僕は何をしていただろうか? 当たり前のように過ごした日常なので、正直覚えていない。
ただ少なくともこんなに急いで家に帰る事はなかった気がする。正直、面倒な事には関わりたくないから、なるべく僕にとっての一度目の日常と変わらないようにしていきたいと思うけど、結局少しは変化するんだろうな。
どっちにしろ、杉山がいる時点で色々アレだし。
ベッドにごろんと寝転がり、ぼーっとする。
今日の事を考える。
目が覚めた時から、一年さかのぼっていた。そのことは母さんも父さんも気づいていなかった。ニュースやスマホも一年前だと示していた。
……日本だけが一年前と錯覚している? なんてこともあったりするのだろうかなどと馬鹿みたいなことを考えて、スマホで色んなニュースを検索する。そういうことはないらしい。去年僕が見た海外のニュースを発見した。世界的に一年さかのぼっているのは確実のようだ。
いや、でも本当に僕だけがその謎の力の影響を受けていないということがあるのだろうか。それとも世界がというより、僕に何らかの影響があってこうして僕だけ去年を知っているつもりになっているのか。
まぁ、どちらにせよ、僕だけおかしいのは変わりがないだろう。
僕以外にも誰かいるのならば、どこかに情報をあげてたりしないだろうか。冗談でも……と思ってスマホで色々検索をかけてみるが、出てこなかった。ループ物のネット小説などが出てきた。気晴らしに読んでみる。
なんだかこういうループ物って元々の人生を変えるっていうのが多いなぁ……なんて思う。
そうしているうちに母さんから昼食で呼ばれた。
昼ご飯は炒飯だった。母さんから始業式の話を聞かれる。……杉山の事を誰かに話したい気持ちはあったが、当たり障りのない言葉をかえしておいた。
炒飯を食べた後は、部屋に戻る。
あとはそうだ、フラッパー王国というのも検索しておこう。
多分出てこないだろうけど……と思いながら検索をかける。当然そんなものはない。この世界には沢山の国があって、僕の知らない国も多くあるが、それにも該当しない。
やっぱりなんか魔法とかそういう感じの謎の能力でもあるのだろうか……?
こういう状況に気づいた当日――当然だが、何があってこんなことになっているかは分からない。
けれどまぁ、僕は目立たないように普通に過ごそう。明日から僕は突っ込みたくて仕方がなくなるかもしれないけれど、そういうものだと受け入れよう。
どちらにせよ、杉山たちがいるのが当たり前と認識されているのならば、来年も杉山たちは学園にいるだろうし。
僕は考えても仕方がないと、杉山たちのことを考えるのをやめた。
そして僕は漫画を読み漁ることにした。
そうして過ごして、僕の変化したはじまりの日は終わった。
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